大統領候補がともに高齢なことから「史上最も重要な副大統領候補」と言われる二人による討論が10月7日(現地時間)にユタ州のソルトレイクシティーで開かれた。その結果は63対19だった。何の結果かと言うと・・・(立岩陽一郎)
副大統領候補は現職のマイク・ペンス氏と民主党上院議員のカマラ・ハリス氏。そして、この日の司会はUSAツデー紙ワシントン支局長のスーザン・ペイジ氏。前回の大統領候補による討論が回答者を無視した不規則発言で混乱したこともあり、ペイジ氏はそれぞれの候補に、「2分間で話してください。その間、あなたは私からも誰からも邪魔されることはありません」を繰り返した。
当初は、ペイジ氏に従っていた両候補だが、徐々に不規則発言が増えていく。顕著だったのはペンス氏。再三にわたってペイジに、「有難うございました。あなたの時間は終わりました」と指摘された。その数は63回だ。数え方によっては更に増える。一方、ハリス氏は19回だった。
討論は、新型コロナへの対応、副大統領の職務、経済問題、気候変動、中国への対応、最高裁判事の任命、警察の問題、選挙といった9つの項目で議論された。中継したCNNが「Dodge」という言葉を多用したのは、両候補とも質問を正面から受け止めなかったとの印象が強かったからだ。
そうなると、この63と19という数字が示す印象がどう有権者に受け止められたかが気になるところだ。討論の仕方が初等教育から組み込まれているアメリカでは、発言そのものと同じくらい討論のルールに従ったかも厳しくチェックされる。
こう書くとハリス氏が優勢だった・・・となるし、メディアの多くは調査結果をそう伝えている。そうなのかもしれない。ただし、前回2016年の大統領選挙の時もそうだが、討論ではヒラリー候補が優勢というのがメディアの判断だった。結果を読むのは難しい。
討論の最後に、両候補の違いが垣間見られる場面があった。それまで自らの質問を発していたペイジ氏が、地元ユタ州の中学生の作文を読み上げた時だ。中学2年生のブルックリン・ブラウンさんの作文だった。
「ニュースを見ると、いつも民主党と共和党が口論している。ニュースを見ると、市民どうしがいがみ合っている。ニュースを見ると、二人のリーダーが罵啞っている。あなた方の行動が、私たちを1つにする」
そして問うた。
「このブルックリン・ブラウンさんの問いかけにどう答えますか?」
ペンス氏は次の様に答えた。
「政治に興味を持ってくれたことに感謝します。アメリカは自由で闊達な意見の交換を尊んでいます。その自由な国が、この国の繁栄を支えてきました」
そしてリベラル派と保守派として対極にいてともに死去した二人の最高裁判事の事例をあげて、「二人はリベラルと保守と対極にいたが、家族を交えた親しい友人だった」と紹介した。
そして次の様に結んだ。
「ディベートで激しくやり合い議論することは重要です。しかし必ずしや意見は一致し、私たちは一緒に行動します」
副大統領としての意識も手伝ったのかもしれないが、中学生に伝える満点の答弁と感じた。しかしハリス氏は少し違った。
「若いリーダーから声が聞けてうれしく思います。未来は明るいと思いました」
ここまではペンス氏と同様に、ブラウンさんの懸念を払しょくする言葉だった。しかし、それは直ぐに変わる。
「ジョー(バイデン)の話をしましょう。ジョーは、(人種差別に反対した女性が死亡した)シャーロットビル事件でこの国の分断を知って立候補を決意しました。ジョーは超党派としての実績が有ります。これまで人々を支え、人々の尊厳のために戦ってきました。彼は私たちの痛み、苦しみ、愛を知っています」
完全な選挙戦の話となっていた。勿論、最後はブラウンさんの話に戻る。ただし、どちらかと言うと有権者向けの言葉に聞こえる。
「あなたの様な人がいるから私は未来は明るいと思います。私たちは投票によってお互いの意見を決めていきます。あなたの一票が未来を決めていくんです」
勿論、中学生のブラウンさんに投票権は無い。
この討論会でペイジ氏がどのような質問するかは、両候補とも知らされていない。最後の最後に中学生からの問いかけが出るとは想像していなかったかもしれない。
その瞬時の判断で最初から最後まで中学生に語り掛けたペンス副大統領を「誠実」と見るか、中学生への返事も選挙戦に利用したハリス議員を「やり手」と見るかは、有権者の判断だ。