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【Fact Check】「マスクをするほど感染しやすい」はミスリード

【Fact Check】「マスクをするほど感染しやすい」はミスリード

「マスクをするほど感染しやすい」との研究結果を、ノルウェー公衆衛生研究所等が発表したとする言説が、X(旧Twitter)で拡散している(12月16日現在で、約20万件の表示・約2500件のいいね)。しかし、論文執筆者は、この論文について、「マスク着用はコロナ陽性率を高めるもの」と解釈することを否定している。この論文で本当に重要なことは何なのか、論文の執筆者に真意を確認した。

対象言説

「ノールウェイからの知見によれば、マスクを着用しない人と比べて、マスクを時々着用する人は33%、マスクを常時着用する人は40%コロナの感染率が高いことが判明した。マスクをすればするほど感染しやすい」

結論

【ミスリード】研究結果において、マスク着用者のコロナ陽性率がマスク非着用者よりも高かったことは事実。しかし、論文執筆者は、この結果について「マスク着用はコロナ陽性率を高めるもの」と解釈することは否定している。

InFactはレーティングをエンマ大王で示している。問題のツイートは「ミスリード」であり、これは2エンマ大王となる。

エンマ大王のレーティングは以下の通り。

  • 4エンマ大王 「虚偽」
  • 3エンマ大王 「誤り」
  • 2エンマ大王 「ミスリード」「不正確」「根拠不明」
  • 1エンマ大王 「ほぼ正確」

InFactはファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のメディアパートナーに加盟しています。この記事は、InFactのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。

ファクトチェックの詳細

論文の内容

問題となっているのは、ノルウェイ公衆衛生研究所が発表した、マスクとコロナ感染の関連についての調査結果だ(ノルウェイ公衆衛生研究所等の研究)。
当該研究では、参加者3209人を、マスク着用頻度に応じた3つのグループ(「Always/Almost always(いつも/ほとんどいつも)」、「Often / Sometimes(しばしば/ときどき)」、「Almost never/Never(ほとんどしない/しない)」)に分け、それぞれのCOVID-19の陽性発生率を調査している。

本研究の結論部分の要約は次の①~③のとおりだ。

①ノルウェー公衆衛生研究所の研究結果では、マスクを着用しない人と比較して、いつも着用する人は40%、ときどき着用する人は33%、新型コロナウイルスの陽性率が高くなり、「フェイスマスクの着用は感染リスクの上昇に関連する可能性が示唆された。」

②もっとも、「フェイスマスクの着用と感染リスク増加との関連」は、「マスク着用者と非着用者との、観察不可能で調整不可能な差異によるものである可能性がある」ため、本研究及び他の観察研究の結果を解釈する際には注意が必要である。

地域社会におけるマスク着用の推奨は、確実性の低いエビデンスによるところが大きい。フェイスマスクの有効性に関する知見を深めるためには、より多くのランダム化試験等が必要である。

結論としては、本研究の結果としては「マスク着用と感染リスクの増加との関連」が示唆されたものの、調査結果には複合的な要因があり、マスクの効果に関する結論を下すにはより多くの研究が必要、ということだ。因みに「ランダム化試験」とは、ヤクルト中央研究所によると「被験者を二群に分ける際、性別・年齢・症状の程度などを均等に分ける試験です。治験効果が高そうな被験者を恣意的に特定の治験群に割り付けることを防ぐために開発された試験方法」だという。

論文執筆者の真意は?

InFactでは、上述の①から③の真意について、論文の執筆者の一人であるノルウェー公衆衛生研究所のAtle Fretheim氏に取材を行った。

まず、①の「マスク着用は感染リスクの上昇に関連する可能性が示唆された」については以下の回答を得た。


Yes, the results from our study did indeed demonstrate an association between mask wearing and increased risk of infection, as you rightly quote from the paper. (そうです。あなたが論文から引用しているように、私たちの研究の結果は、マスク着用と感染リスクの増加との『関連性』を確かに証明しました。)

「マスクの着用」と「感染リスクの増加」との間に「関連」があることは事実だ。
ただし、②の「マスク着用と感染リスク増加との関連」を解釈する際の注意点については、以下のとおりの説明を受けた。


However, it is an error to interpret this as a cause-effect relationship. Just because A (mask wearing) as associated with B (infection), does not necessarily mean that A causes B.
(しかしながら、これ(※マスク着用と感染リスクの増加)を『因果関係』と解釈するのは誤りです。A(マスク着用)がB(感染)と『関連』しているからといって、必ずしも『AがBを引き起こすこと』は意味しません。)

