
「東大生の5人に1人が中国人」という言説がSNSなどで拡散している。ファクトチェックをしたところ、これは東大の大学院生に占める中国人学生の割合だった。学部生も入れた全学生での割合は11%余だった。
検証対象
このうち2025年2月16日にアップされたSNSには以下が書かれている。
・中国人、日本の運転免許を簡単に取得
・中国人、90日間保険料払えば日本の高額医療費制度タダ乗り可
・中国人留学生、入学金・授業料無料等の優遇措置
・東大生5人に1人は中国人
・外国人参入で中国人転売ヤーらがコメ買い付け、米高騰
そして「いやはやもう中国人の食い物にされすぎ(絵文字)w政府なんとかしろ!」と書かれている。加えてANNニュースの画像が添付されている。そのニュースは画像のテロップから異業種や外国人の参入によって米価が高騰しているとの内容を伝えるものと思われる。12月3日現在で80万近く表示され、3万を超える「いいね」と1万を超えるリポストを記録している。
これらは中国人の日本国内での影響力の増加を懸念する内容と思われ、その全てをファクトチェックすることは容易ではない。この記事では先ず、「東大生の5人に1人は中国人だ」をファクトチェックした。
結論
東京大学の公式データに基づき検証した結果、全東大生に占める中国人学生の割合は徐々に増える傾向にあるものの大学院生を含めた最新の数字でも11.6%であり、更に学部生のみに関して言えば1.15%に過ぎない。他方、大学院生に占める中国人学生の比率は22.7%となっており、「東大生の5人に1人は中国人だ」は東大の大学院生に占める中国人の割合を指した数字だ。
ファクトチェックの詳細
東京大学の公式サイトには外国人学生・留学者数の統計資料がある。その統計に基づいて、2021年5月1日~2025年5月1日の5年間の数値を以下にまとめる。
まず学部生、大学院生の両方を合わせた全東大生に占める中国人学生の割合は以下のようになる。学部、大学院の人数には、それぞれ研究生の数も含まれている。

上記の数値からは、東大の全学生に占める中国人の比率は11.6%であり、少なくはないものの「5人に1人」という多さではない。
では、このうち学部生のみを見ると以下のようになる。全学部生に占める中国人学部生の割合だ。

上記の数値から学部生に限れば過去5年間、中国人学生の割合は何れの年も1%余でしかない。100人に1人を少し上回るといった状況だ。
では「5人に1人」が全く誤っているかというと、そうではない。大学院生のみの状況を見るとSNSの指摘と同じ状況となることがわかる。以下は東大の大学院生に占める中国人院生の割合だ。これはSNSの指摘である「5人に1人」前後で推移し、2025年の数字は「5人に1人」を上回っている。

因みに、上記の数値を「中国人留学生」ではなく「外国人留学生」で考えると、2025年5月1日時点の全学生数に占める「外国人留学生」の総数は5,234人であり、全体における割合は17.5%となる。「5人に1人」に近い数値となる。なお、他の国や地域からの留学生数を見てみると、「外国人留学生の国または地域別内訳」では、1位が「中国」で3,486人、2位が「韓国」で401人、3位が「ヨーロッパ」で363人となっている。
このファクトチェックは事実関係の確認のみを目的として行っており、個人の考え方や政策についてその是非を論じるものではない。
(石田浩輔,笠川大地,久門賢心)
(編集長追記)
InFactでは水源地を中国人が買い占めているといった言説をファクトチェックして記事にするなどしている。これについては事実と言えるものはなかったというのがファクトチェックの結果だが、日本における中国の影響力の高まりを意識しての情報はSNS上で拡散している。今回もその一つだろう。ただ、今回は誤った情報ということではなく、正確さは欠くものの、一部については事実と言える内容が含まれている。大学院の状況だ。
実際、国公立、私立を問わず大学院の状況を見れば、外国人の割合は高く、その中でも中国人学生の割合は極めて高いと言えるだろう。そこには日本人が大学院に進学しないという側面もある。このため、「東大生の5人に1人が中国人」が大学院生に限っては事実だとしても、それを中国の脅威のように取り上げることはミスリードだろう。日本人の多くが、自らの考えで大学院への進学を選択していないという状況が無視されているからだ。

