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深夜に及ぶ閣僚就任会見はやめるべき? メディア各社の見解は

深夜に及ぶ閣僚就任会見はやめるべき? メディア各社の見解は

「延々とここでやるっていうのは前例主義、既得権、権威主義の最たるものだ。こんなものさっさとやめたらいい」ーー 深夜に及ぶ新閣僚就任会見で、河野太郎行政改革担当大臣がこう苦言を呈したことは記憶に新しい。長時間労働が当たり前とされてきたメディア業界も、近年は「働き方改革」に取り組んでいると言われる。では、長年慣例として行われてきた深夜に及ぶ会見をどう考えているか。主要メディアに見解を聞いたところ、3社が見直すべきとの考えを示した。(楊井人文)<追記あり>

昭和から恒例化したリレー方式の閣僚就任記者会見

菅義偉内閣が発足したのは9月16日。初閣議後、首相官邸では加藤勝信官房長官はじめ19人の閣僚の就任会見がリレー方式で行われた。就任したばかりの大臣が抱負を述べ、首相からの指示事項を明らかにしつつ、記者からの質問に数問受け答えする。大手メディアの記者は担当する大臣の出番まで待ち、大臣が交代すると記者が一斉に入れ替わる。そうした光景が、この日は午後10時50分過ぎに始まり、終了したのは深夜1時40分ごろだった。このようなリレー方式の閣僚就任会見は、昭和の時代から受け継がれてきた恒例行事で、深夜に及ぶことも珍しくない。冒頭の河野大臣の発言が飛びたしたのは、深夜1時ごろだった。

菅新内閣の閣僚就任記者会見が行われた9月17日未明のテレビ番組表。NHKは少し遅れて録画放送した(筆者撮影)

一般に、政府幹部の記者会見は多くの場合、官房長官の会見は官邸記者クラブ、外務大臣の会見は霞クラブというように、記者クラブが主催する形で行われる。ところが、今回問題となった恒例の閣僚就任会見は、首相官邸の報道室の主催で行われているものだとわかった。報道室の担当者によると、かなり前から慣例で行われてきたため、いつ頃からどういう経緯で行われるようになったかわからない、という。

閣僚の就任会見は重要な取材機会だとしても、深夜に行うほどの緊急性はない。翌日以降の日中に調整して行えば十分にも思える。記者や大臣らの負担を考えると、深夜に行う合理性は見出し難い。だが、官邸の報道室担当者は10月1日、インファクトの取材に、河野大臣の発言を承知しつつも、今後も閣僚就任会見を行う際、当日夜遅くまで行う慣例を見直すかどうかについて「現時点では検討していない」と答えた。

深夜の就任記者会見を取材する記者たち(NHK2020年9月17日未明の放送画面より、筆者撮影)

深夜会見についての各社の見解は

河野大臣の苦言に対して、働き方改革担当を兼ねる田村憲久厚労相も20日のテレビ番組で「言ってくれたなって感じです。大賛成です」「別に次の日、朝からやってもいいじゃないですか」と賛同したほか、小泉進次郎環境相も「全く同感」と述べた。しかし、主要メディアは概して、この会見のあり方について積極的に取り上げようという姿勢が見られなかった。

ネットメディアやテレビの多くが河野大臣の苦言を取り上げたが、主要紙は取り上げても小さな扱いで発言を伝えるだけにとどまった。

そこで在京6紙、2通信社、NHKの各社に、(1)いつ頃からどのような経緯でこの深夜に及ぶ就任会見が行われるようになったのか、(2)このような会見のあり方を続けるべきか見直すべきか、の2点について質問状を送った。十分に検討できるよう、回答期限まで10日以上設けた。なお、新聞労連にも質問を送ったが、ちょうど委員長の交代時期にあたるため回答が遅れるとの連絡があった(回答が届き次第、追記)。

