幹事長就任から2019年までで37億円もの巨額な「政策活動費」を受け取る自民党の二階幹事長。それは使途が明かされない「闇の金」だ。その巨額さは二階幹事長の「表の金」を見ると明らかだ。そしてそこから実態も透けて見える。(立岩陽一郎/グラフィック:中堀努)
政治資金収支報告書とは
自民党の二階俊博幹事長に党本部から流れて消えた37億円超の「政策活動費」の取材は、政治資金収支報告書(以下、収支報告書)という公的な資料に基づいている。本題に入る前に多少、学習めいたことを書いておく。
この収支報告書は、国会議員がそれぞれの持つ政治団体などについて総務省か各都道府県の選挙管理委員会に届け出を行っているもので、その活動が複数の都道府県にまたがって活動する団体の収支報告書は総務省、そうでないものは事務所の所在地の自治体の選挙管理委員会に届け出が行われる。
それは3年間という限られた期間だが公開の対象となる。総務省を含め、多くの自治体ではオンラインで公開している。以下の自治体だけは今もオンライン公開に応じておらず、内容を確認するには開示請求をするか直接、役所に足を運ぶ必要が有る。
新潟県、石川県、福井県、兵庫県、広島県、福岡県。
デジタル庁がスタートしている現在、なぜこんなことがまかり通るのか?まず、収支報告書が紙媒体での提出となっていることが挙げられる。デジタル化されていないのだ。国会議員がこの収支報告書の公開に積極的ではないという点がある。故に、行政府で進められるデジタル化は立法府では進められない。不思議な話だ。デジタル化の旗振りをしているのは菅総理であり与党の議員の筈だ。しかし自らに関わる政治と金についてはデジタル化に否定的な姿勢を見せている。これについて公益財団法人の政治資金センターはデジタル化を要望している。
収支報告書についてもう1点加えておく。議員はいくつ政治団体を持っても良い。このため、自民党の大物議員などは複数の団体を持っており、それぞれについて収支報告書を出している。加えて支部長を務める党の支部の収支報告書も出す。
学習はこのくらいにして、本題に入ろう。
二階幹事長の「表の金」
前回、自民党の二階俊博幹事長について、幹事長に就任した2016年から2019年までで37億円超の「政策活動費」が流れていたことを報じた。それを問題にした理由は、その資金が消えるからだ。それを「闇の金」と呼んだ。
勿論、後述するように自民党幹事長室は「適正に処理している」としており、私も違法だと指摘するものではない。しかし、違法ではないから問題ではないとはならない。2019年の1年間だけで10億円超の資金が二階幹事長に個人的に流れ、その使途が確認できないということだからだ。
それが如何に巨額なものかは、二階氏の「表の金」を見ればわかる。「表の金」。それは、二階氏に関係する政治団体などの収支報告書の内容だ。難しいことは言わない。下の3つのグラフと図だけを見てくれても良い。その異常さがわかる。
自民党和歌山県第三選挙区支部
二階氏には自身が支部長を務める自民党和歌山県第三選挙区支部(以後、第三支部)、自身が代表を務める新政経研究会がある。何れも和歌山県御坊市の同じ建物の中にある。まずは第三支部の2019年の収入を収支報告書を見てみる。グラフに示すと次のようになる。
繰越金を除いたその年に得た収入は約5186万円。そのうち四分の一の1300万円は自民党本部からの資金だ。これは二階氏に渡った10億円余とは別だ。それが「闇の金」だとすれば、これは「表の金」だ。他にいわゆる「浄財」と言われる支援者からの小口の寄附が合計で816万円余。企業からの寄附が2292万円余。日本医師連盟や日本薬剤師連盟などの団体から450万円。
では、何に使っているのか?基本的には事務所の人件費や事務所維持費が多い。組織活動費との記載もあるが、その多くが郵便や通信費だ。活動報告の郵送などだろう。不透明感が有るのはクレジットカードでの支払いが300万円を超える点だ。クレジットカードで決済した内容はクレジットカードの会社への支払いとしか記載されないからだ。ただし月20万余の支出で、さほど大きな金額ではない。
一目見て、地味な印象が強い収支報告書だ。
新政経研究会
もう1つが、二階氏を代表とする政治団体「新政経研究会」だ。前述の通り、第三支部と同じ場所にある。これもグラフにすると以下のようになる。
