今回の参院選では、8%から10%への消費増税の是非が一大争点となっている。政府与党(自民・公明)は増税の方針を決めているが、野党は増税の反対・凍結を主張している。
中でも、れいわ新選組の山本太郎代表(比例代表で立候補)が増税反対にとどまらず「消費税廃止」を訴え、注目されている。山本氏は、政見放送などで、前回の消費増税で社会保障の充実に使われたのは16%のみで、7年で4兆円の社会保障費が削られたなどと問題点を繰り返し指摘している。一見すると「消費増税を全額、社会保障に充てる」という従来政府がしてきた説明と矛盾するようにみえるため、真偽を検証することにした。(楊井人文)
ファクトチェックの対象言説
「『消費税なくしたら社会保障どうすんだよ』。騙されないでください。消費税を増税した分はすべて、社会保障の充実と安定化に使うと、政府が約束した。2014年4月から5%から8%に消費税は増税された。答え合わせをします。3%の税収で8兆円程度になりますけれども、そのうち社会保障の充実に使われたのは、たった16%のみ。消費税を引き上げる一方、現政権は7年間で社会保障を4兆円以上削っています。じゃあ、消費税は何のためにあるんでしょうか。」(山本太郎・れいわ新選組代表、政見放送)
(政見放送全文はBuzzFeed Japan参照)
調査結果
判定(レーティング):
ミスリード
(レーティングについては、FIJサイト参照)
根拠・理由:
まず、政府が消費税引き上げの際に、どのように説明していたかを確認しておきたい。
前回の消費増税(5%→8%)は、2014年4月から実施された。安倍晋三首相は2013年10月1日、増税実施の閣議決定後の記者会見で「消費税収は、社会保障にしか使いません」と述べていた(首相官邸サイト)。2014年1月の通常国会における施政方針演説でも、こう述べていた。
「消費税率引上げによる税収は、全額、社会保障の充実・安定化に充てます」(2014年1月24日、第百八十六回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説。首相官邸サイトより)
当時の「政府広報」資料にも、「消費税引き上げ分は、全額、社会保障の充実と安定化に使われます」と大文字で書かれていた。
では、実際に消費増税の使い道はどうなっていたのか。政府は従来、社会保障の「充実」と「安定化」に使うと説明してきた。内閣官房・社会保障改革担当室の資料「社会保障と税の一体改革における財源・使途の状況」をもとに、表にまとめてみた。
それによると、2014年〜2017年の4年間の増税増収額は合計29.6兆円、うち社会保障の「充実」に使われたのは約4.55兆円(約15%)だった。したがって、「社会保障の充実に使われたのは16%」という言説自体は(若干誤差があるが)正しいといえる。
社会保障費は削減されたのか
山本氏は「社会保障の充実に使われたのは、たった16%のみ」と指摘した直後「消費税を引き上げる一方、現政権は7年間で社会保障を4兆円以上削っています」と発言している。山本太郎事務所によると、「7年で4兆円削減」の根拠はしんぶん赤旗の試算によるもので、マクロ経済スライドの発動による年金支給額の削減などが含まれる。
しかし、一部の社会保障費は増大を抑制、削減されているが(赤旗の試算では年間6000億円程度)、全体としての社会保障費は100兆円を超え、年々増加の一途をたどっている。一人あたりの社会保障給付も年々増加している(下のグラフ参照)。
山本太郎事務所は、取材に対し「確かに社会保障費全体は増えていますが、削減されたのも事実です。その点、誤解を与える表現とは考えておりません」とコメントした。社会保障費全体が増えている点は認めたが、山本氏は政見放送ではその点に触れていなかった。
結論:
山本氏が指摘した「消費税を増税した分はすべて、社会保障の充実と安定化に使うと、政府が約束した」と「社会保障の充実に使われたのは16%」は、いずれも間違いではない。
だが、「たったの16%のみ」と強調して「7年間で社会保障を4兆円以上削っています」と述べる一方、増税分が社会保障「安定化」にも使われている点や社会保障費全体が増えている点には触れていなかった。そのため、約束に反して増税分の一部しか社会保障に使われず、社会保障費全体が削減されているとの誤解を与える可能性が高い。よって、「ミスリード」と判定した。
【関連記事】[参院選ファクトチェック] 検証 消費税(2) 増税分の84%は使途不明か?
補足説明(解説)
注意深く見てみると、政府は消費増税を決めた当初から、社会保障の「充実」と「安定化」を使い分けてきた。政府広報のパンフレット(前掲)もよく見ると「基礎年金の財源を確保し、年金財政を安定化」といった記載がみられるが、これも「安定化」の一つに当たる。
では、社会保障の「充実」と「安定化」への使い分けが具体的に決まったのはいつだったのか。振り返ると、5%→10%の消費増税が決まったのは、2012年、民主党政権(野田内閣)での「社会保障と税の一体改革」だった。これにより消費税の「社会保障目的税化」がうたわれ、消費税法に税収を社会保障4経費(年金、医療、介護、少子化)に充てることが明文化された(内閣官房特設サイト「社会保障と税の一体改革」、消費税法第1条2項参照)。
そして、安倍内閣が8%引き上げを正式決定したころ、5%→10%への引上げのうち1%分(2割)を「充実」に、4%分(8割)を「安定化」に使うことが決まったとみられる。「平成25年9月10日の社会保障・税一体改革関係6大臣打ち合わせを踏まえ、関係府省でとりまとめたもの」と書かれた政府資料に、具体的な使い道が示されていた(同じ図表が厚生労働省サイトに掲載されている。2014年1月作成の政府広報ページにも使い道の説明があったことが、ウェブアーカイブ archive.org で確認できる。こちらは現在削除されている)。
つまり、政府は当初から「消費増税(増収分)の全額は、社会保障の充実・安定化に使う」と説明してきたが、その内実は「1%分(2割)を社会保障の『充実』目的に、4%分(8割)が『安定化』目的に使う」というものだったことがわかる。したがって、「社会保障の『充実』に16%しか使われていない」という山本太郎氏の主張は、政府の従来の説明と必ずしも矛盾しているわけではないことになる。
だが、増税分の4%分(8割)が「充実」ではなく「安定化」に使われるという説明が、国民に対して十分になされてきたといえるかは別問題である。(こちらの解説記事も参照)
【加筆修正しました】この記事は7月17日午後公開しましたが、その後の再検討により、対象言説の範囲を「現政権は7年間で社会保障を4兆円以上削っています」まで広げ、見出しを「社会保障の充実に使われたのは16%か?」から変更しました。小見出し「社会保障費は削減されたのか」〜「結論」までを加筆修正しました。「社会保障費が全体として削減されているとの誤解を与える可能性が高い」と判断し、当初の「正確」から「ミスリード」に判定を変更しました。(2019/7/18 20:20)