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[新型肺炎FactCheck] クルーズ船 「日本の検査で陰性だったのに米国で11人陽性反応」は誤り

[新型肺炎FactCheck] クルーズ船 「日本の検査で陰性だったのに米国で11人陽性反応」は誤り

クルーズ船ダイヤモンド・プリンセスのアメリカ人乗客が帰国した後の検査で陽性反応が出たことを受け、「日本の検査で陰性だったのにアメリカの検査で陽性反応が出た」という情報が出回った。しかし、調べてみると、その乗客は日本の検査でも陽性反応が出ていた。(楊井人文、大船怜)

チェック対象
日本の検査では”陰性”だったのにアメリカの検査では13人中11人から陽性反応出るなんて、日本政府の権威はますます失墜。市中感染広がりそうだし、東京オリンピックも危ういね。(2月21日のTwitter投稿
結論
【誤り】クルーズ船を下船して帰国し、アメリカの検査で陽性反応が出た11人(2月20日発表)は、うち9人が日本での検査で陽性反応が出ており、他の2人も陰性の結果が出ていたわけではなかった。

検証

このツイッター投稿は2900件以上リツイートされ、4600件以上のいいね!がついていた。これを受けて日本の検査が甘かったのでは、といった指摘が出ている。ところが、この投稿がシェアしていたCNNの記事を確認したところ、次のように書いてあった。

日本から帰国の米国人、11人に新型ウイルス陽性反応 クルーズ船に乗船
(CNN) 米ネブラスカ大学医療センターは20日、日本に停泊しているクルーズ船から下船して米国に帰国した13人のうち、11人から新型コロナウイルスの陽性反応が出たと発表した。
 発表によると、同施設に搬送された患者13人の検査を行った結果、11人に新型コロナウイルスの陽性反応が出たことを、米疾病対策センター(CDC)が確認した。残る2人は陰性だった。
 同病院の隔離対策を指揮している専門家によると、患者のうち数人は日本で行った検査で陽性反応が出ていたが、検査結果がはっきりしないままだった患者も数人いた
日本から帰国の米国人、11人に新型ウイルス陽性反応 クルーズ船に乗船(CNN.co.jp 2020/2/21)

この日本語版記事によれば、数人の患者が日本で行った検査ですでに陽性反応が出ていたことになる。ただ、内訳の人数は明確でなかった。そこで、英語版の原文を確認すると、ネブラスカ大学医療センター(UNMC)で検査した帰国者13人のうち、日本の検査で陽性だったのが9人、不明が2人、陰性が2人と、より詳しい内訳が書かれていた

Nine of the patients had tested positive for the virus in Japan and were positive again after being rested in the United States, another CDC spokesman, Joe Smith, told CNN on Friday.
Two patients whose disease status was unclear when they arrived at UNMC tested positive when they were retested. Two patients were confirmed negative in both tests, Smith said.

(筆者訳、[ ]は筆者補充、太字も筆者)9人の患者は日本の検査で陽性だったが、アメリカでの検査でも陽性になった、とCDCのジョー・スミス報道官がCNNに[2月21日]金曜日に語った。
ネブラスカ大学医療センター(UNMC)に到着したときは感染の有無が不明だった2人の患者は、再検査によって陽性と判明した。[ほかの]2人の患者は[日米]両方の検査で陰性だった、とスミス氏は語った。
11 cruise ship passengers test positive for coronavirus, Nebraska hospital says(CNN 2020/2/21)

つまり、ネブラスカ大学医療センター(UNMC)の検査で陽性の結果が出た11人は、うち9人は日本の検査でも陽性となっており、他の2人も陰性となっていたわけではなかった。日本で陰性の結果が出ていた2人はUNMCの検査でも陰性だった(なお、UNMCの発表では日本での検査結果については言及していなかった)。

ANNニュース(Abema)も21日、「クルーズ船からチャーター機で帰国のアメリカ人11人が陽性」というニュースを報じたが(Yahoo!でも配信)、この中でも日本ですでに陽性反応が出ていた事実には触れていなかった。こうした報道も「日本の検査では陰性であったのにアメリカでの検査で陽性と判明した」との誤解を与えた可能性がある。

ただし、「下船前に陰性、下船後に陽性」の事例は存在

ただ、オーストラリアの乗客で、日本での検査は陰性だったが、帰国後の検査で陽性だったケースが確認されている(NHKニュース)。日本人の乗客でも、下船前の検査では陰性だったが、下船後に陽性反応が出たケースが確認されている(静岡県の例)。船内の検査では少なかった体内のウイルスが徐々に増えた可能性や、そもそも検査の精度には限界があるとの指摘も専門家から出ている

結論

日本の検査で陽性反応が出ていた9人と不明の2人がアメリカの検査でも陽性と出ており、陰性の2人はアメリカの検査でも陰性だった。よって、「日本の検査では”陰性”だったのにアメリカの検査では13人中11人から陽性反応出る」は誤りである。
ただ、これはあくまでこの11人についてのものであり、下船前の検査で陰性だったが、下船後に陽性反応が出た事例はある。

(冒頭写真:AbemaTimesより)

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