繰越金を除いた2019年の収入は2353万円余。その多くが個人支援者からの寄附で、1500万円余にのぼる。こうした個人の支援者から寄付を得られるのはベテランの実力者故だとされるが、実はこの半分以上の800万円は二階氏本人からの寄附だ。この800万円には自民党から二階氏に渡った10億円超が含まれているのかもしれないが、後述するように自民党は「法律上求められている収支報告書の記載事項以上の内容につきましては、同法が配慮する政治活動の自由に鑑み、従来より回答は控えさしていただいております」としている。
本人を含む個人支援者の寄附以外は何か?実は前掲の自身が支部長を務める第三支部からの700万円などだ。つまり収入のうちの6割以上の1500万円は自身の金を回している形だ。
同じ住所に更に政治団体
実は第三支部、新政経研究会と同じ住所に「二階俊博新風会」という政治団体が同居している。代表者などに二階氏の名前は無いが、団体名でわかる通り二階氏の後援会的な団体だ。
2019年の収入は二階氏が事務所を提供しているとして60万円が計上されているだけだ。実質的な収入は無く1300万円余の繰越金でやりくりをしており、後援会の会食などに充てられている。その支出額も人件費を入れて260万円余でしかない。
「表の金」と「闇の金」
これらの「表の金」と「政策活動費」の10億円超をサイズで比較した図だ。
「闇の金」が如何に大きいかがわかるだろう。第三支部と2つの政治団体の収入を足しても8000万円に届かないのだから当然だろう。「表の金」の十倍以上になる「闇の金」。これが二階氏の力の源泉だ。そして、その支出を決めているのは自民党幹事長、二階氏その人だ。
使途から見える「闇の金」
そして興味深いのはその使途だ。
自民党の有力議員の場合、全国の自民党議員の会合への参加費が列挙されている。実際に出席しないケースも多い。出席しようがしまいが参加費を出すことでその議員を支援するという意味が有る。下の写真は菅総理の政治団体の収支報告書だ。「会費」として2万円の支払いが列挙されている。
そうすることが党内での自身の力の源泉ともなる。もちろん、「総裁選出馬の際はよろしく」という意味も持つだろう。
ところが二階氏の収支報告書には、それが全く見られない。交際費的な支出がないのだ。人件費や事務所経費といった支出が並ぶだけだ。その収支報告書から見えるのは「清潔さ」と言って良い。
繰り返すが、二階氏に渡った「政策活動費」は、2019年だけで10億円超、幹事長就任から2019年までで37億円にのぼる。これについて自民党関係者は匿名を条件に「幹事長のモチ代氷代」と答えた。つまりその金が自民党の各議員の選挙のために使われたということだろう。それは、二階氏の党内での権力基盤の強化に寄与しているということだろう。逆に言えば、この「闇の金」が有るから自身の支部や政治団体では必要以上に金を使う必要が無いとも推測できる。
二階氏の収支報告書から見える「清潔さ」。それは逆に37億円の「闇」を物語っている気もする。
「適正」との自民党の回答
二階氏に渡った37億円の「政策活動費」について問いただした自民党幹事長室の回答は以下だ。
わが党の「政策活動費」は、党に代わって党勢拡大や政策立案、調査研究を行うために、従来より党役職者の職責に応じて支出しているものであり、政治資金規正法及び関係法令に則って適正に処理しています。その詳細につきましては、総務省で公表されている党本部の収支報告書の記載のとおりであります。なお、法律上求められている収支報告書の記載事項以上の内容につきましては、同法が配慮する政治活動の自由に鑑み、従来より回答は控えさしていただいております。 また、国民の税金が原資となっている政党助成金からの支出は、総務省で公表されている使途等報告書の記載のとおりであり、政党助成金から政策活動費を支出しておりませんので、質問文中の「政党本部の収入には多額の政党助成金が含まれています。・・・その資金を受け取る以上、その使途も明らかにするべき」との指摘は、事実と異なる指摘であることを申し添えます。
立憲民主党や国民民主党、社会民主党などの野党の収支報告書にも、調査委託費や政策活動費、組織活動費の名目で同様の支出が見受けられますので、不偏不党を心がけておられる貴社は、当然、公平・公正な報道をされるものと信じております。
「適正」とする自民党。勿論、違法だと指摘することはできない。だから問題無いのか?違う。だから問題なのだ。