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アメリカ中間選挙取材メモ③ トランプは許せなくても民主党には入れられない人々

アメリカ中間選挙取材メモ③ トランプは許せなくても民主党には入れられない人々

ジョージア州。伝統的に共和党が強い州だ。ただ、大都市のアトランタで民主党が支持を回復したことで現在は上院2人共に民主党が占めている。今回はそのうちの上院1議席が改選で、他に下院議員、知事、州議会議員などの選挙が行われている。選挙の動向に影響を与える知事は共和党が握り続けている。テキサス州、サウスカロライナ州などで民主党の善戦が語られる中、ジョージア州はどうなのか。首都ワシントンから飛行機で2時間余でジョージア州最大の都市アトランタの国際空港に着いた。(取材/立岩陽一郎)

10月31日の午前10時59分にレーガン空港を出てジョージア州アトランタの空港に向かった。到着は14時前。空港で出迎えてくれたのはデール・バーク氏、高校時代からの友人だ。

「ヘイ、マイフレンド、ヨイチロウ!」

スバルから降りたデールは高校時代のアメリカンフットボールチームのキャプテンの頃と変わらぬ屈強そうな体と少年の笑顔で声をかけてきた。2年前の大統領選挙以来の再会だ。アメリカの大学院時代に付き合った友人は「ヨイ」と呼ぶが、デールは本名に近いヨイチロウと呼ぶ。握手とビッグハグをして助手席に乗り込んだ。泥で汚れているのは彼が今もトレイルランなどをしているからだろう。ただ、車は新しいものだった。

「車変えた?」

「このスバル?前もスバルだったが、新しいスバルだ。スバルが2台、それとトヨタを買った。」

「3台?」

「ハイ」

デールは時折、日本語で交える。「ハイ」「アリガトウゴザイマス」「モシモシ」は彼のお気に入りでもある。

彼との出会いは2017年に出した『トランプ王国の素顔』で書いたのでここでは触れないが。保守的な土地に住むトランプ支持者であるデールの家には選挙の度に訪れている。

彼の家はアトランタから北に1時間ほど行ったチェロキー郡にある。コカ・コーラ、デルタ航空、CNNテレビなどの有名企業が本社を置く大都会アトランタを出て、暫く行くと芝生が拡がる一帯に大きな家が並ぶ一角に入る。中には乗馬の施設を併設している家もあり、裕福な人々が暮らす地域であることは直ぐにわかる。

人口の多くを白人が占めるこの地域の人びとは、基本的にトランプ支持者が多いことを隠さない。逆にトランプを支持しない人から「絶対にここではそれを口に出せない」と小声で言われたことがある。勿論、デールもトランプ支持者だ。

夫人のニッキーも既に顔見知りだ。ビックハグで迎えてくれた後、ニッキーが外出するのを待ってデールに選挙についてきいた。彼も私の来訪が単に友人に会いに来たわけではないことを知っているから、胸襟を開いて話してくれる。

「投票は?」

「した。アーリーボーティングですませた。」

アーリーボーティングとは期日前投票だ。今回の選挙では期日前投票がかなりにのぼっていることが報じられており、その多くは民主党支持者だとされる。ただ、デールの夫婦は前回の大統領選挙でも期日前で投票している。

「どちらに?」

「勿論、共和党に投票した。」

「上下両院ともに?」

「うん。民主党に入れるという選択は無い。」

これは予想された答だ。日本の報道では、トランプへの批判で多くの人が民主党に投票するという一種の流れが起きていることになっているが、そうも言えないのは、極めて保守的な地域では「民主党に投票するという選択は無い」と語るデールのような人がけして少なくないからだ。

では、トランプ支持者のデールはトランプ大統領についてどう考えているのか。それを尋ねると顔をくもらせた。

「多くの点で残念に思っていることは間違いない。彼は大統領になる時に言っていたことと全く逆のことをやっている。勿論、国境の管理などの政策や中絶に対する対応は支持している。だけど、他の政策は受け入れられない。」

デールはメキシコに本社のあるボトリング会社の東海岸の責任者だ。製造したボトルをコカ・コーラなどの飲料メーカーに販売するのが仕事だ。トランプ関税の影響は無いのか?尋ねてみた。

「すべてではないが一部のボトルはカナダの2つ工場で製造している。それをアメリカに持ち込む際に、カナダに課された50%の関税が重くのしかかっている。関税分をカナダの会社が負担しているが、それは当然、売り値に反映される。」

それでもトランプ氏を支える共和党に投票するのか?

