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【新田義貴のウクライナ取材報告②】後方支援基地リヴィウ

【新田義貴のウクライナ取材報告②】後方支援基地リヴィウ

ウクライナ入りした新田氏。歴史ある町リヴィウで激戦の地キエフ入りの準備を進める。そこはまだ人々の生活が営まれ、激戦地の後方支援基地といった状況だった。(取材/写真:新田義貴)

3月8日、宿舎の向かいにある教会の鐘の音で目が覚める。この日は1日、リヴィウで今後の取材に向けた準備を行う。

まずは町の中心部にあるプレスセンターへ。世界中のメディアがウクライナへ殺到している中、戦場で軍の作戦に支障が出ないようメディアの交通整理をするのがプレスセンターの役割だ。同時に戦闘の状況や避難民の動静、政府や軍のオンライン記者会見などの情報発信、さらには通訳や車の情報提供などジャーナリストへの各種サービスも行われている。

プレスセンターには各国のメディアが入っていた

今回の戦争はロシアとウクライナ双方による様々なプロパガンダやフェイクニュースがネット上を飛び交い、リアルな戦争と同時に情報戦が勝敗の重要な鍵を握る様相を呈している。ウクライナ政府がメディアを味方につけてなんとかこの戦争を有利に進めたいという意気込みが伝わってくる。

さっそくプレスカードをオンラインで申し込んだが、現在申し込みが殺到していて今後は発行されるかどうかは不透明だという。とりあえずは発行を待ちつつ、カードなしでも可能な取材を進めていくしかない。  

リヴィウはウクライナ西部に位置し、歴史あるたたずまいのとても美しい町だ。町を歩いているとたまに兵士を見かけることを除けば、一見市民生活は平穏のように見える。現在戦闘が主に行われているのは東部や南部、キエフ周辺で、西部にはまだ直接大きな被害は出ていない。

街並みが美しい歴史の町リヴィウ

西部の中心都市であるリヴィウはウクライナ色が強い町で、歴史の節目節目でウクライナ民族運動の拠点になってきた町だ。今回の戦争でも難民がポーランドなどへ逃れる中継地点であり、またキエフなど戦闘地域への支援物資の補給基地にもなっている。  

午後、昼食のためにウラディミールが日頃から出入りしているというレストランへ向かう。かつては修道院だったという建物の地下にある洞窟のような雰囲気たっぷりのスペースはギャラリーが併設されていて、リヴィウのアーティストの溜まり場でもあるという。現在は避難民への無料の食事の提供を行っているという。

国境からポーランドへ逃れる人々がバスに乗り込む

ウラディミールの奥さんはここでいまボランティアとして働いている。ここでウラディミールがキエフ出身の映画監督の友人を呼んでくれていた。友人はロシア軍が侵攻してから妻子をリヴィウ近郊の村に避難させ、今もキエフの自宅とリヴィウを行ったり来たりしているという。一緒にボルシチを食べながらキエフ行きの段取りを確認する。

ところで、このボルシチ。僕らがロシアのものと思っているこの料理は、ウクライナの人に言わせると「これはウクライナの郷土料理だ」とのこと。それをきいて、僕がこだわる沖縄で耳にした話を思い出した。僕らが薩摩揚げというものを、沖縄の人は、「あれはうちなーのチキアギだ」と言う。そこに、強い隣人に苦しめられてきた人々の思いを見た気がした。

リヴィウでの束の間の休息を終え、明日からはいよいよ戦乱の地へ向かう。

(つづく)

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