新型コロナワクチンの接種開始後、積極的なメディア出演を通じてワクチンの推進活動を行っていた医師の集団がある。「こびナビ」。「こびナビ」とはどのような団体で、何を行っていたのだろうか。(田島輔)
「こびナビ」とは
「こびナビ」とは、新型コロナウイルスワクチンに関する正確な情報を届けることを目的として活動する医師の集団だ(参照)。新型コロナワクチンの接種が始まる直前の2021年1月27日に初めての打ち合わせを行い、活動を開始したとされている(参照)。
「こびナビ」は活動開始後からメディアなどを通じて積極的な情報発信を行っていた。InFactとしてもワクチンに関する正確な情報を提供しようという団体の目的に異論は無い。
一方で、「こびナビ」の発する内容は基本的にワクチンの安全性を指摘するもので、それはワクチン接種を進める政府の活動を補完する役割を担っているとも言える。
ワクチン忌避が強いとされていた日本でも、2回目までのワクチン接種率は8割を超えている。ワクチン接種を進めるための、コロナ禍での「リスクコミュニケーション」において、「こびナビ」が果たした役割は大きいとも言えるだろう。
後述するようにワクチン担当大臣がワクチンの安全性を主張する根拠として「こびナビ」の指摘を利用するケースも散見されている。
ところで、政府がその主張を正当化するために、第三者の知見を使う場合、当然、その「第三者」の「第三者性」が問われることになる。「第三者」が「身内」だったり「仲間」だったりしては、その信頼性が揺らぐことになるからだ。
では、「こびナビ」の第三者性に疑問は無いのだろうか?InFactではその点について公開されている資料や「こびナビ」に対する取材から迫って行く。
アジア欧州財団の資料
InFactが調査したところ、「こびナビ」に関し新しい事実が分かる資料が見つかった。
「アジア欧州財団」という、アジアと欧州の交流を深めることを目的としてシンポジウム等を行っている機関(参照)で、2021年10月19日~21日にかけて開催された、「Risk Communication for Public Health Emergencies(公衆衛生の緊急事態のためのリスクコミュニケーション)」と題するシンポジウムの資料だ(参照)。
このシンポジウムの3日目である10月21日に「こびナビ」の幹事である谷口俊文医師(参照)が登壇していた。
そして、シンポジウムの資料(参照)には「What is Cov-Navi? An example from Japan.(「こびナビ」とは何か?日本の事例)」という項目がある。
「こびナビ」とは何か?
そこで、資料で紹介されている内容について、興味深い点を翻訳する。
A wide range of collaboration across different entities is one of the unique characteristics of Cov-Navi; they have a close relationship with the government, including the Ministry of Health, Labour and Welfare (MHLW), and at the same time, they also work with influencers of SNS such an YouTubers.
様々な団体を超えた幅広い範囲のコラボレーションは、「こびナビ」のユニークな特徴の一つです。「こびナビ」は厚生労働省を含む、政府と密接した関係をもっています。また同時に、「こびナビ」はYouTuberのようなSNSでのインフルエンサーと協働しています。
インフルエンサーといった様々な団体との協力関係がアピールされているが、特に、厚生労働省を含む政府とは「密接な関係をもっている」とまで記載されている。
そして、政府や厚労省との協力関係の具体例として、以下の記載があった。
For example, they provide information sessions to the Minister in charge of the COVID-19 vaccines about the related misinformation. The members of Cov-Navi also help MHLW create Q&A at their website.
