大阪府の吉村文洋知事が「ポビドンヨード」入りのうがい薬の新型コロナウイルスへの効果を発表したことが騒ぎになっている。吉村知事は効果について今後調査をするものだと、事実上発言を修正しているが、大事なことは私たちが不明確な情報に惑わされないことだ。実際、新型コロナの発生からのこれまでを見ると、「これがウイルスに効く」とする様々な誤った情報が世界中で拡散している。このタイミングで、それらをあらためて見ておきたい。(安藤未希、立岩陽一郎)
ファクトチェックを世界に広める活動を行っているIFCN(国際ファクトチェックネットワーク)には、各国のメディアから新型コロナに関するファクトチェックの結果が報告されて、それがデータベースとなっている。その内容は翻訳されてインファクトも加盟しているFIJのwebサイトに掲載されている。それを見ると、どれだけの誤った情報が世界で拡散したかがわかるが、その中で、特に注目したいのは「新型コロナにこれが効く」とした誤った情報だ。以下、その内容を抜粋して紹介する。
先ず目立つのは、水や蒸気などが効果があるとするもの。新型コロナが猛威を振るい始めた初期の段階から4月頃まで各国で拡散している。台湾で、「新型コロナウイルスは高温に耐えられない。摂氏56度で30分間で死滅する。エタノールが有効。暖房とエアコンをつければ良い」が拡散。スペインでは、「水蒸気を5分間吸引すると、コロナウイルスが不活性化される」とされた。また、アメリカでも、「唐辛子とオレンジの皮を茹でて沸騰させ、その鍋の上で蒸気を吸い込むと鼻から粘液が流れ落ちる。粘液に住みついているウイルスを除去できる」や「ドライヤーから出てくる空気、またはサウナ室内の空気を吸うことによってCOVID-19を予防・治療できる」が拡散した。
日本でもニンニクは健康食として人気が高いが、ニンニクが新型コロナに効くというものも多く拡散している。韓国では、「中国政府が公式文書で「ニンニクは新型ウイルスの予防に効く食品である」と発表した」との情報が広まり、ブラジルでは、「ニンニクとレモンとジャンブー(アマゾンのハーブの一種)を煎じ出したもので、新型コロナウイルス感染症を治療できる」が拡散した。
加えて玉ねぎが効くという情報も。ガーナでは、「生のタマネギを噛むとコロナウイルス感染症が治る」との情報が出回り、トルコでは、「丸ごとの玉ねぎを室内に置いておくと、空気中のウイルスが吸収される」との情報が拡散している。
アルコールを中心とする嗜好品に効果があるとするものも拡散した。スペインでは、「ワインを飲むことは新型コロナウイルス感染症を避けるために有用な可能性がある」、アメリカでは、「ドイツの代表的なウイルス研究者Jürgen Rissland氏は、新型コロナウイルス感染症に対抗するためにウイスキーを飲むことを推奨した」など。これらはアルコールの消毒作用を過大に評価したものかもしれないが、そのような事実は確認されていない。
特定の物質を摂取することに効果があるとするものも出回った。 アメリカでは、「コロイド銀の摂取は新型コロナウイルスの予防もしくは治療になる」、インドではアルカリ性の食品に効果が有るとして、「pH8.5を超えるアルカリ性の食品を食べるとSARS-CoV-2を死滅できる」とされていた。スペインでは、「ビタミンCとオメガはコロナウイルスを予防する効果がある」という情報が出回った。ビタミンCは効用はどうであれ摂取して悪いわけではない。オメガとは脂肪酸のことを指しているようだ。
これらはまだ問題が無いとも言える。だが身体に有害なものに効能が有るとされたケースも多い。
アメリカでは「漂白剤を飲むことでコロナウイルスの感染を予防できる」という情報が出回った。実際にどれだけの人が実施したかはわからないが、極めて危険な行為だ。トルコでは、「トルコのヨズガトに住むある市民がヨーグルトと石鹸を共に食べると、ウイルスを取り除けた」との情報が出た。ヨーグルトはまだしも、石鹸を食べるというのは当然、止めた方が良い。またイタリアでは、「アメリカのピッツバーグで研究されている新型コロナウイルス感染症に対する新しい予防接種システムは、体内にマイクロチップを挿入するというものである」との情報も。その詳細も根拠も不明だ。
いわゆる違法薬物とされるものに効果があるとして拡散したものもある。インドネシアでは、「タイで新型コロナウイルス患者を大麻で治すことに成功した」。インドでは、「コカインによってコロナウイルス感染症を治療できる」との情報が拡散した。
これらは各国で、もしくは国を越えて拡散したもののうち、それぞれの国や地域のファクトチェック団体が検証していずれも誤りや根拠不明とした内容だ。水や蒸気の効用についての誤った情報は日本でも拡散していた。
こうした誤った情報の拡散は、人々の新型コロナへの恐怖から来るものなのかもしれない。身体に有害な物質にいたっては迷信に近いが、人々が死の恐怖の中で何かを信じたいという衝動に駆られることは驚くべきことではない。
また、冒頭に紹介した蒸気などの事例は、一部専門家から聞かれる「新型コロナは高温多湿と紫外線に弱い」という説明と関連している可能性も有る。実際には、それは立証されておず、WHOはそうした事実は確認されていないと警鐘を鳴らしている。
吉村知事の「ポビドンヨード」入りのうがい薬については、確定的ではないというだけで、これらの誤った情報とは違うという指摘も有るだろう。しかし、何れにしても慎重に見る必要が有る。新型コロナとの共存とは、私たちが誤った情報、或いは確定的でない情報を見抜くことでしか可能にならない。
(冒頭画像:IFCN webサイトより)