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二階幹事長に流れた「政策活動費」の使途 関係者が重い口を開いた【政治と金の研究⑦】

二階幹事長に流れた「政策活動費」の使途 関係者が重い口を開いた【政治と金の研究⑦】

これまで2回にわたって各党が「政策活動費」などとして有力議員などに資金を出していた実態を見てきた。自民党の二階俊博幹事長にいたっては2019年だけでその額は10億円を超え、幹事長就任から総額37億円超にのぼることも伝えた。使途のわからない「闇」の資金。その使途を自民党関係者が明かした。(立岩陽一郎/冒頭写真は自民党本部webサイトから)

自民党本部から有力議員に流れる資金

ここで再び、自民党本部の「政策活動費」に話を戻す。二階幹事長にはこの2019年に10億3710万円が支払われていることは既に書いている。 この「政策活動費」は他の議員にも配られている。多い順に次のようになっている。

政策活動費が支払われた自民党議員(2019年)

役職に就いた議員を主にその対象にしていることは見て取れるが、役職に就いた全ての議員に配られているわけでもなく、また公式な役職名が確認できない議員への支払いもある。

興味深いのは2019年9月まで選挙対策委員長を務めた甘利議員に最も多くの金額が流れていることだ。この7月に参議院選挙があり大規模な公職選挙法違反事件が起きていることは言うまでもない。

こうして自民党本部から配られた「政策活動費」は二階幹事長へのものも含めて総額で13億410万円にのぼる。その規模は他の党では見られない。

●歴代幹事長に多額の資金が流れるシステム

見れば一目瞭然で、二階幹事長に流れた資金は突出している。当然、追及しなければならないのは二階幹事長に流れた資金の使途だ。実は、過去の自民党本部の収支報告書を見ていくと興味深い事実がわかる。

二階俊博議員が幹事長に就任したのは2016年8月3日だ。自転車事故で職務を続けられなくなった谷垣禎一前議員の後任だった。

その2016年の収支報告書を見ると、途中まで谷垣氏に「政策活動費」が支払われている。7月14日までの25回で総額6億7950万円。その間、二階議員には2回で1500万円が支払われている。ところが二階幹事長となった瞬間直後から、その金額が急激に増える。23回にわたって4億8750万円。

更に前の年にさかのぼると、これは自民党がシステム化している支出であることがわかる。谷垣幹事長時代には谷垣氏に、石破幹事長時代には石破氏にも多額の「政策活動費」が支払われている。公益財団法人「政治資金センター」のデータベースで過去の収支報告書を調査すると次の様になる。

歴代幹事長に支払われた「政策活動費」(2019年)

つまり自民党では幹事長に年間10億円前後の資金が支出されるシステムが有るということだ。それも問題だが、気になるのは、それがどう使われているのかだ。

「政治資金の闇①」で紹介した自民党本部の回答には、「わが党の『政策活動費』は、党に代わって党勢拡大や政策立案、調査研究を行うために、従来より党役職者の職責に応じて支出しているもの」とある。

二階幹事長なら、幹事長の職責に応じて使っているという説明だろう。これは恐らく間違いない。例えば、二階幹事長の地元である和歌山県南部を取材しても、多額の資金を使って地元に便宜を図ったという証言は得られていない。寧ろ逆だ。

「二階さんを応援しているが、あの人は正直言うと、地元に何かしてくれる人じゃない。地元の道路を拡張して欲しいとかいろいろと陳情しているが、全く変わらない」。

こうした証言を耳にすることが多い。実際、実家のある和歌山県御坊市をまわっても、お世辞にも活気の有る街ではない。

つまり「政策活動費」とは、幹事長として党の為に使う資金ということになる。それはどのような使途なのか?

事情を知る自民党関係者が明かした使途

取材を進めるうちに、その実態を知る自民党関係者に接触することができた。交渉の末、匿名且つ本人と確認できる記述は一切しないことを条件に語ってくれることになった。

2021年6月、国会に近いある建物の一室で、その人物と会った。

「二階幹事長に10億円余り出ています。それとは別に各支部や政治家の政治団体にも出ています。なぜ、個別に10億円もの資金が出るのか?」

そう問うと拍子抜けするほど明快に答えた。

モチ代氷代という奴です

「モチ代、氷代・・・つまり選挙の時に投入する資金ということですか?」

人物は頷いて言った。

昔はもっと大きかった。それが、『ちょっとまずいだろう』という雰囲気が出てきて幾分は減ってきている

この「ちょっとまずいだろう」とは、実はこの支出については刑事告発されているのだ。2001年に政治資金の透明性を求める市民グループが刑事告発。東京地検特捜部は嫌疑無しとして不起訴にしている。「嫌疑不十分」ではない。「嫌疑無し」だった。それでも、刑事告発されたという事実が自民党に少なからぬ衝撃を与えたという。しかし、それでも続けられたということだ。それだけ自民党にとって欠くことのできない支出ということなのだろう。

