舗道に立つうちに、押し寄せる群衆にたちまち呑み込まれた。遠くで誰かの声が響き、それを皆が繰り返して次第に大きな掛け声の波になる。「言い続けよう・抵抗しよう」…。
1月20日、久しぶりに青空が広がったニューヨークで行われた「ウィメンズ・マーチ(女性たちの行進)」の光景だ。
ウィメンズ・マーチは、ほぼ1年前のこの日、トランプ大統領の就任宣誓式の翌日に全米で実施された。参加者は人権擁護から環境問題・同性愛者の権利までさまざまなテーマを訴えたが、やはり人々を路上に押し出した大きな理由は、女性差別的な言辞がかねて批判を集めていたトランプの大統領就任である。そこでこのイベントが「トランプ批判」の大きなうねりとして注目されることになった。
今年マンハッタンでは、高齢の女性も目についた。その多くは、1960年代の政治の時代に青春期を送った人たちなのだろう。みなファッショナブルで、背筋が伸びていて、きっぱりと高くプラカードを掲げている。男性の参加者も多い。子供連れもたくさんいる。年齢も人種も千差万別ながら、切羽詰まった余裕のなさとは無縁で、誰もがお互いを気づかっている。
行進が動き出すと、誰かが合図を取って群衆が声を揃える。
「憎まない。恐れない。移民を迎え入れよう (No hate. No fear. Immigrants are welcomed here)」。
「主張せよ!抵抗せよ!言い続けよ! (Insist! Resist! Persist! )」。
とくに耳に残ったのは、この掛け声だ。
「これが民主主義の姿だ(This is what democracy looks like)」。
確かに種々雑多な人々が集まって異議申し立ての斉唱にいたる光景は、そう自称してよいかもしれない。多様性の中にこそ美しさがあり強さがある、というアメリカの詩人の言葉が頭をよぎる。