自民党の甘利明幹事長が「ここにあるこのスマホ、世界を席巻しているスマホも、3Dプリンターもあの量子コンピューターも、全部日本の発明です。」と発言した。それは本当なのか?ファクトチェックした。 (友長光明、村田風佳、田島輔)<追記あり>
ここにあるこのスマホ、世界を席巻しているスマホも、3Dプリンターもあの量子コンピューターも、全部日本の発明です。
(甘利明自民党幹事長、NHK「日曜討論」(2021年10月17日放送)での発言)
【不正確】 3Dプリンターの発明者は日本人だが、スマートフォンはアメリカのIBM社の発明、商用量子コンピューターはカナダのベンチャー企業が発明であり、発言は不正確だった。
この発言は2021年10月17日のNHK日曜討論で行われた。
甘利幹事長が挙げたスマートフォン、3Dプリンター、量子コンピューターが日本の発明かどうかは以下のとおりだ。
スマホは誰が発明した?
1992年、アメリカのIBM社は、ラスベガスで開催されていたコンピュータ関連の展示会で、画面にタッチパネルを組み込んだ携帯電話「Simon」を発表した(発表時は「Angler」との名称)。その後、1994年に「IBM Simon Personal Communicator」の一般販売が開始している。
この 「Simon」が世界初のスマートフォンといわれていることから、「スマホは日本の発明」という発言は「誤り」だ(ただし、製造は日本の三菱電機が行っていた。)。
3Dプリンタを発明したのは日本人
1980年に、3Dプリンターの根幹技術である光硬化性樹脂を使用した「光造形法」を発明したのは、名古屋市工業試験所で働いていた小玉秀男氏だ。ただし、「当時作れたのは丸太小屋みたいなレベルの家の模型」であり、発明の将来性が周囲に認められることはなく、最初に3Dプリンターの実用機を開発したのは米国企業となってしまった(参考)。
そのため、初めて3Dプリンターを実用化した国はアメリカ企業であるものの、根幹技術の発祥は日本発祥であって、「3Dプリンタを発明したのは日本」との発言は「正確」と言えるだろう。
量子コンピューターを発明したのは?
量子コンピューターとは、「量子力学」を計算過程に用いることで従来型コンピューターを大きく超える処理能力を実現した次世代コンピューターだ。
量子コンピューターを初めて実用化して販売したのは、カナダのベンチャー企業「D-Wave Systems社」であり、同社は世界初の量子コンピューター「D-Wave One」を2011年に発売している。
もっとも、量子コンピューターの開発に日本人が大きな貢献を果たしたことは事実だ。
D-Wave System社が実用化した量子コンピューターの原理は「量子アニーリング」と呼ばれるものだが、1998年にこの概念を初めて提唱したのは、東京工業大学の西森秀稔教授と当時大学院生の門脇正史氏だった。
また、量子コンピューターの動作単位となる素子である「量子ビット」の開発にも、東京大学の中村泰信教授と東京理科大学の蔡兆申教授が大きな貢献を果たしている。
日本人が重要な役割を果たしたとしても、量子コンピューターがカナダで発明されたものである以上、「量子コンピューターが日本の発明」とまでは言えず、この発言は「不正確」だろう。
スマートフォンの発言について自民党本部に取材を行っているが、10月23日現在で回答は無い。回答があり次第、掲載する予定だ。
追記:自民党からの回答
自民党本部からは「10月23日現在で回答は無い」としていたが、記事の掲載後、以下のとおり回答が届いたので追記する。
・スマートフォン
スマホは、電話機能のみならず、インターネットと接続することにより様々な機能を実現していますが、世界初の携帯電話IP接続サービスはNTTDoCoMoのiモードであると承知しております。なお、世界初のスマホと呼ばれる「IBM Simon」は、三菱電機が製造していたと承知しております。
・3Dプリンタ
名古屋市工業研究所の小玉秀男氏が開発し1980年に特許出願した技術が、現在の3Dプリンタの原型とされているものと承知しております。
・量子コンピュータ
量子コンピュータの情報処理方法の一つである量子アニーリングについて、1998年に東工大・西森秀稔教授が、組合せ最適化問題を解く方法として世界に先駆けて開発したと承知しております。また、1999年にNECの中村泰信氏らが、世界で初めて、超電導量子ビットの動作を実現したと承知しております。
スマートフォン、量子コンピューターの製造•開発について、日本企業や日本人が関与していることは事実であるが、「日本の発明」とまでは言えないことは前述のとおりだ。
結論
確認したところ、3Dプリンタは日本の発明と言えるものの、スマホは米国の発明、量子コンピューターはカナダの発明だった。
そのため、日曜討論での甘利幹事長の発言は、正確な部分と不正確な部分が混じっており、全体として正確性を欠いていると言え、「不正確」と判定する。
「不正確」のレーティングは、InFactが使用するエンマ大王を使った表示では「2エンマ大王」に相当する。
以下が、InFactが新たに始めたエンマ大王のキャラクターの判定基準。
- 4エンマ大王 「虚偽」
- 3エンマ大王 「誤り」
- 2エンマ大王 「ミスリード」「不正確」「根拠不明」
- 1エンマ大王 「ほぼ正確」
※10月24日追記:当初の記事では小玉秀男氏の苗字が「小川」となっており、指摘を受けて修正させていただきました。
(冒頭画像:2021年10月17日放送の日曜討論に出演する甘利明自民党幹事長)