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【FactCheck】和歌山の水源は中国人が買い占めているのか?

【FactCheck】和歌山の水源は中国人が買い占めているのか?

SNS上で拡散する中国人による水源地の買い占めとの噂。その元になったのはネットメディアの、「和歌山県にある9つの水源のうち7つを中国関係者が購入されている」との報道と見られる。では、実際に水源地は買い占められてるのだろうか。ファクトチェックを行った。

対象言説

「(ある県議会議員の調査によると)和歌山県にある9つの水源のうち7つを中国関係者が購入」

経済ビジネス番組「For JAPAN ―日本を経営せよー」3rdシーズン第11回「国土が買われる日本」(オープニング1:15~)

https://youtu.be/cyuJMsdDfXI?si=NgboEvEGz3hB9v1i

結論 根拠不明であり誤りである可能性が否定できない

和歌山県は水源地を明確に定義しておらず、番組が主張するような「9つの水源地」があるという事実も確認されていない。また、和歌山県では外国人による森林の取得事例は2件確認されているものの、これは県内の森林面積に対して決して大きいものではなく、買い占めと言えるような規模ではない。そのため、報道の根拠は不明であり、誤りである可能性が否定できない。

ファクトチェックの詳細

Xなどで拡散する噂の出どころを確認すると、AbemaやYoutubeで配信されている経済ビジネス番組「For JAPAN ―日本を経営せよー」と見られる。この中の3rdシーズン第11回「国土が買われる日本」(オープニング1:15~)にて、次のような内容が放送されていた。

番組は2025年6月に配信。6月期テーマ「ニッポンを守れ!」のもと「国土が買われる日本」というトピックで経営者たちのトークが繰り広げられた。番組冒頭のVTRでは、日本国内の土地、とりわけ水源地などの重要な国土が外国資本に買収されている現状に警鐘を鳴らす内容が取り上げられた。言説はオープニングVTRの一部であり、「よく心配されているのが水源などの重要国土。特に親中で知られる二階俊博氏のおひざ元、和歌山県。ある若手県議が調査した結果、和歌山県にある9つの水源のうち7つが既にを中国人、並びに中国資本の会社に購入されていることが判明した」というナレーションとともに放送された。

上記内容について、和歌山県の森林林業局の担当者に問い合わせを行った。以下が質問(Q)とそれに対する和歌山県の側の回答(A)だ。

Q和歌山県に水源と呼ばれるものはいくつあるのか、9つならばそれはどこか?

A水源地という定義で、何箇所かという把握を県はしていない。林業とか森林関係の部署なので、森林自体が水源という意識は持っているが、ここが水源でここが水源ではないといった考え方は持っていない。

Q実際に中国関係者が水源地もしくは他の土地を買い占めているという記録はあるか?

A(中国関係者とは限らないが)外国人が森林を買っているという記録はある。林野庁、農林水産省の方から毎年調査があり、それに対応する形で県も調査している。森林を新たに取得した場合、小さいものは森林法、ある一定の面積以上のものに関しては国土利用計画法の定めで市町村に届出することが義務付けられている。外国の方から届出があった案件は林野庁のホームページに過去からの調査結果の累積が公表されている。和歌山県は田辺市に1箇所、白浜町で1箇所と掲載されている。

Q3番組で指摘されている内容について何か知っていることはあるか?

A私(担当者の方)が認識しているだけで、既に15件問い合わせがあった。情報の出どころがAbemaTVのその番組であることは把握している。

2つ目の回答で示された通り、令和7年(2025年)9月16日に発表された「令和6年に外国法人等により取得された森林は全国の私有林の0.003%」というプレスリリースから「居住地が海外にある外国法人又は外国人と思われる者による森林取得の事例の集計(平成18年~令和6年における森林取得の事例)」を確認することができる。

この資料をInFactが確認したところ、和歌山県では田辺市で2ha、白浜町では0.3haが外国人によって購入されている。中国人によるものか否かは判然としない。ところで、和歌山県の森林面積(2025年4月1日時点)は360,981haだ。当然、森林の全てが水源ではないという前提はあるが、少なくとも記録を確認する上では外国人によって購入された土地が全体に対して大きな割合を占めているとは言えない。

InFactでは「For JAPAN ―日本を経営せよー」に報じた内容の根拠について9月13日に問い合わせをおこなったが、10月6日時点で回答は得られていない。

(石盛なごみ)

編集長追記

InFactのファクトチェックは事実関係の確認のみを行っており、外国人の土地購入についての是非を論じるものではありません。外国人による土地の購入については安全保障上の観点から規制する重要土地等調査法が成立しています。この法律について政府は、「重要施設(防衛関係施設等)の周囲おおむね1,000メートルの区域内及び国境離島等の区域内の区域で、その区域内にある土地等(土地及び建物)が機能阻害行為(重要施設や国境離島等の機能を阻害する行為)の用に供されることを特に防止する必要があるものを、注視区域として指定することとしています。また、重要施設や国境離島等の機能が特に重要、又はその機能を阻害することが容易で、他の重要施設や国境離島等によるその機能の代替が困難である場合は、注視区域を特別注視区域として指定することとしています」と説明し、指定された区域での外国人の土地購入を規制するとしています。

ただ、水源などはこの法の規制の対象となっていないようです。仮に、番組が指摘するような事実が有るのであれば規制も必要かもしれません。しかし、議論は事実をもって行われるべきで、先ずは事実の確認が重要だと考えます。

ファクトチェックは発信者を非難したり批判したりするものではありません。情報の発信には常に誤解はあり得るわけです。ただ、誤りだとわかれば訂正することが必要でしょう。「For JAPAN ―日本を経営せよー」のスタッフは是非、その点について対応して頂きたいと思います。

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