2つ目のアルバイト先となったのが。宅配便の仕分け現場だ。アルバイトをかけ持ちすれば「週28時間以内」という法律に違反してしまう。だが、留学生を雇う側も、留学生を詮索しようとはしない。人手不足のなか、せっかく見つけたアルバイトに逃げられては困るからだ。
仕分け現場での仕事は週3日、夜8時から翌朝5時までやることになった。弁当の製造工場のアルバイトと合わせると、フーンさんの収入は月20万円を超えた。だが、週6日も夜勤をしていれば勉強に身が入るはずもない。
学校に行くと、留学生の大半は机に突っ伏したままだ。皆、フーンさんと同じように夜勤のアルバイトに明け暮れているからである。それでも教師も全く咎めようとはしない。きちんと学費を納めているかどうかにしか関心がないのである。
フーンさんの日本語学校は、民間の古いアパートを借り上げて寮に使っている。風呂とトイレは共同で、広さは6畳程度。駅からも徒歩で20分ほどかかり、せいぜい月3万円程度の物件だ。そんな部屋にフーンさんは3人で住み、1人月3万円を支払っている。日本語学校がボッタクっているのだ。
「ベトナムに帰りたい…」
フーンさんは泣き出しそうな表情になって訴えてきた。だが、借金を残したまま彼女がベトナムへ戻れば、家族は破産してしまう。彼女には、日本で学費を納めながら「奴隷労働」を続けるしか選択肢はないのである。(続く)
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出井康博 いでい・やすひろ
1965年、岡山県生まれ。ジャーナリスト。英字紙「ニッケイ・ウィークリー」記者などを経てフリー。著書に『松下政経塾とは何か』(新潮新書)、 『長寿大国の虚構—外国人介護士の現場を追う—』(新潮社)など。『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)を7月21日に上梓。