例えば、「こびナビ」は新型コロナワクチンの誤情報についてワクチン担当大臣に説明を実施しています。「こびナビ」のメンバーは、厚生労働省ウェブサイトのQ&Aの作成についても、厚生労働省を支援しているのです。
確かに、当時のワクチン接種推進担当大臣であった河野太郎大臣の6月24日付けのブログ(「ワクチンデマについて」)には、「この項は「こびナビ」( covnavi.jp , @covnavi)の監修をいただいております。」との記載があった(参照)。
さらに、「こびナビ」は自らのHP等で情報発信を行うだけでなく、厚生労働省の「新型コロナワクチンQ&A」の作成についても支援を行っているという(参照)。
厚労省が提供する「新型コロナワクチンQ&A」の作成も支援しているとなると、やはり、「こびナビ」と厚労省との間にはかなり緊密な関係があるということだろう。
そこで、「こびナビ」に対し「厚生労働省を含む、政府と密接した関係」とは何を意味するのか問い合わせたところ、以下の回答を得た。
我々は外部の専門家として専門知識の提供を求められ、これに対し公表されている論文や、各国公的機関等からの推奨内容やそれらの判断に関わった科学的エビデンスを、メンバー間で吟味した上で、提供させていただいております。
厚生労働省を始め日本政府とは、専門知識の提供依頼に対して、論文や各国の公的機関の推奨事項を整理して情報提供を行うことで、ともに「正確な情報を専門家でなくても理解できる言葉に翻訳して市民へ提供する」という目的達成のための協働関係にあると認識しております。
厚生労働省とは、コロナワクチンに関する正確な情報を市民に提供するという目的達成のため、協働関係にあるとのことだった。
SNSとの関係
また、「こびナビ」はYoutubeやTwitterといったプラットフォーマーとも強い協力関係にあるようだ。「アジア欧州財団」のシンポジウムの資料には以下の記載がある。
SNS, such as Twitter Japan, also cooperate with Cov-Navi. Cov-Navi was invited by YouTube to be a trusted flagger; Cov-Navi receives priorities when reporting accounts spreading misinformation related to the COVID-19 vaccine, and such accounts can be suspended.
Twitter JapanのようなSNSも「こびナビ」に協力しています。「こびナビ」は、Youtubeから「a trusted flagger (公認報告者)」に招待され、新型コロナワクチンに関する誤情報を広めるアカウントを優先的に報告でき、そのアカウントは停止される場合があります。
「こびナビ」がYouTubeの「trusted flagger (公認報告者)」となっていることやTwitter Japanと協力関係にあることは、これまでに報じられていないと思われる。
YouTubeの「trusted flagger (公認報告者)」になると、YouTubeのガイドラインに違反する、「誤情報」を発信するコンテンツの存在をYouTubeに報告した際、優先的に審査を受けることができる(参照)。「こびナビ」がYouTube上の誤情報を報告した場合には、動画が削除される可能性が高いということだ。
YouTube等のプラットフォーマーと「こびナビ」との関係は具体的にどのようなものなのだろうか。そこで、InFactでは、「こびナビ」に対し、プラットフォーマーとの関係について以下の質問を行った。
①これまでに、どのような誤情報に基づいて、どのようなYoutubeアカウントの停止をYoutubeに申し立てたのか御教示いただけないでしょうか。
② 「こびナビ」とTwitter Japanとの協力とはどのようなものなのでしょうか。Twitter Japanにおいても、Youtubeの「公認報告者」プログラムと同様の制度があるのでしょうか。
これに対し、「こびナビ」の回答は次のとおりだった。
Youtubeへの報告は、Youtubeの策定している「Misinformation policies:COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の医学的に誤った情報に関するポリシー(https://support.google.com/youtube/topic/10833358?hl=ja&ref_topic=2803176)」に基づき、当該箇所を具体的に指摘することとなっています。最終的にポリシーに違反しているかどうかを判断し、動画の削除を決定するのはYouTube側です。
Twitter Japanとの関係性に関するご質問につきまして、Twitter JapanがYoutubeの「公認報告者」プログラムと同様の制度があるか、当方では把握できておりません。ご指摘の「協力」につきまして、Twitter社からは当方の活動主旨にご賛同いただき、広告枠を無償提供していただきました。
「こびナビ」はプラットフォーマーとの間でも密接な協力関係があるようだが、なぜ、「こびナビ」がプラットフォーマーからそこまでの信頼を獲得しているのは分からない。
日本版Youtube公式ブログには、「ワクチン接種に関する有害な誤情報」への対策について、日本の厚生労働省とも協議しながら取り組んできた旨の記載があった(参照)。「公認報告者」の選定についても、厚労省が何らかの関与をしているのだろうか。
コロナ禍のような緊急時のリスクコミュニケーションは、政府と国民との信頼関係を構築する上で非常に重要だ。だからこそ、コロナワクチンに関する情報提供が適切・公平であったかは厳格に検証されなければならない。それは提供する内容だけでなく、少なくとも一方の当事者との距離感も問われる。つまり第三者性だ。
InFactでは今後も、コロナワクチンに関する情報提供が適切であったか否かについて、その第三者性の観点から検証を続けていく。
(冒頭画像:アジア欧州財団のシンポジウム「Risk Communication for Public Health Emergencies 」の資料より)