
6月22日に投開票が行われた東京都議会議員の選挙で動画共有サイトに候補者の有料広告が出たとの情報がSNS上で流れ、「選挙期間中の有料広告は、公職選挙法違反」との指摘がなされている。有料ネット広告は公職選挙法に違反するのか、ファクトチェックした。
対象言説
「選挙期間中の有料広告は公選法違反です。江東区長だった木村弥生氏は区長選挙期間中にネットに有料広告を掲載した公選法違反の疑いをかけられたことにより辞職しています」
2025年6月20日 X(旧Twitter)での発言(公明党の候補者の動画添付あり)
結論
「選挙運動」のための有料インターネット広告は公選法で禁止されている。ただし、選挙運動期間中(公示日以後)に一定の政党等によって出されたもので、かつ、政党等の選挙運動用ウェブサイトに直接リンクする「政治活動」用有料インターネット広告であることなど、法律上の要件を満たしたものであれば、公選法で認められており合法。
ファクトチェックの詳細
ネット広告を出せる主体は限られている
2013年、公職選挙法が改正され、国政選挙と地方選挙でインターネットを用いた選挙活動を行うことが可能になった。総務省のホームページに、インターネットを使用した選挙運動に関する説明資料やガイドラインなどが掲載されており、規制の内容を確認することができる。
まず、ウェブサイトやSNS等での選挙運動は、電子メールを除き、原則として認められている(公職選挙法142条の3第1項)。ただし、選挙運動のために有料でインターネット広告を使うことは禁止されている(公職選挙法142条の6第1〜3項)。この規定に違反した場合、2年以下の禁錮または50万円以下の罰金が処され(同法243条第1項3号の3)、選挙権および非被選挙権が停止される(同法243条第1項3号の3、252条第1〜2項)。
他方、例外的に認められる場合がある。 選挙運動期間中に、「選挙運動用ウェブサイト」等に直接リンクする「政治活動用有料インターネット広告」を、一定の政党等や確認団体が出す場合だ(同法142条の6第4項)。
有料ネット広告を出せる政党等は選挙の種類ごとに決まっており、以下のとおりだ。「確認団体」とは、選挙管理委員会(参議院選挙の場合は総務省)に申請をして、確認書を交付してもらった政治団体のことをいう(同法第142条の6第4項)。

(総務省のホームページを参考に、筆者が作成)
ネット広告が認められるための要件
どのような有料広告でも認められる、というわけではない。認められるのは、あくまで「選挙運動用ウェブサイト」等に直接リンクする「政治活動用有料インターネット広告」に限られる。また、広告自体が「選挙運動」性を持ったものは禁止されている。
ここで注意しなければならないのは、「選挙運動」と「政治活動」の違いだ。「選挙運動」とは、「特定の選挙について、特定の候補者に当選を得させるため、投票を得もしくは得させる目的をもって、直接または間接に必要かつ有利な行為」を指す。一方、「政治活動」とは、選挙運動以外の活動を指す(総務省より)。
有料広告が「選挙運動」性を持ったものかどうかは、個別具体的に判断され、明快な基準があるわけではない。総務省のガイドラインには、「政党支部が当該政党等の選挙運動用ウェブサイトに直接リンクする有料インターネット広告を掲載させる場合に、当該広告にその支部長の氏名や写真を表示することのみをもって直ちに選挙運動性を有するとは断定できない」と書かれている。
一方、「当該広告が当該支部長や当該政党等のための選挙運動用文書図画と認められるとき」は公選法違反になるとされているが、具体的にどのような場合が違反になるのかは、例示されていない(ガイドライン【問25】参照)。
江東区の事例はなぜ違法になったのか?
多少、複雑な説明になっているので、対象言説で言及されていた江東区の区長が有料ネット広告を掲載して公選法違反に問われた事例で確認する。この件は、当時の区長(辞職)が公選法違反で起訴されたもので一審の有罪判決が確定している(判決文、読売新聞)。
この事例では「江東区長選挙はA」「Aに投票してください」などと表示した動画広告を掲載していた。広告の内容が明らかに「選挙運動」性があるものだったため、公職選挙法違反と判断された。
都議会選の公明党の事例は?
次に、対象言説で言及されていた、「公明党墨田総支部」の候補者が表示されたネット広告の事例をみていく。
都議会選挙の場合、有料ネット広告が認められるのは「確認団体」だけだ。「確認団体」を知る手立てはあるのか?東京都選挙管理委員会に問い合わせたところ、「確認団体」の一般公開はしていない、とのことだった。ただし「メディア等報道関係者からの問い合わせがあればお答えできる」とも述べ、「公明党(東京都本部および墨田総支部)は確認団体だ」と担当者は回答した。
総務省のガイドラインによれば、「政党の本部のみならず、政党の支部も選挙運動用ウェブサイトに直接リンクする有料インターネット広告を掲載させることができる」とされている(ガイドライン【問24】参照)。
以上を踏まえると、「公明党墨田総支部」による有料ネット広告は、投票の呼びかけなどの「選挙運動」性がなく且つ「選挙運動用ウェブサイト」に直接リンクするものであれば公選法上は問題なく、合法ということになる。
なお、YouTubeの広告はランダムに表示されるため、実際に流れた広告の内容全体は確認できていない。その広告の合法性はファクトチェックの対象外であり、InFactとしての判断は示さない。
(田中善之)
(編集長追記)
InFactは検証の対象となる投稿及びその発信者を非難したり否定したりするようなファクトチェックはしていません。拡散する情報の内容を確認し、明らかになった事実を付け加え、共有することを目的としてファクトチェックをおこなっています。