●寄付集めのプロ
CPIが、その誕生の当初から財源を寄付によって得ていることは既に書いた通りだ。寄付を集める際に重要なのは、developing directorという肩書の寄付集めの責任者だ。CPIで、その草創期に寄付集めを担ったのはバーバラ・シェクター(Barbala Shector)という女性である。シェクターは、CPIが年間に得る寄付の額を6倍増やしたことで知られる凄腕の会計責任者だ。彼女に、寄付を集める作業についてインタビューしたところ、次の様に語った。
「私の仕事は、財団と交渉して、活動の趣旨に賛同してくれる財団から寄付を得るというものです。もちろん、寄付については、それが適正に使われたことを示す報告書を寄付者である財団に提出しなければなりません。そうした報告書もまとめます」
シェクターが寄付額を6倍にできた理由は、その情報収集能力にあると見られる。彼女は、「ジャーナリズムに限らず、あらゆる非営利財団には私のような担当がいます。私は様々な団体でdeveloping directorを務めてきたので、そういう担当の友人を多くもっています。そうした友人らと定期的に会って情報交換をしています。どこの財団がどのような寄付に関心を持っているか、事前に情報を集めるのです。そうすれば、良い提案書を早めに準備できます」とも明かしてくれた。
シェクターによると、周到な準備をしても最後は団体の代表の資質がものを言うとのことだった。インタビューの最後に、シェクターは、「いろいろと準備をして提案書を出しますが、最後の決め手はチャック(ルイス)です。最後にチャックが出て来て、このプロジェクトが如何に意味のあることかを説明します。それで決まりです。ですから、最後はチャックなのです」と話している。
ルイスが去ると同時にシェクターもCPIを去っている。今、CPIの年間予算は日本円で10億円にのぼっている。
2010年10月21日、ニュージアムの巨大なパーティールームで盛大なディナーが催された。ルイスが非営利ジャーナリズムであるCPIを設立して20年を記念し、その功績を讃える為に開かれたものだ。CNNテレビで活躍しているクリスチャン・アマンプールが司会を務めたその式典には米国大手マスメディアの幹部や一線で活躍するジャーナリスト300人余りが集まった。非営利ジャーナリズムが米国メディアにおいて確固たる地位を築いたことを確認しあうものとなったその場で、シェクターはルイスを支えCPIの土台を作った功労者として会場で紹介されている。
(続く)
(この原稿は、南山大学アジア・太平洋研究センター報第8号(2013年6月)に掲載された論考を著者の承諾を得て転載したものです)
立岩陽一郎
NHK国際放送局記者
社会部などで調査報道に従事。2010年~2011年、米ワシントンDCにあるアメリカン大学に滞在し米国の調査報道について調査。