新型コロナウイルスの感染リスクが高い国として日本が第2位とする論文が発表され、東京都中野区議が「安倍政権が入国規制をしない為」などとTwitter投稿し、拡散した。このランキングは政府による新型肺炎への対応と関係があるのか、検証した。(田島輔)(修正あり:後述)
チェック対象 (新型肺炎の)高リスク国の第2位が日本となったのは、安倍政権が入国規制をしない為。 (2020年1月29日、吉田康一郎・東京都中野区議のTwitter投稿) |
結論 【誤り】新型肺炎のリスクに関する論文の中のランキングで日本が2位になったのは事実だが、これは2018年の春節期間に中国から各国へ渡航した人数のデータを元にしていて、2019年末に発生した新型肺炎に政権がどう対応したかとは関係がない。 |
WHOが「武漢コロナウイルス」を「高リスク」と訂正。
高リスク国の第2位が日本となったのは、安倍政権が入国規制をしない為。 https://t.co/N45pXA1zUg
— 吉田康一郎 (@yoshidakoichiro) January 28, 2020
検証
英サウサンプトン大学の研究者らによるチームが新型コロナウィルスに感染するリスクの高い国として、日本はタイに次いで第2位とした論文を発表し、1月25日、世界の人口分布等を分析する団体「World Pop」のサイトに掲載された(論文リンク先の「Table 5」を参照)。
吉田氏(Twitterのフォロワー5.1万人)はこのWorld Popの投稿を引用しつつ「高リスク国の第2位が日本となったのは、安倍政権が入国規制をしない為」とコメント。このツイートは約4500件リツイートされ、約8400件のいいね!がついている。
しかしながら、この論文を確認したところ、日本が感染リスクの高い国と位置付けられた理由は、2018年の春節における各国の中国人旅行者数に基づくものであり、現時点での入国規制の有無とは関係がなかった。
この論文が日本を高リスク国の第2位とランキングした理由は、以下のとおりであった。
・Baidu Location-Based Servicesから取得した2013年~2015年の中国国内移動データと、国際航空運送協会の2018年の国際旅行のデータを基に、武漢から全世界へ新型コロナウィルスが広がるリスクを算出する。
・2013年~2015年の国内移動データを基に、武漢及び、春節以前に武漢から大量の旅行者を受け入れた17都市(中国国内)を、「ハイリスク都市」とする(Figure 6)。
・2018年に、春節前の15日及び春節後の2か月半の間に、18の「ハイリスク都市」から来た旅行者を各国が受け入れた数に基づいて、新型コロナウィルスの感染リスクをランキング化すると、日本はタイに次いで第2位となる(Table 5)。
Top 30 ranked countries or regions receiving airline travelers from 18 high-risk cities (Figure 6) in main land China over a period of three months, representing 15 days before Lunar New Year’s Day and 2 and half mouths following Lunar New Year’s Day.
(訳)旧暦元日の前15日と後2か月半の計3か月間における、中国本土の18の高リスク都市(図6)からの航空便旅行者受け入れ上位30の国と地域
Relative risk was preliminary defined as the percentage of airline travelers received by each city out of the total volume of travelers leaving high-risk cities (18 cities), based on air travel data from February to April 2018, obtained from the international Air Travel Association (IATA). The Lunar Year in 2018 started from February 16th, 2018.
(訳)相対リスクは、国際航空運送協会(IATA)の2018年2月~4月の航空便データに基づき、高リスク都市(18都市)から出発した全旅行者の数に対する、それぞれの都市(※)が受け入れた航空便旅行者のパーセンテージとして仮に定義した。2018年の旧暦元日は2月16日だった。
(訳注)※「国」の誤りと思われる。
つまり、このランキングは、2013年から2015年の中国国内移動データから18の中国国内「ハイリスク都市」を決定し、2018年における「ハイリスク都市」からの国際航空旅行データを基に算出されたものである。現時点で各国政府が入国規制を行っているかは一切考慮されていない。
結論
論文が日本を感染リスク第2位と位置付けた理由は、新型肺炎発生以前の中国人旅行者の動向に基づいており、各国の入国規制とは関係がない。よって、日本が入国規制を行っていないことが理由で2位になったとの主張は「誤り」である。
(修正)当初の見出しは紛らわしいとの指摘があり、よりわかりやすい見出しに修正しました。(2020/2/6 14:05)