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【FactCheck】夫婦別性を認めると戸籍制度が破壊されるのか?

【FactCheck】夫婦別性を認めると戸籍制度が破壊されるのか?

選択的夫婦別姓制度への関心が高まっている。国会でも、立憲民主党や公明党などが法制化を求めている他、長年反対してきた自民党でも、石破茂首相が自民党としての見解を早急にまとめる考えを示すなど動きが出ている。こうした中で、SNS上では、制度に関するさまざまな情報が拡散する状況が続いている。その中には、この制度を導入することは「戸籍制度を破壊する」とするものがあったが、これは根拠不明だ。

対象言説 「選択的夫婦別性」を導入すると現在の戸籍制度は破壊される(Xのポストを要約)

結論 【根拠不明】

InFactはレーティングをエンマ大王で示している。
これは2エンマ大王となる。

エンマ大王のレーティングは以下の通り。

  • 4エンマ大王 「虚偽」
  • 3エンマ大王 「誤り」
  • 2エンマ大王 「ミスリード」「不正確」「根拠不明」
  • 1エンマ大王 「ほぼ正確」

InFactはファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のメディアパートナーに加盟しています。この記事は、InFactのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。

ファクトチェックの詳細

対象言説とした発信は2024年12月5日にXにポストされ、2025年1月19日現在で26万を超える表示がなされ1.5万の「いいね」がついている。

対象言説は「姓を変えて戸籍制度を破壊すればルーツを辿れなくなる。」としているが、その言葉の前には、「だから「選択的夫婦別性」なんだよね」と書かれており、「性を変えて」とは別性を認めること、つまり「選択的夫婦別性」を指していると考えられる。「#選択的夫婦別性に反対」とも記されている。

対象言説には、国籍別帰化許可者の数も示さており、「だから「選択的夫婦別性」なんだよね」とは、戸籍制度が崩壊することで新たに日本国籍を取得した人との差別化ができなくなるとの懸念を示したもののように見える。その主張は個人の意見なのでファクトチェックの対象ではないが、「選択的夫婦別性」を導入すると現在の戸籍制度は破壊されるという事実があるのか、ファクトチェックした。

選択的夫婦別姓とは

「選択的夫婦別性」とは、正確には、「選択的夫婦別氏制度」のことで、法務省によると、これは、「夫婦が望む場合には、結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の氏を称することを認める制度です。」とのことだ。

法務省は、「選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について」とした説明の中で、「これまでどおり夫婦が同じ氏を名乗りたい場合には同じ氏を名乗ることもできますし、夫婦が別々の氏を名乗ることを希望した場合には別々の氏を名乗ることもできるようにしようという制度です。」と説明している。

まさに、「選択的」であり、何かを誰かに強制するものではないということだ。

制度の導入後、戸籍はどうなるのか

他方、この制度を導入することによって日本の伝統的な社会秩序が壊されるといった懸念を示す人がおり、対象言説の「姓を変えて戸籍制度を破壊すればルーツを辿れなくなる」もその1つと考えらえる。 これについて上記の法務省の説明を確認すると、1996年の法制審議会の答申では、別氏夫婦、同氏夫婦のいずれについても同一の戸籍に在籍するものとされている。

つまり、現在の制度同様、夫婦とその子供は同一の戸籍に記載されるということになる。戸籍制度が存続する以上、「ルーツが辿れなくなる」ということも無いと考えて良い。

これについて、法務省に確認した。

法務省民事局は、InFactの電話での取材に対して以下のように答えた(2025年1月10日)。

「1996年の法制審議会の答申に基けば、別氏夫婦、同氏夫婦のいずれも同一の戸籍に在籍するものとされています。ただ、現在選択的夫婦別氏制度は国会で議論が進行中であり、一概に制度が導入された場合こうなるというのは現時点では言えません。」

整理したい。法務省の現時点での見解では「選択的夫婦別性」の導入によって戸籍制度が破壊されることはないという。ただし、国会での議論が進行しているため、今後について明確なことは言えないということだ。

このため、対象言説を誤りとは判断できないが、「選択的夫婦別姓制度」が現在の戸籍制度を破壊するという確証はなく、その上で自身のルーツを辿ることも不可能とまでは言えない。従って、「姓を変えて戸籍制度を破壊すればルーツを辿れなくなる。」は、「根拠不明」と判断する。

以上がファクトチェックだ。以下に、関連情報を付記する。 現在の民法では、結婚に際して、男性または女性のいずれか一方が、必ず氏を改めなければならない。しかし、その現状は女性側が姓を改める例が圧倒的であり、上記法務省の資料(厚労省の「人口動態統計」に基づく)によると、2019年には約95.5%もの夫婦で夫の姓を選択している。

浦田芳乃

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