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【Fact Check】「『自由で開かれたインド太平洋』は外交文書から消えたのか?

【Fact Check】「『自由で開かれたインド太平洋』は外交文書から消えたのか?

元内閣官房参与の谷口智彦氏が、産経新聞に寄稿したコラムで、「『自由で開かれたインド太平洋』という概念が、日本外交の辞書から消えた。」、「岸田文雄首相…が言わなくなって、ロウソクの火が消えるごとく隠微に消えた。」と主張している。確認したところ、岸田首相は、現在でも「自由で開かれたインド太平洋」の概念に度々言及しており、この言説は誤りだった。

対象言説

「『自由で開かれたインド太平洋』という概念が、日本外交の辞書から消えた。…岸田文雄首相や林芳正前外相、上川陽子外相らが言わなくなって、ロウソクの火が消えるごとく隠微に消えた。」

産経ニュース、元内閣官房参与・谷口智彦氏のコラムより

安倍晋三内閣において内閣官房参与を務め、現在は慶應義塾大学大学院システムデザイン•マネジメント研究所顧問の谷口智彦氏が、2023年12月17日に産経新聞のニュースサイトで発表したコラムで主張した(参照)。

結論

【誤り】

岸田首相は、12月13日にニュースサイトに寄稿した談話(参照)や、同月5日の「GZEROサミットジャパン2023」でも「自由で開かれたインド太平洋」の概念にたびたび言及している。今年の3月には「自由で開かれたインド太平洋」実現のために新たなプランも発表されており(参照)、現在でもこの概念は日本外交の柱の一つであって、「日本外交から消えた」とは言えない。

InFactはレーティングをエンマ大王で示している。
問題のツイートは「誤り」であり、これは3エンマ大王となる。

エンマ大王のレーティングは以下の通り。

  • 4エンマ大王 「虚偽」
  • 3エンマ大王 「誤り」
  • 2エンマ大王 「ミスリード」「不正確」「根拠不明」
  • 1エンマ大王 「ほぼ正確」

InFactはファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のメディアパートナーに加盟しています。この記事は、InFactのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。

ファクトチェックの詳細

「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」とは?

「自由で開かれたインド太平洋」とは、「太平洋とインド洋を、自由と法が支配する、市場経済を重んじる海とすることで、成長著しいアジアと潜在力あふれるアフリカの結びつきを強め、この地域の安定と繁栄を促進する」という、日本の外交戦略のことだ(参照)。

2016年に安倍首相(当時)が打ち出した構想で、現在も外務省のHPで、その内容が紹介されている(参照)。

「日本外交から消えた」?

谷口氏は、「自由で開かれたインド太平洋」に岸田首相や、上川外相、林元外相が言及しなくなったことで、「自由で開かれたインド太平洋」という概念が日本外交から消えた、と主張している。

しかし、確認したところ、12月にも岸田首相は繰り返し、「自由で開かれたインド太平洋」という概念に言及していた。

「ASEANは我が国の掲げる「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現の要(かなめ)であり、日本は世界の分断によりASEANの分断が助長されないよう、ASEANの ASEAN中心性・一体性を一貫して強く支持する。」(2023年12月13日、岸田首相の「Japan Forward」への寄稿文より。〔参照〕)

本年3月に、私は、自由で開かれたインド太平洋、FOIPのための新たなプランを発表いたしました。インド太平洋流のアプローチ、すなわち、多様な価値観、文化、歴史を受け入れ、相手を尊重し、相手に寄り添い、対話を通じて協力を推進する。」(2023年12月5日、岸田首相の「GZEROサミットジャパン」での挨拶より。〔参照〕)

また、上川外相や林元外相も「自由で開かれたインド太平洋」について言及している。

自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた取組はインドとの協力にとどまらず、南アジア地域全体に広がっています。」(2023年7月28日、林元外相の「日印フォーラム」での挨拶より。〔参照〕)

「本日は、まず、日米豪印外相会合に参加をいたしました。…『自由で開かれたインド太平洋』へのコミットメントと、一方的な現状変更や、その試みへの強い反対を確認いたしました。」(2023年9月22日、上川外相の臨時会見より。〔参照〕)

そのため、岸田政権下でも「自由で開かれたインド太平洋」の概念は消えることなく、繰り返し言及されている、ということだ。

岸田政権で新たなプランを発表

そもそも、2023年3月、岸田首相は訪問先のニュー・デリーにおいて、安倍元首相が提唱者であることに言及した上で、「自由で開かれたインド太平洋」の新たなプランを発表している(参照参照)。

首相官邸のHPでも、岸田内閣の主要政策として紹介されてもいる(参照)。

令和5年度予算でも「『自由で開かれたインド太平洋』の実現」は「同盟国・同志国との連携」・「ODAの戦略的活用」を内容として予算化されている(参照)。令和6年度も、同様に、「自由で開かれたインド太平洋の実現」は予算の概算要求が行われており、今後も継続的にその実現を目指されるということだろう(参照)。

したがって、岸田内閣において、現在も「自由で開かれたインド太平洋」構想は重要な政策の一つであると考えられる。

産経新聞社の見解は?

そこでInFactでは、谷口氏のコラムを掲載した産経新聞社に対し、次のとおり、コラムの事実関係について問い合わせを行った。

1 「自由で開かれたインド太平洋」との言葉は、・・・2023年中も岸田首相等によって繰り返し使用されているようです。谷口氏において、「自由で開かれたインド太平洋」との文言を、「岸田首相等が言わなくなった」と考えた根拠について御教示頂きたく宜しくお願いします。

2 「自由で開かれたインド太平洋」の構想については、2023年3月に新たなプランが発表され(参照)、令和5年度でも予算化され(参照)、令和6年度予算も概算要求されております(参照)。谷口氏において、「『自由で開かれたインド太平洋』という概念が、日本外交の辞書から消えた。」と考えた根拠について御教示頂きたく宜しくお願いします。

12月18日に問い合わせを行い、期限は1週間後の25日としたが、現在のところ産経新聞社からの回答は届いていない。回答が届き次第、掲載する予定だ。

(冒頭画像:「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)のための新たなプラン 特設ページ」より)

(田島輔

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