インファクト

調査報道とファクトチェックで新しいジャーナリズムを創造します

【アメリカ大統領選挙のファクト】強行退院のトランプ大統領のもう1つの狙い

【アメリカ大統領選挙のファクト】強行退院のトランプ大統領のもう1つの狙い

  新型コロナに感染したアメリカのトランプ大統領は完全な回復を待たずに強行退院したと見られる。その狙いは支持率で劣勢な選挙にあるが、選挙戦の建て直しだけではなさそうだ。それは最高裁判事の承認だ。(立岩陽一郎)

トランプ大統領は日本時間の10月7日、共和党上院トップのミッチ・マコーネル議員の労をねぎらって次の様にツイートした。

マコーネル議員を労うトランプ大統領のツイート

ミッチ・マコーネルはいささかも遅滞なく、私が指名したエイミー・コニー・バレット候補の最高裁判事承認に向けてフル稼働してくれている

バレット候補はルース・ベイダー・ギンズバーグ判事の死去に伴ってトランプ大統領が指名した。今後、議員100人で構成される上院で承認の手続きが行われる。以前は60人の承認が必要だったが、トランプ政権になって規則が変わり過半数の51人で承認されるようになっている。それもあって、トランプ大統領は就任以来、保守派と見られる2人の判事を指名し何れも承認されている。

アメリカの最高裁判事は9人で構成され、判事が保守派かリベラル派かで司法判断が大きく変わると指摘されることから、常にその指名とその後の議会での議論が注目されてきた。現在、シカゴ連邦控訴審で判事を務めるバレット氏は保守派と見られており、上院で承認されると最高裁判事は保守派6人リベラル派3人という構成になる。保守の側から見れば絶対的安定多数となる。

それ故のマコーネル議員への労いの言葉だが、そこには、投票まで一か月を切った大統領選挙に向けたトランプ大統領の戦術が透けて見える。選挙戦のてこ入れは当然だが、加えて、バレット判事の誕生による最高裁での絶対的安定多数の実現だ。

今回の選挙では多くの州が期日前投票に加えて郵便による投票を大規模に導入している。これは新型コロン対策の一環だが、これにトランプ大統領は反発している。投票用紙の書き換えや破棄が行われ「自由で公正な選挙」にならないと主張している。加えて、「自由で公正な選挙」でなければ仮に敗北した場合、その結果を受け入れないとの考えも示している。そして、その際に判断を下すのが最高裁となる。

当然、保守派の判事がトランプ大統領の側に立った判断を下すとは限らないが、この大統領がそれを期待しているとことは間違いない。現在、上院は共和党が53議席と過半数を維持。ただし、選挙前の駆け込みでの指名に加えて、このバレット判事の指名演説の場で新型コロナの感染が広がったとの指摘もあり、共和党議員が団結するとは言い切れない。

トランプ大統領が強行退院してホワイトハウスに戻ったのには、選挙戦のたて直しとともに、最高裁判事の承認で共和党議員に造反が出ないよう自らネジを巻くという狙いが有るのだろう。この選挙を見る上で、近く始まる最高裁判事の承認手続きも注視する必要が有る。

Return Top