
小泉進次郎農水相が消費税を11%以上にするとワクワクなどと発言したとする動画がXで拡散している。この動画についてファクトチェックした結果、小泉氏の発言動画を切り貼りした創作だった。
対象言説
一華という名のアカウントが動画を引用してXに投稿し、「せぇへんわ!! 小泉進次郎 消費税待ったなし!「11%以上の消費税にワクワクしませんか?」」というコメントを添えている。

動画の内容
この投稿は5月22日時点で4.6万いいね、1.1万リツイートという反響があった。問題の動画は約45秒で、小泉氏本人と思われる映像と音声、それに音声に合わせたテロップから構成されている。背景や服装、画角は同じだが、カットが多く、一つの動画を切り取り繋ぎ合わせたものだと推測できる。確認するため、先ず小泉農相の発言部分を文字起こししてみた。説明のため、各文の冒頭には、編集部が①〜⑳の番号を付けた。
①「大変申し訳ないですけど」
②「消費税上げさせてください」
③「11%以降の消費増税が」 ※「以降」は『以上』の意味と考えられる(編集部)。
④「こんなにワクワクする世界ないと思いますね」
⑤「じゃあ 11%以降の消費増税はいつ実現できるんですか」 ※「以降」は『以上』の意味と考えられる(編集部)。
⑥「今ですよね」
⑦「さあこれからどこまでこれが伸びるのか」
⑧「何ができるのか何がベストなのか」
⑨「トップダウンでボトムアップなんですよ」
⑩「説得力あるでしょ?」
⑪「国民の皆さんにもお願いをしたいのは」
⑫「消費税から」
⑬「逃げるなと」
⑭「まあ正直言って」
⑮「15%」
⑯「待ったナシです」
⑰「へぇーそうなんだ」
⑱「何が本当で何が嘘か」
⑲「二度と立ち上がれないように徹底的に叩き潰すのが日本だからです」
⑳「世襲こそが革新を生む」
判定結果
対象となった小泉氏の発言は、2017年6月1日に日本記者クラブが主催した会見でのものだ。その内容を確認すると、小泉氏は発信のような発言はしていない。拡散された内容は、会見の主旨や発言内容とは異なる形で切り取り編集されたもので創作だ。
ファクトチェックの詳細
Xで話題となった小泉氏の発言は、「子ども保険」構想についての会見であった。日本記者クラブの公式ホームページに、2017年6月1日に行われた「小泉進次郎 衆議院議員 会見」のリポートが掲載されている。また、日本記者クラブ公式YouTubeに、会見の様子を記録した「小泉進次郎 衆議院議員 2017.6.1」の動画がアップされている。
約1時間20分に及ぶこの会見を視聴しながら、Xに投稿された動画と一致する部分を探し、照らし合わせ、会見における文脈を確認していった。その中で、特に重要である箇所を抜粋し説明していく。
②「消費税上げさせてください」(会見01:06:22)
「(1:05:57)例えば、ヤマト運輸が値上げをさせてください、もうこのままじゃ持ちませんと、私この動きを見てて思ったのは、ああ日本の社会保障と同じだな、と思ったんです。もうこのままじゃ持ちません、(01:06:22)消費税上げさせてください、って言ったのが3党合意ですよね。ヤマト運輸のことと被りましたよ。」
この場面では、「人口減少の負のインパクトを感じる現象が社会で起きている例」を話している。その中で、2012年の3党合意で増税を決断した当時の状況を説明したものだ。
③「11%以降の消費増税が」(会見00:18:43)
⑤「じゃあ11%以降の消費増税はいつ実現できるんですか」(会見00:18:48)
「(18:07) 私は消費増税というのは選択肢になり得ないと思っています。現実的ではないと思います。まず、仮に安倍総理が8%から10%に予定通り引き上げるという決断をしたとしても2年半後の決断であって、その8から10で上げる時に、子ども向けの財源として用意していた7千億円は既に先食いをしています。そして8から10の使い道はもう決まっています。じゃあ仮に新しいことやろうとした時に (18:43)11%以降の消費増税が不可欠な訳で、(18:48)じゃあ、11%以上の消費増税はいつ実現できるんですか。8%実現するまでに何年かかり、8%実現するまでに幾つの政権を必要として、そして8%のその前の5から10に上げるという決断が、与党野党が握手をして3党合意という形で握ったにも関わらず、風前の灯火というこの結果。これを考えて、消費増税でやれというのは、筋論としては良いかもしれないけれど、政治の現実を見ていないと思います。」
この場面では、記者からの質問「なぜ消費増税によって財源を確保するのではなく、子ども保険なのか」に対し、消費増税が適していない、と小泉議員自身が考える理由を述べている。「11%以降の消費増税はいつ実現できるんですか(できないでしょう?)」という反対の意味であることが分かる。しかしXに投稿された動画では、会見とは真反対の意味に取られ、増税に肯定的であるかのように使われていることが分かる。
④「こんなにワクワクする世界ないと思いますね」(会見01:00:38)
「(1:00:20)人は食べなきゃ生きていけないんですよ。これは未来も変わらない。食べるものを作るのは農業なんですよ。そのね、自分で食べるものを作れる、これ究極のものづくりですよ。(1:00:38)こんなにワクワクする世界ないと思いますね。」
ここでは、一次産業への期待を込めた小泉氏の思いが述べられており、消費税とは無関係であることが分かる。
⑦「さあこれからどこまでこれが伸びるのか」(会見00:14:46)
⑮「15%」(会見00:15:01)
