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【Fact Check】パーティー収入自体はいくら得ようとも問題無い?

【Fact Check】パーティー収入自体はいくら得ようとも問題無い?

自民党・安倍派(清和政策研究会)の政治資金パーティーをめぐる問題で、パーティーによって収入を得ること自体はいくら得ても問題ではないという指摘が度々なされている。しかしこれはミスリードだ。

対象言説「政治団体がパーティー収入をいくら得ようとも問題無い」

結論 【ミスリード】

InFactはレーティングをエンマ大王で示している。ミスリード2エンマ大王となる。

エンマ大王のレーティングは以下の通り。

  • 4エンマ大王 「虚偽」
  • 3エンマ大王 「誤り」
  • 2エンマ大王 「ミスリード」「不正確」「根拠不明」
  • 1エンマ大王 「ほぼ正確」

InFactはファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のメディアパートナーに加盟しています。この記事は、InFactのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。

ファクトチェックの詳細

自民党の安倍派「清和政策研究会」、二階派「志帥会」のパーティー券をめぐって東京地検特捜部が強制捜査に乗り出した事件では、それぞれの団体が実施したパーティーの収入を実際より小さく見せ、その収入を議員にキックバックしていた疑いが持たれている。キックバックは議員が得たパーティー収入の一部を戻す形で行われ、このうち、安倍派ではキックバックされた資金はそれぞれの議員の政治資金収支報告書(以下、収支報告書)には記載されず裏金となっていたことが指摘されている。

この事件の説明の中で、政治ジャーナリストなどから「政治団体がパーティー収入を得ること自体はいくら得ても問題無い」といった指摘がなされている。これをファクトチェックしてみる。

政治資金規正法第8条の2で、「政治資金パーティーは、政治団体によって開催されるようにしなければならない」としており、その意味では安倍派と二階派の政治団体が政治資金パーティーを開催することは問題無い。

ここで問題となっている安倍派の政治団体「清和政策研究会」の収支報告書を見てみよう。捜査の対象となっている2022年のものを見ると以下の記載がある。

「清和政策研究会との懇親の集い」と書かれ、収入には「9480万円」、2022年5月17日に東京プリンスホテルで開催されたと書かれている。このパーティーは1人あたり2万円の参加費だったことが既に報じられている。一般的に、政治資金パーティーは1人2万円が相場だ。だからは参加者は4740人だったと推計される。

政治資金パーティーのなかでも、こうした収入が1000万円を超えるものは「特定パーティー」とされ、その詳細を示すことが求められている。それが以下だ。

そこには参加者数が「3200人」と書き込まれている。ここで計算が合わないことがわかる。ただし、1人が2人分を購入するなどしたという説明は可能で、これをもって問題だと指摘することはできない。

疑問はむしろ、その他の部分にあるのだが、ここでもう一度政治資金規正法に戻ってみたい。

第12条の政治資金パーティーの項目には、「政治資金パーティーの対価に係る収入のうち、同一の者からの政治資金パーティーの支払いで、その金額の合計額が二十万円を超えるものについては、その年における対価の支払いについて、当該対価の支払いをした者の指名、住所及び職業並びに当該対価の支払いに係る収入の金額及び年月日」を記載する必要があると書かれている。

つまり20万円以下の支出は詳細を明らかにする必要が無い。その点が参加者数の違いになっている部分も有るだろうが、その詳細は不明だ。この点は既に収支報告書の不透明な点として指摘されている。

では、20万円を超える支払いの状況に問題は無いのだろうか?その点を見てみたい。

あらためて上記の安倍派の収支報告書から確認すると、17社の企業から総額1040万円が払われていることがわかる。多いところで150万円、少ないところでも30万円を支払っている。

この中で岐阜県にある企業は150万円を支払っており、75人分を購入したということになる。つまり、75人が参加したということになる。因みにこの企業の従業員数は社のHPによると400人余だ。普通に考えたら、購入だけしたと考えるのが普通だろう。

実際、企業がパーティー券を買う場合、購入だけして人がいかないケースが多い。ここで、会場についても見てみたい。「特定パーティー」は開催場所を明示しなければいけない。そこに「東京プリンスホテル鳳凰の間」と書かれている。それを東京プリンスホテルのサイトで確認してみる。

上記写真はサイトに掲載されているものだ。広さは1650平方メートル。利用人数は最も多くの人が入れるビュッフェスタイルでも2000人となっている。つまり4740人はおろか、「3200」人も利用者数を大幅にオーバーしていることになる。そもそも、パーティー券の購入者が来ないことを想定したパーティーでなければ、こうした数字にはならない。

そして、仮に、企業がパーティー券を購入した分だけ人を参加させていなければ、それは事実上の企業献金となる。そして、数字から推測するに、その可能性が極めて高いことが指摘できる。

2023年12月23日付の日経新聞オンラインは「パーティー券、購入企業悩ます税務処理 寄付か交際費か」という記事で、企業がパーティー券を購入しても政治資金パーティーに出席しなかった場合は、税務処理としては「寄附」になるとして困惑する企業の状況を報じている。つまり、実体としては、企業がパーティー券を購入するだけのケースがかなり有ると考えられる。

再度、政治資金規正法に戻ってみたい。第21条に次のように記載されている。

「会社、労働組合、職員団体その他の団体は、政党及び政治資金団体以外の者に対しては、政治活動に関する寄付をしてはならない。」

これが企業献金を禁止した条文で、政党と政治資金団体にしか企業献金を認めていない。政治資金団体とは、「政党のために資金を援助することを目的とし、政党が指定した団体」(総務省)で、自民党の「国民政治協会」と国民民主党の「国民改革懇話会」などが登録されている。つまり、それら以外の政治団体は企業献金を受けてはいけない。つまり清和政策研究会も志帥会も、企業献金を受けてはいけない団体ということだ。

今回の事件では、各議員が企業に働きかけてパーティー券を買ってもらっている構図が浮かび上がっている。そうした企業がその人数分の人員までパーティー会場に行かせていると考えるのは無理が有る。

こうした状況から考えて、パーティー収入は実態としては政治資金規正法に違反する企業献金である可能性が高く、「パーティー収入自体はいくら得ようとも問題無い」との言説はミスリードだ。

(立岩陽一郎)

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