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【ハリボテ民主主義】臨時国会召集先送り理由は「法案がない」から? 過去には法案なく召集した例も

【ハリボテ民主主義】臨時国会召集先送り理由は「法案がない」から? 過去には法案なく召集した例も

立憲民主党などの野党が臨時国会の早期召集を求めたのに対し、自民党幹部が「付託すべき法案がない」として国会運営の「慣例」を理由に臨時国会の早期召集を難色を示したという。このような「法案がないときは召集を先送りするという慣例」は本当にあるのか、提出法案がなくても臨時国会を召集した例はないのか、検証した。(田島輔)

臨時国会冒頭で解散となった事例

朝日新聞によると、野党による臨時国会の召集要求に対し、自民党の森山裕国対委員長が「付託すべき法案が定かではない」ことを早期招集を否定する理由として語ったという。赤旗は、「予算案や法律案、条約案件が今のところないので、帝国議会以降の慣例でいえば、国会を開催する状況ではないと思う」という発言を森山氏の言葉として伝えている。NHKも、森山氏が同様の考えを野党側に伝えたほか、参議院幹事長の世耕弘成氏も記者会見「今の段階では審議すべき議案がなく、臨時国会を開く状況にはなっていない。まずは閉会中審査を充実させることが重要だ」と述べたと報じている

しかし、結論から言えば、過去に国会に付託すべき法案がないにもかかわらず、臨時国会を召集した事例はいくつも存在する(臨時国会召集の全事例集はこちらの記事参照)。

例えば、臨時国会を召集し、国会で何ら審議を行うことなく冒頭解散をするような場合だが、このような事例は、これまでに3回ある。いずれも自民党政権により行われたものだ。

  • 1986年、中曽根康弘内閣(5月26日召集要求、6月2日召集、冒頭解散)
  • 1996年、橋本龍太郎内閣(9月9日召集要求、9月27日召集、冒頭解散)
  • 2017年、安倍晋三内閣(6月22日召集要求、9月28日召集、冒頭解散)

初の臨時国会冒頭解散は、中曽根内閣のいわゆる「死んだふり解散」と呼ばれるものだが、この際には、野党議員から「(審議すべき)案件なしの臨時国会は前代未聞」との批判の声があがった。この臨時国会は、与党の自民党議員の要求により、わずか7日後に招集されたものだった。この時、国会で審議すべき案件がなくとも国会を召集するという前例が作られたことになる。

橋本内閣と安倍内閣でも、野党が召集要求した臨時国会冒頭で衆議院解散が行われており、「審議すべき案件が生じていない」状態での国会召集は繰り返されている。

野党の召集要求から98日後に召集された臨時国会の冒頭で衆議院解散が行われ、万歳をする議員ら=衆議院本会議、2017年9月28日(政府インターネットテレビより)

内閣が1本の法案も提出しなかった例も

衆議院ホームページで議案を確認できる1998年以降、野党の要求で召集された臨時国会において内閣から一本も法案等が提出されなかった事例が一度ある。

2000年、野党・民主党議員らの要求に応じて召集された臨時国会(第149回国会)だ。6月に衆議院解散、総選挙があり、7月上旬に召集した特別国会は3日間で閉会。野党側の招集要求から17日後に、森喜朗内閣の決定により招集された。

この臨時国会で提出された法案は9本あり、全て野党議員が提出したものだった。森内閣からの提出法案は1本もなかった(議案一覧)。この国会では、森首相の所信表明演説や代表質問が行われたものの、会期はわずか11日間で、成立した法案は一本もなかった予算案・条約案も提出されておらず、まさに内閣として審議すべき案件はなかったといえるだろう(なお、決算は内閣から提出されている)。

以上のとおり、政府提出法案がなくとも臨時国会が召集された事例は、冒頭解散のケースを含め、少なくとも4回あった。したがって、政府提出法案がなく、付託すべき法案が定かでないというのは、臨時国会の召集を先送りする理由には必ずしもならない。

ただ、国会をいつまでに召集するべきかの明確なルール・基準がない以上、どのような理由を付けてでも、内閣は召集を遅らせることができてしまうのが現状だ。召集期限を明文化する議論はこれまで行われてこなかったのか。次回で検証する。

臨時国会召集要求書(国民民主党HPより)
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