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【総選挙FactCheck】森友公文書改ざんに関する岸田首相の国会答弁は「誤り」

【総選挙FactCheck】森友公文書改ざんに関する岸田首相の国会答弁は「誤り」

国会の代表質問で岸田文雄首相は、「森友問題・公文書改ざん」について「財務省において捜査当局の協力も得て事実を徹底的に調査し自らの非をしっかり認めた調査報告書をまとめている」などと発言して、再調査を拒否した。しかしこの時の岸田首相の発言は「誤り」だ。(浅香玲菜・井口七海・梅谷悠祐・小島遥花・立岩陽一郎/写真は衆議院ネット中継から)

チェック対象

「森友問題に関わる公文書の改ざんについては、財務省において捜査当局の協力も得て事実を徹底的に調査し自らの非をしっかり認めた調査報告書をまとめている。更には第三者である検察当局の捜査も行われ結論が出ている。会計検査院においても二度の調査を行っている」(2021年10月12日、立憲民主党の辻清美元議員の質問に対する岸田首相の答弁)

結論

【レーティング】誤り

森友問題と公文書改ざん

いわゆる森友問題とは、学校法人森友学園が近畿財務局管理の国有地の払い下げを受ける際に有利な取り計らいを受け、購入価格が通常価格よりも8億円も安くなっていたことなどが明らかになったもの。その際、森友学園側が当時の安倍晋三首相の夫人との関係を近畿財務局に示していたことが明らかになっている。公文書改ざんは、その国有地払い下げの経緯を示した財務省の文書の中で、安倍首相の夫人やその他の国会議員の関与を示す部分などが削除されるなど書き換えられた問題だ。

以下、岸田首相の答弁の内容をファクトチェックする。

自らの非をしっかり認めた調査報告書」と言えるのか?

先ず、「財務省において捜査当局の協力も得て」を確認する。大阪地検特捜部は不当に安い価格で国有財産を売却した疑いと、公文書が改ざんされた疑いについて告発を受けて捜査に着手。その結果、両件とも不起訴としている。一方、財務省は別途関係者からヒアリングをするなどして調査を行ったとされる。地検特捜部は捜査の詳細を明らかにしていないが、捜査結果を財務省に提供したという事実は確認されていない。

また、特捜部の検事が財務省職員と同席する形で資料の読み込みや財務省関係者からのヒアリングを行ったなどの事実も確認されていない。仮にそれが行われていたとすれば捜査の独立性を犯す極めて大きな問題となり、それはあり得ないと考えるのが常識だろう。つまり、岸田首相の発言にある「財務省において捜査当局の協力を得て」は、事実とは言えない。

これについて自民党本部はInFactの取材に対して次の様に答えている。

財務省において、当時、調査を行う過程の中で、捜査当局から森友学園案件にかかる関連文書の提供について協力を得たものと承知しています

これは財務省から提出された資料が検察から返却されたことを意味すると思われる。それだけで「捜査当局の協力を得て」とするのは誤解を招く表現だ。

次に、「自らの非をしっかり認めた調査報告書をまとめている」と言えるか確認する。

報告書は、当時の理財局長の佐川宣寿氏が改ざんを指示したとする点は認めつつも、直接指示した文言が明確に書かれていないなど、具体性に欠ける点が指摘されている。また、佐川氏がなぜ改ざんを指示したのかという根幹の部分が記載されていない。報告書の曖昧さを問題視する報道がある(朝日新聞 2018年6月5日)。

また、2018年6月5日の国会審議では、財務省が公文書改ざん調査で明らかにしなかった点に疑問が投げかけられ、財務省内部での調査の限界を指摘する声が与党内からも上がったとの報道もある(朝日新聞  2018年6月6日)。

また、政府の公文書管理委員会(委員長=宇賀克也・東京大教授)が2018年6月11日に決裁文書改ざんについて財務省から調査報告書の説明を受けた際、委員から内部調査の限界を指摘する意見が出たという。この時、財務省は第三者を入れた再調査をする考えを示さなかったとも報じられている(毎日新聞  2018年6月12日 毎日新聞)。

公文書改ざんを命じられたことを苦にして自殺に追い込まれた近畿財務局の赤木俊夫元職員の妻の雅子さんは、国と佐川氏を訴えている訴訟で、改ざんの経緯を明らかにするよう求めている。仮に財務省が「自らの非をしっかり認めた調査報告書をまとめている」のであれば、訴訟に至っていないと考えるのが自然だ。

岸田首相の「自らの非をしっかり認めた」との発言のうち、「しっかり」は岸田首相の主観に属する話となるのでそれを省いたとしても、調査報告書が極めて曖昧なもので「自らの非を認めた」とするのは無理がある。

検察当局は第三者機関なのか?