「民主党に投票する選択肢はない。彼らは社会主義者だ。社会民主主義と言っているが、民主党で影響力を持つ議員の発言を見ると共産主義者にも見える。そういう政党に投票することはあり得ない。」

ただし、とデールが続けた。

「私の友人の中に、今回は投票そのものを回避するという人間が多くいる。その結果、民主党の候補者の票が共和党を上回る可能性は有るし、ジョージアはスウィング州のようになるかもしれない。」

スイング州とは、共和党のレッド州でも民主党のブルー州でもなく、選挙によって結果が変る州のことだ。デールはジョージア州をレッド州と位置付けている。勿論、アトランタ以外の場所は圧倒的に共和党が強く、デールの認識はそこから来ているが、現在は上院の2席を民主党が握っており、正確にはレッド州とは言えない。アメリカの選挙の読み難いところだ。それはさておき、デールは続けた。

「仮に、だが、今回が大統領選挙でトランプを選ぶかと問われれば、トランプに入れることはない。ただ、ハリスに入れることもない。今回の選挙で連邦議会の投票を控える人が共和党に多いだろうとは思う。ただ、私はトランプにではなく、あくまで共和党に票を入れた。」

アメリカの選挙は大統領選挙時も投票用紙は長く、大統領候補から始まって上下両院、知事、州議会、視聴の候補者などの一覧が続く。仮に大統領の候補者、上下両院の候補者にチェックを入れなくても、知事、州議会などの候補者には投票することができる仕組みだ。

(ジョージア州の候補者一覧の一部)

夫人のニッキーには翌日の11月1日に話をきいた。この日は日曜日で朝の教会に行った後だ。教会は前回の大統領選挙でも夫妻に同行して行っており、その際に主任牧師に選挙について話をきいている。今回もその教会で同じ主任の牧師に話をきいた。それについては④で書く。

冒頭が夫妻の写真だ。端正な顔立ちのニッキーは高校3年生になるジャックの世話が第一の専業主婦だが、明るい性格で地域の主婦のリーダー的な存在でもある。デールには部屋から出てもらって彼女から話をきいた。彼女も既に期日前投票を終えていた。

どちらに入れたの?

「勿論、共和党。私も民主党に入れるという選択肢はない。」

では、トランプ大統領についてはどう思う?そう尋ねると彼女は頭から煙が出るようなしぐさをして「ブー」と口にした。「とんでもないこと」といった時にアメリカ人がよくやる所作だ。

「彼は選挙時に言ったことを何一つしていないどころか、その逆を行っている。」

その後は、まくしたてるという勢いで話した。

「戦争をしないと言っていたのに、いきなりイランを攻撃した。それはなぜなのか?イランが核兵器でアメリカを狙っていた?イランが核兵器を既に準備していてボタン一つでアメリカに核ミサイルを落とせる状態だったのか?もしそうだったのなら、その証拠を見せて欲しい。残念だが、そんな証拠はない。」

このイラン攻撃を正当化する説明はトランプ政権が繰り返し行っているもので、それを信じている共和党支持者は少なくない。実はこのインタビューの前にニッキーの父親も交えて食事をした際に、ニッキーの父親はそう言って、「イラン攻撃は必要だった」と述べた。その際、ニッキーは「パパ、それは間違っているわ。そんな証拠はどこにもない。それに、イスラエルは既に核攻撃をする能力を持っている。自分たちで何とかできるはずよ。それにもしイランが核ミサイルを準備し終えていてとして、それがアメリカを標的にできるほどのものなのかは疑問だわ」とその場で強い口調で語っていた。私の質問で親子がもめるのは申し訳ないので運ばれた食事の話に変えさせてもらったが、あらためてニッキーの話を聞く必要があった。なぜなら2年前の彼女は明確にトランプ支持を表明していたからだ。