このうち、明確に見直すべきとの考えを示したのが朝日新聞と東京新聞。朝日は就任会見の重要性を指摘しつつも「記者会見が深夜、未明まで及ぶことは、社会的な常識の範囲内にあるとは考えていない」とし、翌日の早い時間帯に会見が行われれば深夜の会見にこだわるものではないとの見解を示した。東京も「深夜に及ぶケースについては、官庁の職員らの負担も大きく、各記者クラブで見直しを検討する時期に来ている」とした。毎日新聞は「改善すべき点があれば、常に見直しを検討していくべき」とやや曖昧な回答だが、見直しに言及した。読売、日経、産経、共同、時事、NHKは無回答か実質的にノーコメントの回答だった。

各社の回答全文

◉ 読売新聞社

(無回答)

◉ 朝日新聞社

回答① 初閣議後の全閣僚の就任記者会見は、組閣の関連日程として首相官邸報道室が担い、公表しています。その経緯、事実関係については首相官邸報道室にお尋ねいただければと思います。
回答② 就任した閣僚がどのような見解、姿勢、考え方を持っているのかについては、報道すべき重要な事柄の一端であると考えており、その取材機会はできるだけ多く確保したいと考えています。ただ、その記者会見が深夜、未明まで及ぶことは、社会的な常識の範囲内にあるとは考えていません。翌日のなるべく早い時間帯に代替の就任記者会見がセットされるのであれば、必ずしも当日の記者会見にこだわるものではありません。(広報部)

◉ 毎日新聞社

閣僚の記者会見のあり方については、改善すべき点があれば、 常に見直しを検討していくべきだと考えます。(社長室広報担当)

◉ 産経新聞社

原則として取材に関することはお答えしておりません。(広報部)

◉ 東京新聞

1)把握しておりません。
2)深夜に及ぶケースについては、官庁の職員らの負担も大きく、各記者クラブで見直しを検討する時期に来ていると考えます。(編集局)

◉ 日本経済新聞社

頂戴していましたご質問については、回答を差し控えさせていただきます。(広報室)

◉ 共同通信社

(無回答)

◉ 時事通信社

(無回答)

◉ NHK(日本放送協会)

詳しい経緯について把握していません。
コメントは差し控えさせていただきます。(広報部)

直前まで新内閣布陣の取材で追われてきた記者にとっても、就任してほとんど準備や熟考の暇もなく官僚が用意したペーパーを頭に詰め込むしかない新任大臣にとっても、深夜に及ぶ会見が過度の負担であろうことは想像に難くない。メディア各社の温度差はあるようだが、この機会に見直しが行われることを期待したい。

【追記】10月26日、日本新聞労働組合連合(新聞労連)から以下の通り回答が届いた。

◉ 新聞労連

1)新聞労連では、これについての詳しい資料を持っていないため、確固としてお答えできるだけの経緯を把握しておりません。

2)全閣僚の就任記者会見については、国政の責任を担う重要ポストである閣僚が抱負を語り、職責に関する見識や自覚について、直接話を聞くことができる重要な取材機会です。そもそも記者会見は、国民に対して「知る権利」を保障し、政府や行政機関の説明責任を果させる場です。また、取材方法については取材者側が自主的に決めることで、政府や行政機関が決めたり、指図したりできるものではありません。

 取材者側が、労働者の働き方是正の観点から、自主的に「どうしても調整が必要だ」と判断した場合において、政府や行政機関とやりとりしながら、実施時間帯の調整を行うことはやむを得ないと考えます。この調整については、取材の機会を制限・縮小することがないよう、取材時間の十分な確保が必須です。全閣僚の就任記者会見以外の記者会見についても、政府や行政機関の一方的な配慮や思惑による制限や縮小があってはなりませんし、メディアの「権力監視」といった社会的役割が果たせる条件が整っていることが前提です。

 また、全閣僚の就任会見後に、各省庁で実施されている大臣会見についても、政府や行政機関が国民に対して説明責任を果たす場です。省庁での大臣会見についても、官邸での全閣僚の就任会見と並んで、重要な取材機会です。政府や行政機関からの制限や縮小はあってはならず、十分な時間を確保して実施していくべきです。

(冒頭写真=河野太郎行政改革担当大臣の就任記者会見。NHKの9月17日午前1時すぎ放送画面を筆者撮影)

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