検察庁の公式ホームページに、「検察の理念」が書かれている。そこに以下の記述がある。

「権限の行使に際し,いかなる誘引や圧力にも左右され ないよう,どのような時にも,厳正公平,不偏不党を旨とすべきである。また,自己 の名誉や評価を目的として行動することを潔しとせず,時としてこれが傷つくことを もおそれない胆力が必要である」

その冒頭には、「この規程は,検察の職員が,いかなる状況においても,目指すべき方向を見失うことなく,使命感を持って職務に当たるとともに,検察の活動全般が適正に行われ,国民の信頼という基盤に支えられ続けることができるよう,検察の精神及び基本姿勢を 示すものである」と書かれている。つまり検察の精神及び基本姿勢は、「厳正公平、不偏不党」ということだ。

では、第三者と言えるのか? 結論を先に書けば、政府との関係で第三者と言えるかは疑問だ。

1954年の造船疑獄の際、自由党幹事長だった佐藤栄作氏に対して東京地検特捜部が逮捕許諾請求を決定するが、当時の法務大臣(犬養健法相)が指揮権を発動して認めなかった。法務大臣は検察を直接指揮することはできないが、検察トップの検事総長を指揮する権限が認められているためだ。

一般に法務検察当局と呼ばれるように、法務省が検察の組織や運営に関する事務を司っている。以下は法務省組織令に書かれている記述だ。法務省が検察の「組織及び運営に関すること」を担っていることが示されている。

(総務課の所掌事務)

第二十九条 総務課は、次に掲げる事務をつかさどる。

一 刑事局の所掌事務に関する総合調整に関すること。

二 検察庁の組織及び運営に関すること。

三 犯罪捜査の科学的研究に関すること。

四 情報システムの整備その他の検察事務

検察が独立性の高い捜査機関であることは間違いない。理念にある通り「厳正公平、不偏不党」を旨としている点も事実だろう。しかし、政府の一部署である法務省と検察は一体と見るのが自然だ。加えて前述の通り法務大臣には検察トップを指揮する権限が与えられており、第三者とは言えない。

会計検査院は二度の報告を行なっているが、その内容は?

岸田首相が示した会計検査院が行った2度の報告を見てみたい。この報告で指摘されているのは実は不明確さだ。

1度目の報告

2017年11月22日に発表された会計検査院の「学校法人森友学園に対する国有地の売却等に関する会計検査の結果についての報告書(要旨)」が一度目の報告だ。

ここでは、国有地貸付及び売却の経緯について、「 近畿財務局は、森友学園の要望に応じ、本件土地を売却する方向で事務を進めたとし、詳細な日付等は不明であるものの森友学園側と数回やり取りをしたとしているが、具体的な資料はなく、その内容は確認することができなかった」(会計検査院 p12)としている。

この中で、財務省の文書について、「本件土地の処分等に係る大阪航空局や森友学園との協議記録等に ついては、保存期間を1年未満としており、協議記録等を作成していたとしても、本件土地の森友学園との売買契約終了後等に廃棄することとしていたことから確認することができなかった」(p28)としている。

更に、電子ファイルについても、「28年10月に財務局システムを更新しており、旧システムのサーバのハードディスクについては物理的に破壊されていることなどから、28年10月以前に保存期間の満了に伴い、又は、1年未満の保存期間とされ旧システムのファイルサーバから削除された行政文書の電子ファイルのデータについては、復元することはできないとしている」(p28)。

2度目の報告

2018年11月22日に発表された会計検査院の「「学校法人森友学園に対する国有地の売却等に関する会計検査の結果について」(平成29年11月報告に)係るその後の調査について」が二度目となる。これは再検査の結果をまとめたものだが、「確認されていない」の文言が並んでいる。

ここでは財務省が会計検査院に対して、改ざんされた書類を提出していたことを明らかにしており、会計検査院は「故意に改ざんした決裁文書を提出するなどしてこれに応じなかった事態は、会計検査院法第26条の規定に違反する」(p53)と指摘している。

会計検査院の検査項目は複数有るが、それらの多くで「確認ができなかった」となっている。つまり調査の結果明らかにならないことが多かったということであって、「会計検査院が二度にわたって検査を行っている」として再調査の必要性を認めないのは論理矛盾としか言えない。

以上、岸田首相の発言を3点に分けてそれぞれをファクトチェックした。「誤り」とまで言えないミスリードな内容も一部に見られたが、多くで「誤り」と判定せざるを得ない内容となっている。よって、発言全体を「誤り」と判定する。

InFactはファクトチェックのレーティングにエンマ大王を使っている。これは誤った情報の発信をエンマ大王にチェックしてもらうという意味を込めている。この岸田首相の発言は「3エンマ大王」となる。エンマ大王の基準は記事の最後に記している。

  • 4エンマ大王 「虚偽」
  • 3エンマ大王 「誤り」
  • 2エンマ大王 「ミスリード」「不正確」「根拠不明」
  • 1エンマ大王 「ほぼ正確」

InFactはファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のメディアパートナーに加盟しています。この記事は、InFactのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。

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