「イラクで私たちは大量破壊兵器という嘘をつかれた。今度も同じだと思う。なぜトランプはイランを攻撃する必要があったのか?誰か教えて欲しい。でも、誰も説明できない。」

全くの正論に頷く。しかし前回の選挙でトランプ支持を鮮明にしていた彼女の口から出てくる正論だけに、新鮮さを感じる。では、トランプはなぜイランを攻撃したのか?ニッキーは信ぴょう性のある話として、イスラエルがトランプの弱みを握っていると話した。

「陰謀論のように聞こえるかもしれないけど、これしか積極的に説明できるものは見つからない。だって彼は戦争には反対だと言って選挙戦を戦っていたのよ。それが180度違う選択をし、その結果、この国にとって何一つ良いことは起きていない。」

そして母親としての顔を見せた。

「息子のジャックはこんな戦争に行かせない。徴兵になったら南米に逃す。これは全く意味のない戦争よ。ベトナム、イラクと同じよ。」

私は息子のジャックを8歳の時から知っている。実は今や野球選手として将来が期待されているアスリートでもある。来年は野球の推薦でノースカロライナ州の大学に進学する。将来は勿論メジャー志望だが、「日本のNPBも良いよ」と伝えると、「そうだね」と頷くかわいらしい青年…少年だ。

そのジャックを戦争に…「行かせない」という話のときは、ニッキーが顔をゆがめ、私をにらむかのように言った。勿論、にらんだのは私ではなく、連邦政府であり、そのトップに君臨するトランプ大統領だ。

その「意味の無い戦争」によって急騰しているガソリン価格だが、当然、ガソリン価格の上昇はあらゆるものに波及する。一昔変えは年収10万ドルというのは中流の一つの頂点だったが、今はどうなのだろうか?

「この地域はまだアトランタや他の大都市に比べれば生活費はかからない。でも、年収10万ドルでは今の生活を維持するのは難しくなってきている。」

日本円で年収1500万円で維持できない生活とは、確かに日本の中流よりは豊かな生活に見える。それは家が大きいというだけではなく、全てがゆとりに満ちている。3台の車、家の地下には卓球台やウエイトトレーニングの設備があり、カヤックやマウンテンバイク数台が揃っている。単に金が有るということではなく、生活を楽しむあらゆるものが揃っているという感じだ。これは日本では中流より上の生活だろう。しかし、それがアメリカの普通の中流、ミドルクラスだ。それが年収1500万円ではできなくなるという。それだけあらゆるものの出費が増えているということだろう。

ニッキーも、友人たちの話をした。

「私は共和党の候補者に票を入れたけど、友人の多くは今回、投票をしないと話している。それは民主、共和を問わず、今の政治に失望を感じている人が多いからだと思うけど、恐らくそう感じる人は共和党の支持者に多いとは思う。」

その理由は尋ねる必要は無い。

「すべてはトランプよ。トランプに対する不満と不信感と嫌悪が多くの共和党支持者に有ることは間違いない。」

それでも、と彼女は言った。

「国境を開放したり、中絶を認めたり、未成年に性転換手術を認めるといった民主党の政策を私は賛成しない。そうしたことを言う政党に私が投票することはないわ。」

そして続けた。

「もう民主、共和といった二大政党制の時代ではないのかもしれない。例えば大統領候補で来年、トランプに投票することはないし、トランプの意を受けた共和党の候補者に投票することもない。かと言って民主党の候補者には入れない。だから誰か独立系の候補者が出てくれればそこに投票するわ。」

そう言い切ってニッキーは笑った。その笑いは苦笑いともとれるし、悲しみの裏返しともとれる。それを尋ねようとして、やめた。私は見たままを描写すれば良い。そう思ってニッキーに謝意を伝えた。ニッキーは、「No no no」と首を振って、そろそろ少年サッカーにイベントでのプリッツ売りからジャックが変える頃だと言った。

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