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【コロナの時代】学術会議問題:公文書に残る政府の言い訳の変遷②

【コロナの時代】学術会議問題:公文書に残る政府の言い訳の変遷②

日本学術会議(以下、引用以外は学術会議)について菅総理が推薦された6名の任命を事実上拒否した問題。この問題が、新型コロナに対処する政府によって引き起こされたことは偶然ではない。それは、この問題が科学に対して政治が介入した事例だからで、それは政府の新型コロナ対策に反映されざるを得ない。政治と科学の関係はどうあるべきか?政府はどう考えているのか?それを考えることで、政府の新型コロナ対策も見えてくる。それ故、InFactはこの問題にこだわっていく。(立岩陽一郎)

学術会議は今も定員を満たさない状態が続いている。しかし政府は今月(3月)末までに新たな組織について議論をまとめるとしており、議論の焦点を任命拒否から組織の在り方論にすることで決着させたい考えだ。

InFactは共産党の田村智子議員が内閣府から入手した「日本学術会議第17条による推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が行わないことの可否について」の中身から、政府の説明の変遷を報じている。その文書をまとめたのは内閣府日本学術会議事務局だ。

前回は「平成30年10月19日」とされた文書での字句の修正について書いた。その途中だが、それ以前の「平成30年10月11日」の文書が見つかったので、今回は遡ってそれについて詳述する。この文書を見落としていたのは筆者である私の責任であることも事実として記しておく。

この問題が起きたのは2020年。10月1日の「しんぶん赤旗」紙の報道で明るみに出た。しかし、この文書からわかるのは、政府がその2年前から「任命を総理大臣が行わないことの可否について」検討していたことだ。菅総理は国会で、以前から学術会議の在り方に問題が有ると考えていたと答弁しているが、それを裏付ける資料と言えるかもしれない。

この「平成30年10月11日」の文書は、修正が少ない。これは、最初に内閣府の官僚が考えた文言が反映されていると考えられる。つまり、極めて重要な公文書だ。以下、その内容を見ていきたい。

まず、「設立の趣旨、職務及び権限について」として次の様に書かれている。

日本学術会議は、独立した立場から、科学に関する重要事項を審議しその実現を図ること及び科学に関する研究の連絡を図りその能率を向上させることを職務としている」。

そして、学術会議の政府からの独立を明言している。

学問の自由は憲法で保障されているところであり、日本学術会議の使命及び目的に鑑み、日本学術会議が時々の政治的便宜に左右されることのないよう、科学者自身による科学者の代表機関としての自主性を持ち、政府等から独立して職務を行うことが保障されているところである」。

そして、「会員の任命について」だが、そこでは今回の様な総理大臣の任命拒否については触れられていない。「総理大臣は」と書かれているのは、以下の部分だ。

日学法(日本学術会議法)上、会員としての欠格条項は特段規定されていないが、会員に会員として不適当な行為がある時は、内閣総理大臣は、日本学術会議の申し出に基づき、当該会員を退職させることができることとされており、その不適当な行為とは、例えば、犯罪行為等が想定されているところである」。

これを今回の任命拒否に絡めて考えるならば、任命されなかった6人には「犯罪行為が有った」という話にもなってしまうが、事実として書くならば、今回任命が拒否された6人に「犯罪行為」が有ったという話は無い。

更に、「日学法第17条による推薦の覇束性について」という項目が有る。この第17条とは、総理大臣の任命に関する条文だ。日本学術会議法の17条は以下だ。

「日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする」。

では内閣府の文書に戻ると以下の様に書かれている。

日学法第17条による推薦に基づき行う内閣総理大臣の任命行為は、会員候補者に特別職の国家公務員たる会員としての法的地位を与えるための形式的なものと解しているところである」。

つまり2018年10月11日の段階で内閣府は、総理大臣の任命権は会員に国家公務員としての地位を与えるための「形式的なもの」としていたということだ。その理由も明確だ。

学問の自由は憲法で保障されているところであり、日本学術会議の使命及び目的に鑑み、日本学術会議が時々の政治的便宜に左右されることのないよう、科学者自身による科学者の代表機関としての自主性を持ち、政府等から独立して職務を行うことが保障されているところである

科学者が「政府等から独立して職務を行うことが保障」されるためということだ。

一方で、「どのような場合でも日本学術会議からの推薦に内閣総理大臣が絶対的に拘束されるかについては」として、必ずしもそうではないとしている。次の様に書かれている。

公務員の終局的任命権が国民にあるという国民主権の原理についても考慮する必要があり、内閣総理大臣が会員の任命に当たって、いかなる場合でも発言権を持ち得ないということは、国民・国会に対して責任を負いえないことになり正当ではないと考えられる」。

また、九州大学で学長事務取扱に推薦された井上正治教授についてのテレビでの「警察は敵」との発言などから当時の文部大臣が任命しなかったことの是非が問われた「九州大学学長事務取扱事件」の判決で、「例えば、申出が明白に法定の手続きに違反しているとき、あるいは申出のあつた者が公務員としての欠格条項にあたるようなときなどは、形式的瑕疵を補正させるために差戻したり、申出のあつた者を学長等に任用しないことができるといわなければならない」とされているとして、「内閣総理大臣は、日本学術会議から推薦された者の任命を行わないことができると解されると考えられる」と書いている。

文書の接写(筆者撮影)

この「内閣総理大臣は」の文書の前後は大きく黒塗りになっているが、何れにせよ、「九州大学学長事務取扱事件」の判決を引用していることから、以下のケースでは総理大臣が任命を拒否することが可能だとしていることは明らかだ。

  • 申出が明白に法定の手続きに違反しているとき
  • 候補者が公務員としての欠格条項にあたるとき

これは今回の任命拒否としてはどうなのだろうか?このうち①に問題の無いことは既に議論の余地は無い。では、②が今回に該当するケースなのか?通常、この欠格条項とは、刑事罰や所属機関での懲戒処分などを指す。今回の6人の研究者がそれに該当するという話は出ていない。

(続く)

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