インファクト

調査報道とファクトチェックで新しいジャーナリズムを創造します

【コロナの時代】ワクチン・ナショナリズム最前線 アメリカ

【コロナの時代】ワクチン・ナショナリズム最前線 アメリカ

トランプ大統領やホワイトハウスの側近が新型コロナに感染していたことが明らかになるなど混乱が続くアメリカは、WHOが「ワクチン・ナショナリズム」と呼ぶ一国でのワクチン開発と独占的な供給体制の確立を目指している。その状況をまとめる。(立岩陽一郎)

OWSとトランプ政権の混乱

アメリカのワクチン開発はトランプ政権が設立したOperation Warp Speedと呼ばれる政府と企業が協働でワクチンを開発・分配していくプロジェクトで進められている。このOWSは、2021年1月までにアメリカの3億人にワクチンを届けることを目標としている。

トランプ大統領は、ワクチンの緊急使用承認を指示しており、これについてはFDA(米食品医薬品局)のステファン・ハン長官も、ホワイトハウスで新型コロナ対策を指揮するNIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)アンソニー・ファウチ所長も同意している。しかし、2人とも、ワクチンの安全性の確認が担保されることを条件としており、ハン長官は、もしワクチンの安全性や効果が担保されないまま承認されたら辞任すると発言。これに対して、トランプ大統領がツイートの中で、ハン長官の名前をタグづけた上で、「FDAがワクチンの開発を11月の大統領選挙までわざと遅らせようとしている」と発言して批判するなど、混乱している。

現在アメリカ合衆国で臨床試験の最終ステージである第3フェイス(臨床試験の第三段階)に到達しているワクチン候補は以下の3研究チームのプロジェクト。

  • モデルナ & アメリカ国立衛生研究所
  • ファイザー & BioNTech
  • AstraZeneca & オックスフォード大学

このうちAstraZeneca & オックスフォード大学のプロジェクトは、後述するように、ともにイギリスの企業及び組織だがアメリカ政府が財政的な支援を行うことでワクチン取得の権利を得ている。

進行中の18のプロジェクト

ニューヨーク・タイムズ紙によるとアメリカの政府、団体、企業が関与して開発が進められている新型コロナウイルスのワクチンの分類は大きく分けて4つあり、8月24日現在でアメリカでは主だったもので以下の18のワクチン開発プロジェクトが進行している。以下、それを要約して掲載する。

遺伝子ワクチン (一つ以上のコロナウイルスの遺伝子を使って免疫反応を惹起させるワクチン)

●モデルナ (アメリカ) と 国立衛生研究所 (アメリカ) (第三フェイス) 

●BioNtech (ドイツ)とファイザー (アメリカ)とFosun製薬 (中国) 第二フェイスと第三フェイス)

●Arcturus Therapeutics (アメリカ) と Duke-NUS Medical School (シンガポール) (第一フェイスと第二フェイス) 

●INOVIO (アメリカ) (第一フェイス) 

●サノフィ (フランス)とTranslate BIO (アメリカ) (前臨床試験)

ウイルスベクターワクチン (弱毒性のウイルスをベクターに用いた病気の抗原遺伝子を投与することで免疫を惹起することを狙うワクチン。ウイルスに自己複製する能力はない。)

●AstraZeneca (イギリス)とオックスフォード大学 (イギリス) (第二フェイスと第三フェイス) アメリカ政府が約1270億円援助

●ジョンソン・アンド・ジョンソン (アメリカ) と Beth Israel Deaconess Medical Center (イスラエル) (第一フェイス、第二フェイス、第三フェイス)

●Massachusetts Eye and Ear Hospital (USA) と Novartis (スイス) (前臨床試験)

●Vaxart (USA) (前臨床試験)

③組み換えタンパク質ワクチン (コロナウイルスのタンパク質またはその一部を使って免疫反応を引き起こす。)

●Novavax (アメリカ) (第一フェイス、第二フェイス)

●Clover Biopharmaceuticals (中国)と GSK (イギリス)とDynavax (アメリカ) (第一フェイス)

●Medicago (カナダ)と GSK (イギリス) と Dynavax (アメリカ) (第一フェイス)

●Kentucky BioProcessing (アメリカ)(第一フェイス)

●Medigen (台湾)と Dynavax (アメリカ) (第一フェイス)

●Baylor College of Medicine (アメリカ) とTexas Children’s Hospital (アメリカ) (前臨床試験)

●ピッツバーグ大学 (アメリカ) (前臨床試験)

④全粒子ワクチン (不活化されたウイルスを用いたワクチン)

●Merck (アメリカ) とThemis (アメリカ) と Institut Pasteur (ドイツ) (第一フェイス)

●Merck (アメリカ) と IAVI (アメリカ) (前臨床試験)

クチン開発の過程

ワクチンの開発から承認までには大きく分けて5段階。これは各国どこも同じ流れになる。

  • 前臨床試験 :ワクチンの免疫の効果をネズミや猿などの動物を使って試す。
  • 第一フェイス:健康的な20-100人定度のボランティアに試用して安全性や適切な投与回数などの研究を進める。もし、重度な副作用が発見されなければ第二フェイスに移る。
  • 第二フェイス:数百人程度のボランティアに対する試験であり、高齢者などのより幅広い集団を含みテストをして、集団ごとに違った効果があるかということやさらなる安全性や免疫効果についての研究を進める。
  • 第三フェイス:数千人の人々に試用することで、さらにワクチンの効果や安全性について研究する。アメリカ保健福祉省配下のFDAの基準では30,000人またはそれ以上となっている。しかし、FDAが緊急試用使用許可を出せば10,000人のボランティアへの試験後ワクチンの使用を許可することも可能。
  • 承認(緊急事態承認の場合あり):アメリカの場合、FDAが承認する。

インファクトはFIJ国際ファクトチェック・プロジェクトに参加しており、この記事の取材にはFIJの中村一貴リサーチャーが協力している。

Return Top