「(00:14:42)医療が5%、そして介護保険が0.825、(00:14:46)さあこれからどこまでこれが伸びるのか、そしてどこまで抑制できるのかというのが大きな課題ではありますが、右から二つ目に見ていただく通り、今お勤めの方々は、毎月(00:15:01)15%給料から天引きをされているというのがこの保険料率の20年間の推移を見てわかると思います。」
Xの投稿では、「さあこれからどこまでこれが伸びるのか」という発言が、消費税が伸びていくように捉えられるように切り取られている。しかし、会見で小泉氏が伸びるのかと言っている対象は、医療と介護の社会保険料率のことである。消費税の伸びに言及しているものではない。
「15%」という数字は、給料から天引きされる割合のことであり、消費税のことではない。
⑪「国民の皆さんにもお願いしたいのは」(会見00:24:52)
「(24:52)国民の皆さんにもお願いしたいのは、私ならこうする、子ども保険、と言われるような、建設的な議論を巻き起こしていきたいと、そしてこれから政府の検討三昧の材料として早期の幼児教育の無償化のために年内に結論を得ると、そういった方向で骨太の反映の調整が進んでいる訳ですから、まさに年内の結論に向けてですね、何ができるのか、何がベストなのか、大いなる議論を展開していただきたいと思っています」
ここから読み取れることは、「子ども保険についての建設的な議論を巻き起こしてほしい」ということを伝えているのであり、消費税を上げることを伝えているのではないと分かる。
⑫「消費税から」⑬「逃げるなと」(会見00:17:38)
⑯「待ったなしです」(会見00:17:55)
「(00:17:35)これはよく、(00:17:38)消費税から(00:17:38)逃げるなと、ということを言われます。よく新聞の方から言われることが多いんですけど、私たちも消費増税を検討しない訳ではありません。ただ、この少子化対策子どものこと、(00:17:55)待ったなしです。その待ったなしの分野に確かな規模とスピード感をもって予算を用意するという観点から考えた時に私は消費増税というのは選択肢になり得ないと思っています。現実的ではないと思います。」
「消費税から」「逃げるな」という発言だが、Xの投稿ではまるで国民に向けてのメッセージのように切り取られている。しかし、こ
れは小泉氏に対する批判の言葉の例を挙げたものである。「消費税から逃げるな」といったメッセージではない。
「待ったなしです」という発言について、Xの投稿では15%の消費増税が「待ったなし」と捉えられるように編集されている。しかし、この発言は、少子化対策のことについて言及されたものである。15%の消費増税について言及している発言ではない。
⑲「二度と立ち上がれないように徹底的に叩き潰すのが日本だからね」(会見01:17:29)
「(00:16:51)まぁ、選挙は盛り上がる選挙がいいと思いますから、そういう選挙になることを期待してますよね。あとマクロンさん、トルドンさん含めて若い海外のリーダーが出てきたことも素晴らしいことだと思います。同世代としては刺激を受ける部分でもありますけど、日本の中って、若い人、そうやって世界に出てきたから、若いんだから頑張れっていう人いるじゃないですか。その裏腹にはね、失敗を待っているんですよ。そして、その失敗したときにね、(01:17:29)二度と立ち上がれないように徹底的に叩き潰すのが日本だからね。」
この発言は記者から総裁選のことについて質問されたときの解答であり、日本の政治への批判である。消費税のことは何も語られていない。
⑳「世襲こそが革新を生む」(会見01:19:21)
「(01:19:12)これは初めての選挙で、徹底的な自民党批判と世襲の批判でたたかれ、なんとかその選挙勝つことができて、その後しばらくしてからね、数年後、ある雑誌が特集記事をやりましてね、その特集記事のタイトルは、(01:19:21)世襲こそが革新を生むってね。そういう特集をある雑誌がやったんですよ。わたしはこんなもんかと思いましたね。なのでそういう社会を変えたい。」
この発言は小泉氏の初めての選挙に関する特集記事の記述を紹介したもので、小泉氏がこのような考えを持っているとは言えない。20項目のうち主要な13項目について検証した。以下の残り7項目はつなぎのフレーズなので検証を省略した。
①「大変申し訳ないですけど」⑥「今ですよね」⑨トップダウンでボトムアップなんですよ」⑩「説得力あるでしょ?」⑭「まあ正直言って」⑰「へぇーそうなんだ」⑱「何が本当で何が嘘か」
以上が、ファクトチェックの詳細だ。これについてInFactは発信者に対して動画の切り貼りを確認していることを伝えた上でコメントを求めている(6月1日)。コメントが届き次第、記事に反映させたい。
(岡田菜緒、光田彩乃、Yamao)
(編集長追記)
小泉氏が与党の有力政治家であり閣僚という立場であることを踏まえれば批判的な検証の対象であることは間違いない。しかし批判的検証は事実をもってなされるべきであり、創作された内容での批判は避けなければならない。発信者は「これはジョークだ」と言うかもしれない。仮にジョークであれば、どこかにそれとわかるコメントが必要だろう。なぜなら元の動画を確認する作業は容易ではなく、多くの人は発信内容だけ見て判断してしまうからだ。
InFactは発信者を断罪するようなファクトチェックはしない。だから「虚偽」などという強い言葉は使わず、「創作」という言葉を使っている。発信者にはその思いを理解して頂きたい。