「一般に雑所得なら課税される筈だが?」と問うと、次の様に答えた。

そこは、政策活動費として使っているということですから、税金を払うということじゃありません。問われれば、『政治資金規正法にのっとって適切に処理しています』ということです。法律がそれ以上に踏み込んでいないので、これはOKということになっている。総務省も認めているということです

まさに、私の取材を裏打ちする回答だった。そう党本部の答えは予め決まっているということなのだろう。

それにしても、以前はそうしたモチ代氷代という考えもわかるが、それが今も通用すると考えるのだろうか。それを問うと、少し語気を強めて言った。

ですから、かなり減らしてきているということです。しかし、これは自民党だけじゃないんですよ。慣習になっている。一種の常識

「常識」と言った後、直ぐに、「勿論、これはあくまでも永田町の常識でしかないが」と付け加えた。

選挙を左右する武器としての幹事長の金

しかし二階幹事長の10億円というのは毎年の規模だ。そんなに幹事長は選挙で使うのだろうか?

使うでしょう

そう言ってから続けた。

幹事長名のモチ代氷代というのは選挙を左右する大きな武器ですから。それを投入することで、(選挙の情勢が)動きが変わるんですよ。一気に形勢が変わる。また、勝ちを確実にしたい時も、一気に使う。そういう金です

幹事長が使うから意味が有る。その人物はそう証言した。

しかし選挙に使う資金は選挙資金収支報告書に計上する必要が有る。「これは、当然、計上されないお金ですね?」と問うた。

その人物は、「そうですね」と答えた後、「こんなところで勘弁してください」と言って席を立とうとした。

1つだけ質問させてもらった。

「2019年の7月21日に参議院選挙が有りましたが、その前に1億円余りの『政策活動費』が二階さんに流れているんですよ。これはやはり選挙で使われた?」

その人物は私を見て言った。

私は知りません」。そう言って中座しつつ、「しかし、そう見るのが自然じゃないでしょうか?」と言った。

この選挙で公職選挙法違反事件も起きている。そこでも幹事長の「政策活動費」は暗躍したのだろうか。私は謝意を伝えつつ「まだ、こんなことを続けるんですかね?」と言葉をかけたが、その人物は苦笑いを見せて部屋から出て行った。

二階幹事長は6月1日の幹事長会見でこの河井議員夫妻の公職選挙法違反事件などに問われ、「ずいぶん、政治と金の問題はきれいになっている」と話している。しかし、「政策活動費」の実態から見えるものは、その発言とは明らかに違う。

選挙に使っていれば違法な選挙活動である疑いは強い。また、選挙以外の別のことに使っていないとも言い切れない。つまり、「闇」なのだ。

デジタル化で政治資金の透明性を確保

政治制度に詳しい千葉商科大学の田中信一郎准教授は次の様に話す。

政治資金規正法はこれまでも改正が行われてきたましたが、自民党が合意できる内容での改正というのが実態です。その結果、政治資金の透明性を確保するという法の趣旨から離れる状況が生じているということです。やはり政治資金は最終的な使途が1円単位で明確にする必要が有ります

田中准教授は政党交付金が政党本部に支出されることは否定していない。それは政党間の資金力の差を埋める上でも必要だと考えている。しかし、その前提として、透明性の確保は不可欠だと指摘した。

デジタル庁が出来て行政のデジタル化が進められていますが、まず先にこの政治資金の収支報告書こそデジタル化するべきです。それによって議員の側も収支報告書をまとめる労力を削減できます。労力が削減できれば、きめ細かい収支報告書も容易になります。こうしたことも含めて、政治資金の透明性を確保するための法制度の見直しを国会で議論して欲しいです

現在、収支報告書は紙で総務省や都道府県などに提出されている。その形式も統一されていない上、収支報告書の保管期間は僅か3年でしかない。政治資金の闇は、まさにそうした前時代的な制度の産物と言って良いだろう。

9月1日、公益財団法人政治資金センターは政府、各政党に対して、収支報告書のデジタル化を要請した。

(「政治と金の研究」は今後もつづきます)
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