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3 1 1 緊急特集 「 福島第一原発事故から6年 」 「甲状腺がん多発 − 被曝の影響は本当に無いのか?」後編

とりわけ甲状腺検査については、診断書ももらえず医療記録の入手に煩雑な情報開示手続きが必要であるなど、懸念を表明していた。

しかし、グローバー報告書への日本政府の反論声明は、健康調査の内容が妥当であると強調するだけだった。

●政府が主体で健康調査の拡大徹底を

チェルノブイリ原発事故被災地では、大人の甲状腺がんも増加し続けている。事故後に生まれた子どもたちの中からも発症しており、放射性ヨウ素だけでなくセシウム起因説も否定できない。他のがんや非がん疾患の長期多発をみても、日本の健康調査があまりにも不十分であることは、国外からの指摘にもあったとおりだ。

除染が行われている放射能汚染地域は8県100市町村余りに及び、福島県以外でも進行の早い甲状腺がんの症例が複数確認されている。前編で述べたように、チェルノブイリ事故後に欧州の広範囲の国々で発症したことから、健康調査地域の拡大も不可欠だ。

そのためには、健康調査の主体は、福島県ではなく日本政府であるべきだろう。

対策が遅れて被害が拡大した四大公害病のような、公衆衛生上取り返しのつかない重大な事態を回避するためにも、放射能汚染地域の住民全員を対象にした、包括的な健康管理や保養を徹底する「チェルノブイリ法」のような体制作りを、日本政府が早急に進めることを願ってやまない。(了)

311緊急シリーズ「福島第一原発事故から6年」   「甲状腺がん多発 − 被曝の影響は本当に無いのか?」前編

<<執筆者プロフィール>>

川崎陽子
欧州(ドイツ語圏)在住環境ジャーナリスト。 横浜国立大学卒業後、研究職・技術職を経て渡独。公害大国がなぜ環境先進国になれなかったのかを追求するため、ドイツ・アーヘン工科大学で応用工学修士(環境学・労働安全)取得。 中央集権制官僚主導政治やメディアの偏向報道などドイツとの違いに気づき、執筆テーマに関連付けて発信中。 主なテーマは、サスティナビリティー(持続可能性=次世代以降に引き継ぐ地球環境保全)と、そのための核廃絶、日本古来の伝統作物大麻(おおあさ=ヘンプ)の復活、および地域主権。 共著に「公害・環境問題と東電福島原発事故」(本の泉社、2016年)など。


 

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