インファクト

調査報道とファクトチェックで新しいジャーナリズムを創造します

【Fact Check】小泉進次郎は年金の『支給開始年齢』を「80歳でもいい」とは言っていない。

【Fact Check】小泉進次郎は年金の『支給開始年齢』を「80歳でもいい」とは言っていない。

自民党総裁選に立候補を表明している小泉進次郎衆議院議員が、年金制度について「年金の支給開始は80歳からでいい」旨を発言したとの情報が拡散している。小泉議員の発言内容を確認したところ、「60歳から80歳までの間で年金受給開始年齢を決められる」という制度に言及したものであり、年金の一律支給を80歳に引き上げるというものではない。拡散した情報は誤解を与えるもので、「ミスリード」だった。

InFactは自民党総裁選を含めてあらゆる選挙についてどの候補を支持するということはない。InFactがこだわるのは事実であり、今後も候補者の発言やネット上の言説をファクトチェックしていく。

対象言説

いや、貰う前に死んじゃうってば。
【男性】
平均寿命 81.41歳
健康寿命 72.68歳
【女性】
平均寿命 87.45歳
健康寿命 75.38歳

小泉進次郎氏「65歳以上は『高齢者』なんてナンセンス」、年金の受給開始年齢は「80歳でもいいのでは」
(2024年9月12日)

結論

【ミスリード】進次郎議員の正確な発言は「我々は、受給開始年齢は八十歳でもいいのではないかと考えている。六十歳~八十歳までの間であれば、受給開始年齢は自分たちで決められるという考え方である。」というもの。拡散している情報は一律に年金支給開始年齢を「80歳」に引き上げることを意図したかのような誤解を生じさせており、「ミスリード」と判定する。

InFactはレーティングをエンマ大王で示している。これ2エンマ大王となる。

エンマ大王のレーティングは以下の通り。

  • 4エンマ大王 「虚偽」
  • 3エンマ大王 「誤り」
  • 2エンマ大王 「ミスリード」「不正確」「根拠不明」
  • 1エンマ大王 「ほぼ正確」

InFactはファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のメディアパートナーに加盟しています。この記事は、InFactのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。

ファクトチェックの詳細

先ず、拡散した小泉議員の「年金の受給開始年齢は『80歳でもいいのでは」との発言はどういうものだったのか確認したい。日刊ゲンダイの記事(参照)に次のような記事が掲載されている。

「進次郎氏は「65歳以上は『高齢者』なんてナンセンス」と年齢前提の社会保障制度の見直しや、現在16~64歳の「現役世代」の定義を「18~74歳」に変更などと講演やインタビューで繰り返す。年金の受給開始年齢は「80歳でもいいのでは」と語ったこともある。意味するところは「死ぬまで働け」──。いつも標準モデルに掲げるのはタレントの萩本欽一(83)だ。」

その後、SNS上では「年金80歳」がトレンドに入る等、年金の支給開始年齢が80歳に引き上げられるのではないか、との不安が広がっており、情報の拡散は、この「年金の受給開始年齢は『80歳でもいいのでは』と語ったこともある。」という部分が切り取られたものと考えられる。

対象言説のポストでは、小泉議員の主張に対し、「いや、貰う前に死んじゃうってば。」とあり、年金の支給年齢が一律で80歳に引き上げられるとの認識を前提としている。他にも、年金の支給年齢が引き上げられること前提となっているポストが多数みられる。

では、実際の発言のどうだったのだろうか。発言の全文を確認してみよう。

小泉議員の発言は、2018年10月15日の国策研究会会員懇談会でのものだ。その内容を文字起こししたものを自身のホームページで公開している。

よく誤解されるのだが、受給開始年齢と支給開始年齢は意味が異なる。受給開始年齢はひとり一人が何歳からもらい始めるかであり、支給開始年齢は一律何歳からしか支給しないという年齢を指す。現在、我々が議論をしているのは受給開始年齢の方だ。

我々は、受給開始年齢は八十歳でもいいのではないかと考えている。六十歳~八十歳までの間であれば、受給開始年齢は自分たちで決められるという考え方である。

現在は、六十歳~七十歳※の十年間の幅をもって、ひとり一人が何歳から年金を受給するかを決めることができるが、頑張って七十歳まで延ばした時には、年金額は四割上がる。一方で、六十歳で受給するという選択をすると、減額をされたまま、薄く長く支給されることになる。

今後の制度設計において、受給開始年齢をさらに後ろに延ばした場合に、年金額をどの程度上げるかなどを検討しなければならない。

※2022年4月に受給開始の上限は75歳に引き上げられている。

小泉議員は、発言の最初に「受給開始年齢と支給開始年齢は意味が異なる…支給開始年齢は一律何歳からしか支給しないという年齢を指す。現在、我々が議論をしているのは受給開始年齢の方だ。」と説明している。

現在、年金は原則として65歳から受給できる。これが「支給開始年齢」だ(参照)。
ただし、60歳以降であれば、「支給開始年齢」の65歳に達していなくとも、年金の繰上げ受給を受けることが可能だ。繰り上げて支給された場合は、受け取る年金額は減額される。反対に、年金の受給開始を66歳から75歳までの間に繰り下げることで、年金を増額させることも可能だ(参照)。このように、実際に何歳から年金を受給するか、個々人が選択するのが、「受給開始年齢」だ。

小泉議員の発言は、「受給開始年齢」について言及したもので、繰下げ受給の上限である75歳を80歳に引き上げることを主張している。一律に、年金の「支給開始年齢」を80歳に引き上げることを意図しているものではない。

拡散した情報は、あたかも年金支給開始年齢を「80歳」に引き上げることを小泉議員が主張しているかのように切り取られたものであり、誤解の余地が大きく、「ミスリード」と判定する。

冒頭画像:自民党総裁選への出馬表明を行う小泉進次郎議員(2024年9月6日)(「THE PAGE」より)

(三井滉大、田島輔)

Return Top