そして地方紙で記者を始め、まだ普及して間もなかったコンピューターのデータ処理技術を取材の現場に持ち込む。最初は同僚からいぶかしがられたドナルド氏の行動だったが、徐々に成果を出し始める。その成果が発揮されたのは調査報道NPOの老舗Center for Public Integrityに移ってから。前述の金融機関など数々のスクープを連発している。
調査報道よりも当局取材が盛んな日本では、当然、彼の名前を知る人間は極めて限られているだろう。しかし、データ処理を利用して埋もれた事実を見つけ出す調査報道が活発に行われている欧米では、彼に教えを受けたジャーナリストは多い。
ワシントン・ポスト紙はドナルド氏の死を悼んで特集記事を出した。その中で、ドナルド氏を、「コンピューターを使った調査報道の伝道師」と讃えている。全米は勿論、世界各国で開かれるジャーナリストの会議に参加し、データ処理の技術を伝授し続けたドナルド氏だけに、「伝道師」の称号はふさわしい。
私自身、何度か彼のセミナーに参加したことがあるが、老若男女、国籍を問わず、多くのジャーナリストが熱心に彼の説明に聞き入っていた。私の限られた英語力とコンピューターへの理解力から、残念ながら私にはその多くが理解できなかった。しかし、調査報道が革命的に変化していることを実感させてくれた。