警備員が私たちを連れエレベーターで5階に上がり、その階にある一室の呼び鈴を押すとすぐ扉が開いた。上着の丈が長いバングラデシュの民族衣装、パンジャビーを纏った中年男性が現れた。沈鬱さを湛えた彼の潤んだ大きな瞳が私たちの姿を捉えた。実行犯、サミーの父、ハヤト(53歳)だった。
同氏は右手を差し出し握手を求め、英語で「どうぞ入ってください」と、わずかにかすれた声で静かに言い、客を招き入れた。通されたのは2組のソファセットが置かれ優に10人は座れる大きなリビングルームだった。広さでいえば12畳は超すだろう。
大きな窓には長いカーテン、窓のない壁には絵の額がかかり、ソファとソファの間に置かれた小さな台には磁器のスタンドや花瓶が置かれている。調度品にアジア人らしい趣味を感じるものの、「居間」よりは「リビング」の呼んだ方がしっくりくる西洋風の部屋である。一目みて裕福さが伝わったし、何よりイスラム過激思想に染まった男の実家というイメージが結びつかなかった。(続く)
<<執筆者プロフィール>>
宮崎紀秀(norimiyazaki@outlook.com)
1970年生まれ。元日本テレビ記者。警視庁クラブ、