具体的にはどういうことなのだろうか。さらなる説明は次のとおりだ。


In the paper we suggest several explanations for the association other than that mask wearing is a cause of increased infection risk. The most obvious alternative explanation is that people who feel sick may be wearing a mask to protect others, i.e. a so-called inverse relationship (infection causes mask wearing, not the other way around!). This is one example of what we mean when we write that “this association may be due to unobservable and non-adjustable differences…” 
(この論文では、マスク着用が感染リスク増加の原因であるということ以外に、この関連性についていくつかの説明を示しています。もっとも理解しやすい別の説明は、具合が悪いと感じる人が、他の人を守るためにマスクを着用している可能性つまり、いわゆる逆相関です(感染がマスク着用を引き起こすのであって、その逆ではありません!)。これは、我々が「この『関連』(※マスク着用と感染リスク増加の関連)は、観察不可能で調整不可能な差異によるものかもしれない」と書いたときの意味の一例です。)

マスク着用者のコロナ陽性率が高いことは、むしろ、「コロナ陽性者がマスクを着用している」可能性もある、という説明だ。論文の中で、研究結果を解釈する際には注意が必要と繰り返し書かれているのは、このような「逆相関」を考慮してのことだ。

そのため、「マスク着用と感染リスク増加に関連がある」という研究結果をもって、「マスクをすればするほど感染しやすい」と解釈することはミスリーディングとなる。

では、③のマスク推奨の根拠となった研究は確実性が低く、マスクへの知見を深めるため、より多くの研究を実施する必要がある、とはどのような意味なのだろうか。


In face mask debates, the question is whether (and to what extent) face masks causes reduced spread of disease.
As pointed out under B, association studies may be misleading since they may be measuring other things (e.g. reverse causes), and we should therefore be careful with interpreting such studies as evidence for cause-effect relationship.
We therefore propose more randomized trials because such studies are specifically designed to measure the cause-effect relationship of interventions (e.g. face masks).
(フェイスマスクの議論では、フェイスマスクが病気の蔓延を抑えるのか(そして、どの程度抑えるのか)が問題となります。
B(※②の回答のこと)で指摘したように、関連研究は他のもの(例えば『因果の逆転』)を測定している可能性があるため誤解を招く可能性があります、そのため、そのような研究を『因果関係の証拠』と解釈することには注意が必要です。
したがって、我々は、より多くのランダム化試験を提案します。なぜなら、そのような試験は介入(例:フェイスマスク)の『因果関係』を測定するために、特別にデザインされているからです。)

要するに、この研究だけでなく、マスク着用推奨の根拠となったこれまでの研究も含め、「マスク着用と感染リスクの増減の因果関係」を明確にするには不十分ということだ。

このことは、地域社会でのマスク着用を推奨するガイドラインを作成した、WHOの担当者自身が、「マスク推奨の根拠となったエビデンスの確実性は低~中程度」と評価している、と論文内で紹介されていることからも明らかだろう(WHOのガイドラインにも、その旨が記載されている〔p79以下〕)。

そのため、「マスク着用と感染リスク」の「因果関係」測定に特化した試験を提案している、とのことだった。

この論文の意義は?

では、「マスク着用と感染リスク増加」の関連を示した、この論文の最も重要な意義はどこにあるのだろうか。
Atle Fretheim氏に対し、当該研究の最も重要な価値を確認したところ、回答は次のとおりだった。

Our study serves as an illustration of why we should be careful with relying too much on studies that measure association if it is the cause-effect relationship we are interested in (as we most often are!).
We do not think our results should be interpreted as evidence that wearing a face mask increases the risk of being infected.
We think we need more and better studies that can reliably measure the effect of face masks – preferably randomized trials.
われわれの研究は、因果関係に関心があるのであれば(われわれはたいていそうです!)、関連性を測定する研究に頼りすぎることに注意しなければならない、という理由を示す実例として役立つものです。
我々は、この結果をマスク着用が感染リスクを高める証拠、と解釈すべきではないと考えています。
我々は、フェイスマスクの効果を確実に測定できる、より多くの、より良い研究が必要だと思っています。それは出来ればランダム化試験が望ましい。

この研究の意義は、「逆相関」等といった、因果関係の測定に誤解を与える要素に注意する実例を示した点にある、とのことだった。

マスクの効果の是非を議論することは重要だが、この研究をもってマスクの効果を云々することはできないという点に留意する必要がある。

(田島輔

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