アメリカで黒人男性が白人警官に首を圧迫されて死亡した事件から抗議運動が広がり、初の黒人女性副大統領候補が指名されるなど、黒人に注目が集まる中で、「日本は黒人の入国を厳しく制限している」という情報が拡散している。日本が定めた入国条件やビザ申請要件に人種による違いはなく、これは誤りだ。(丹羽智佳子)
【誤り】 日本は「出入国管理及び難民認定法」で入国・上陸拒否理由を、法務省が永住者と定住者などの在留許可の基準を定めているが、いずれにも人種による基準の差異は設けられていない。
880万人の会員が登録している中国の動画共有サイトで、2020年6月8日、「小土豆在日本」と名乗る会員が日本の人種差別を提起する動画をアップした。
「東京には黒人が少なく、他の国と比べて黒人の入国条件が厳しい」として、黒人の日本への入国には4つの条件―①日本語能力試験N3以上、②正式な仕事がある、③(永住および定住ビザを取得するために)IQが115点に達する、④伝染病なし―がある、と主張する内容だ。
8月時点で2.9万回再生された。中国版SNS微博(Weibo)でも拡散され、「賛」(いいね)が1100以上となった。
では、日本は黒人の入国条件を厳しくしているのだろうか。まず、外国人の入国条件について定めた「出入国管理及び難民認定法」を調べた。
同法は第3条で外国人の入国拒否理由として2項目、第5条で上陸拒否理由として14項目の計16項目を示している。
動画では、黒人の入国条件として「①日本語能力試験N3以上」「②正式な仕事がある」と述べているが、法律上そのような記載はない。技能実習制度では「日本語能力試験N3以上」という基準があるが、これは人種と全く関係はない(技能実習制度運用要領参照)。在留資格によって正式な就労が必要なものはあるが、これも人種と全く関係はない(在留資格一覧表参照)。
16項目のひとつに「一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症若しくは指定感染症又は新感染症の所見がある者」(第5条1号)があり、動画で述べている「④伝染病なし」という条件に関連しているように見えるが、それに該当する外国人は全て入国拒否されるので、人種とは関係ない。
残りの「③(永住および定住ビザを取得するために)IQが115点に達する」という条件についてもみてみる。
まず、「永住者」の在留資格を許可する基準については、法務省が永住許可に関するガイドラインで「素行が善良であること」「独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること」など3条件を定めている。IQは要件になっていないし、人種と関係がない。
次に、「定住者」の在留資格を許可する基準についても、法務省が告示で、ミャンマー難民や日系2世・3世など8種類を定めている。この中でも、IQは要件に入っていないし、人種に関する規定もない。
そもそも、在留資格取得許可申請の必要書類には、人種についての質問や書類は含まれていない。
結論
以上の通り、外国人が在留資格取得許可を申請した場合の審査基準に、人種の違いによる差別的な取り扱いは入っていない。
よって、「日本は黒人の入国を厳しく制限している」は誤りと判定する。
(インファクトはFIJの新型コロナ国際ファクトチェック・プロジェクトに参加しており、この記事にはFIJリサーチャーのユウセンブン氏の協力を得ました。)
(冒頭写真:黒人男性ーpixabayより)