しかし行進がマンハッタンの中心部にさしかかったとき、ちょっとした事件が起きた。トランプ支持者たちが現れたのだ。
サングラスをかけた逞しい男性が大きな旗を高々と掲げている。旗には「ふたたびアメリカを偉大に (Make America Great Again)」というあの選挙戦のキャッチフレーズが大書されている。隣では「女性もトランプを支持」とプラカードを振りまわしている女性がいる。また別の男性は「アメリカを偉大にしつづけよ (Keep America Great)」という文句を掲げ、三年後の大統領選挙でのトランプ再選を訴える。
このグループに遭遇した行進者たちの表情が硬くなるのがわかった。参加者たちから「恥を知れ!」と激しい罵り声が飛び、興奮した若い女性がつばを吐きかけようとする。トランプ支持者たちは「お前たちは洗脳されているだけだ」と罵声を返す。
「洗脳」とは、トランプ批判はメディアの報道を真に受けているだけだ、というこころだろうか。トランプ支持者たちの中には「リベラルなメディアを信用するな」と書いたプラカードを振っている人がいる。
しばらく罵声の応酬が続いたあと、誰かが両者を押しとどめ、行進が再開された。トランプ支持者は旗を振り、群衆はそれを無視して歩みを進める。
もとより、現れたトランプ支持者はごく少人数にすぎない。ニューヨーク市の発表で参加者が20万人にのぼるというウィメンズ・マーチの大群衆の前ではかき消されてしまう小さな声だったし、米国のメディアでも全く言及されなかった。