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【参院選FactCheck】公明党議員「公示前のタスキは、禁じられています」というツイートは「ほぼ正確」

【参院選FactCheck】公明党議員「公示前のタスキは、禁じられています」というツイートは「ほぼ正確」

大阪市議会の 辻よしたか議員(公明党)が、「公示前のタスキは、禁じられています」とのツイートを発信した。選挙の公示前には、本当にタスキをすることすら禁止されているのだろうか。この問題は、選挙のたびに疑問の声があがっているため検証した。(中川瑞月・古賀友香、田島輔)

チェック対象

「公示前のタスキは、禁じられています。」(Twitter、辻よしたか議員(公明党)、2022年6月11日投稿〔現在は削除済み〕)

結論

【結論:ほぼ正確】公示前の選挙運動期間外に、名前入りのタスキを着用して政治活動を行うことは、公職選挙法に違反する可能性がある。

公職選挙法の規定は?

はじめに、公職選挙法で「名前入りのタスキ」を使用する選挙運動を規制しているのかどうか確認してみよう。

公職選挙法では、「選挙運動」を行うことのできる期間を、「立候補の届出のあった日から、投票日の前日まで」と規制している(公職選挙法129条)。立候補の届け出は、選挙の公示があった日の一日間だけであるため(参照)、「選挙運動」は当然、選挙の公示日後しかできないということだ。

ここで、公職選挙法には、「選挙運動」と「政治活動」という二つの用語が使われているが、この二つの用語の違いは以下のとおりだ。

「選挙運動」とは、「特定の選挙に、特定の候補者の当選をはかることを目的に投票行為を勧めること」

「政治活動」とは、「政治上の目的をもって行われるいっさいの活動から、選挙運動にわたる行為を除いたもの」

東京都選挙管理委員会事務局「選挙Q&A(選挙運動と政治活動)」より(参照

簡単に言えば、特定の候補者の当選を目的とした「選挙運動」は選挙の公示から投票日前日までしか出来ず、この期間以外に行う政治的な目的をもった活動は「政治活動」に該当するということだ。

そして、公職選挙法143条16項では、選挙運動期間以外に行う「政治活動」についても、使用できる看板の枚数や大きさなどを細かく定めており、認められる内容以外で候補者の氏名を記載する文書図画の利用は、違法な「選挙運動」に該当すると規制している。

公職選挙法143条16項を確認してみると、選挙の公示日前に行うことのできる「政治活動」において、候補者が本人の名前の入った「タスキ」の使用することを認めていないように読める。
実際に、公職選挙違法違反を避けるため、候補者の名前ではなく、「本人」と記載されたタスキが着用されていることは良く知られている(参照

さらに、次の画像のように東京都選挙管理委員会でも「公職の候補者等が、個人の政治活動のために氏名を記載したタスキを着用することはできない」と明言しているのだ(参照)。

東京都選挙管理委員会事務局「選挙Q&A(選挙運動と政治活動)」より(参照

そのため、辻議員の指摘が正しそうだが、「公示前の、候補者本人の名前が入ったタスキ着用が違法か否か」は選挙のたびに話題になる。これはなぜなのだろうか。

様々な抜け道が?

実際のところ、選挙運動期間以外の「政治活動」における候補者の名前の入ったタスキの着用には様々な「抜け道」があるようだ。

まず、公職選挙法143条16項3号自体が、政治活動のためにする演説会、講演会、研修会その他これらに類する集会の会場では、演説会の開催中にタスキ等を着用することを認めている。そうすると、「演説会」の最中の着用と主張すれば、規制を免れることが出来そうだ。
実際に、選挙期間中以外のタスキの着用について違法性を指摘された際、共産党議員が「まちかど演説会」であり、合法だと主張したことがあるようだ(参照)(ただし、政治活動のための演説会、講演会、研修会その他これらに類する集会 」には、街行人など不特定多数の者を対象に行うものは含まれない、とされている〔参照〕)。

また、国会答弁において、選挙期間中以外の「たすき」着用の適法性に関する質問に対し(参照)、「(候補者の後援団体以外の)政党その他の政治活動を行う団体の政治活動のために使用されるたすきについては、一般的には、選挙運動のために使用されるたすきと認められない限りにおいては、掲示することができるものと考えている。…個別の行為が同法に違反するか否かについては、具体の事実に即して判断されるべきものと考える。」との回答がなされている(参照)。

そうすると、政党が行う活動が、特定の候補者の当選を図ることを目的とする「選挙運動」に該当するかどうかはケースバイケースであって、結局はグレーゾーンが存在するということだろう。

ただし、グレーゾーンがあるとしても、原則として、公示前の候補者の名前が記載されたタスキの着用は禁じられている。そのことは多くの選挙管理委員会でも明記しているところだ(参照参照)。

結論

以上のとおり、様々な抜け道は存在するようであるが、原則として、選挙の公示日前に、候補者の名前が記載されたタスキを着用して政治活動を行うことは禁止されている。

そのため、InFactとしては「公示前のタスキは、禁じられています。」との辻議員の発言は、「ほぼ正確」と判定する。

なお、例外的に公示日前のタスキ着用が認められる場合が存在することも確かであり、ツイートされているケースが公職選挙法違反に該当するか否かは不明だ。この記事は、あくまで「公示日前のタスキ着用が違法か否か」を検証するものであるため、ツイートで違反が指摘されている政党名はぼかし処理を行っている。

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