中国・武漢が発祥とされる新型コロナウイルスについて、作家の西村幸祐氏が「英紙デイリーメールが武漢国立生物安全実験室から漏れたウイルスが原因だと報じた」とツイートし拡散した。実際にそのように報道されたのか、検証した。(篠原修司)
チェック対象 英紙デイリーメールは武漢国立生物安全実験室から漏れたウイルスが今回のパンデミックの原因だと報じた。事実の確証はないが僕に入る様々な情報と照らすと可能性はあり細菌兵器研究の噂も。…(2020年1月25日、西村幸祐氏のTwitter投稿) |
結論 【不正確】デイリーメール紙の記事には「現時点では、施設がアウトブレイクに関係している疑いを抱く理由はない」との微生物学者のコメントが掲載されている。過去に起きた北京の研究所でのSARSウイルス流出事例を伝えながら、「原因かもしれない」と匂わせているものの、そのように断言している記述はない。 |
英紙デイリーメールは武漢国立生物安全実験室から漏れたウイルスが今回のパンデミックの原因だと報じた。事実の確証はないが僕に入る様々な情報と照らすと可能性はあり細菌兵器研究の噂も。3年前に米の研究者が警告していた。2004年に北京の実験室からSARSウイルスが流出した https://t.co/KgsKHirKrw
— 西村幸祐 (@kohyu1952) January 25, 2020
検証
ツイッターで約18.6万人のフォロワーをもつ西村幸祐氏は「英紙デイリーメールは武漢国立生物安全実験室から漏れたウイルスが今回のパンデミックの原因だと報じた」とツイートしているものの(リツイートは約3300件)、デイリーメールの記事にはそのように断言している記述はなかった。
記事のタイトルは「中国が武漢にSARSとエボラ出血熱の研究所を設立。2017年に米国のバイオセーフティ専門家がアウトブレイクと戦うための鍵となる施設からウイルスが“逃亡する“可能性があると警告」だった。本文にはどこにも、研究所から漏れたウイルスが今回のパンデミックの原因だとは書かれていない。
本文では
- 2004年に北京の研究所からSARSウイルスが流出したこと
- 2015年に武漢の研究所が建設され、2017年に安全性テストを経て開設されたこと
- 2017年にアメリカ・メリーランド州のバイオセーフティ専門家が「ウイルスが逃げる可能性がある」と警告する記事を学術雑誌『ネイチャー』に投稿したこと
- アメリカのラトガーズ・ニュージャージー州立大学の微生物学者による「現時点では、施設がアウトブレイクに関係している疑いを抱く理由はない」とコメントしたこと
But, ‘at this point there’s no reason to harbour suspicions’ that the facility had anything to do with the outbreak, besides being responsible for the crucial genome sequencing that lets doctors diagnose it, Rutgers University microbiologist Dr Richard Ebright told DailyMail.com.
Wuhan, China’s coronavirus epicentre, has SARS and Ebola lab | Daily Mail Online
などが書かれている。
西村氏のツイートには「事実の確証はない」との記載も
ただ、西村氏による問題のツイートには「事実の確証はない」と書かれ、その後「僕に入る様々な情報と照らすと可能性はあり細菌兵器研究の噂も」と続けている。連投したツイートを見ると、「Rutgers大学ミクロ生物学者Ebright教授は同実験室が医者の診断に不可欠な重要なゲノム解析手段を提出する責任があるという以外にウィルス流出に関係があるという疑いを持つ理由は見つからない、とデイリーメールに語った」とも書かれている。
したがって、西村氏も「武漢国立生物安全実験室から漏れたウイルスが今回のパンデミックの原因だ」と断定的に報じた記事でないことを認識していると考えられる。しかし、最初の拡散したツイートは、そのような書き方になっている。
結論
デイリーメール紙の記事は武漢の研究所からウイルスが流出したのではないかと匂わせる記述はあるが、西村氏は「武漢国立生物安全実験室から漏れたウイルスが今回のパンデミックの原因だ」と報じていないことを「報じた」と書いている。一部に正確な記述もあるが、全体として「不正確」と判断した。