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[新型肺炎FactCheck] 「知事が東京マラソンの中国人参加自粛を要請」報道は不正確

[新型肺炎FactCheck] 「知事が東京マラソンの中国人参加自粛を要請」報道は不正確

新型コロナウィルスをめぐり、産経新聞のニュースサイトが「小池知事、東京マラソンの中国人参加自粛を要請」との見出しで記事を配信した。しかし、小池知事は会見で「中国人」の参加自粛を求める発言はしておらず、不正確だ(楊井人文、田島輔)。

チェック対象
『小池都知事、東京マラソンの中国人参加自粛を要請
 新型コロナウイルスによる肺炎をめぐり、東京都の小池百合子知事は7日、3月1日に実施予定の東京マラソンについて「(中国行きの)フライトも止まっている。結果として(中国人の参加)自粛という形になる。メールなどで(参加自粛要請の)連絡をしている」などと語った。
(2020年2月7日、産経新聞ニュース
結論
【不正確】小池知事は会見で「中国人」に限定して参加の自粛を求める発言はしていない。中国からのフライトが止まり、渡航できない参加予定者について「結果として自粛という形になろうかと思います」と述べていた。都の要請を受けた主催者団体も「中国人」に限定した参加自粛の発表はしていない。

検証

産経ニュース(ツイッターのフォロワーは約40万人)が「小池百合子都知事、東京マラソンの中国人参加自粛を要請」というタイトルで報じた投稿は、1500件以上リツイートされ、3000件近くの「いいね」が付いた。これに対し、ツイッター上では小池知事を非難する反応が相次いだ。

感染は全国的に広がってしまっているのに…?中国人だけはだめだなんて…
大会を強行するなら参加する全選手に感染有無の検査をする必要があるのでは?

なんで? 意味がわからない。 中国人が参加しなければ感染が広がらないと今この時点で考えるに至った根拠は、合理的なの?

混乱の中で公人が差別への抗議の呼びかけを全く行わないどころか、日本での中国人に対する差別煽動をさらに促進するような判断を下しているという事態。

主催者は「中国在住者(国籍問わず)」の不参加者への対応を発表

新型コロナウイルスをめぐる渡航制限などの影響を受け、東京マラソン(3月1日)を主催する東京マラソン財団は2月6日、「参加予定の中華人民共和国在住の皆様へ」と題し、渡航・参加できない中国在住者への措置を発表した。これは「中華人民共和国在住者(2月1日時点エントリー情報の住所)(国籍を問わず)で、日本に渡航できない、もしくは渡航を取りやめたため東京マラソン2020に参加できなかったランナーの方」について、翌年の東京マラソンへの参加権を確保するという内容で、「中国人」(中国国籍者)に限定していない。「中国在住者」であれば、中国人であれ日本人であれ対象になるし、「日本に在住している中国人」(在日中国人)は対象にならない。

小池知事も「中国人」に限定した発言はしていない

産経ニュースの記事は、この発表の翌7日、小池百合子都知事の記者会見での発言を報じたものだ。実際に、小池知事はどのように発言したのか、記者会見の録画を確認した。

小池氏はこの会見で、2人の記者から東京マラソンについて質問を受けていた。1人目は財団の発表についての受けとめを質問し、小池氏は「中国からの参加者の方、参加予定者でありますけれども、今回、渡航できないなどの理由で参加できない方には、来年に繰り越して参加することができる」という発表内容を改めて説明。都が財団に対し「感染予防や相談窓口の周知に努めることなども既に要請をしている」と明らかにした。このやりとりでは「中国人の参加自粛要請」という趣旨の発言はなかった。

2人目の記者(日経新聞)は「今日、公明党の山口代表との会談で、東京マラソンの中国人参加者の参加自粛要請をするとお話をされたようなんですけども、この要請は決定されたものなのでしょうか」と質問。これに対し、小池氏は「自粛というか、今、フライトも止まっているなどございます。そういった方々には、結果として自粛という形になろうかと思いますけれども、その点は、既にメールなどでやりとりといいましょうか、それは確実にできておりますので、その旨についてご連絡を申し上げているということであります」と答えた。

このやりとりだけみると、小池氏は「中国人」参加自粛要請についての質問を明確に否定しておらず、そのことを認めたと受け取られかねない発言にみえる。だが、小池氏の発言は「『フライトが止まっている方々』については、結果として自粛という形になる」というもので、「中国人」に限定していない。「フライトが止まっている方々」は、その前の質問で小池氏が言及した「中国からの参加者の方、参加予定者でありますけれども、今回、渡航できないなどの理由で参加できない方」と同じ趣旨と考えるのが自然である。

東京マラソンを所管している東京都のオリンピック・パラリンピック準備局広報担当者に確認したところ、「知事から『中国人』の参加自粛要請の指示は出ておらず、都から財団にそのような要請をしたこともない」と説明した。

日経新聞は第一報の誤報を修正済み

日経新聞は、小池氏の会見前に、中国人の参加自粛を要請へ」と報じていた。だが、現在は「東京マラソン、中国からの参加自粛を要請へ」に修正され、小池知事が「中国からの参加希望者が千人近くおり、今回の参加は自粛するよう要請する」と語った、と公明党の山口代表が明らかにしたという内容になっている。当初報道が誤報と判明したためとみられるが、日経の記者はこれを前提に質問していた。

なお、財団は10日、公式サイトに自覚症状がある人への参加自粛を求める記事を掲載したが、中国人に限定する表現はない。同時に、中国語(大陸で使われる簡体字)で、参加者の感染対策など中国人の参加を想定した文書も掲載されている。また、財団の広報担当者によると、来年の参加権を確保する措置の対象は「2月27〜29日にランナー受付に来られなかった中国在住者」であり、現時点では「入国制限を受けずに中国から渡航できる人が参加できなくなるわけではない」としている。今後の対応を引き続き検討しており、近く新たな発表がなされる可能性がある。

【追記:2020/2/15】財団は14日、中国在住者(国籍問わず)の参加予定者に東京マラソンへの参加自粛を求める発表をサイトに掲載した

小池知事記者会見(2月7日)、東京マラソンに関するやりとり全文

【記者】共同通信の清です。東京マラソンについてお伺いします。東京マラソンの主催者のほうで、中国在住の方で、今年は出られないという方については、来年の出場権を確保するという発表がありました。これについて受けとめをお願いします。

【知事】そうですね、中国からの参加者の方、参加予定者でありますけれども、今回、渡航できないなどの理由で参加できない方には、来年に繰り越して参加することができると。いわゆる当たった方々などは、その部分は保留ができるというようなご案内を出したと聞いております。大会時の万全な運営が必要でございますので、都として財団に対しましては、感染予防や相談窓口の周知に努めることなども既に要請をしているところでございます。また、参加を予定されている方には、感染予防のマスクや、また、体調が十分でない場合は参加を見合わせるなどの広報なども行っていくということで、状況に応じて適時適切な対応を行うことも、あわせて要請をしているところであります。

【記者】日本経済新聞の鬼頭です。すいません、同じく東京マラソンについてなんですけども、今日、公明党の山口代表との会談で、東京マラソンの中国人参加者の参加自粛要請をするとお話をされたようなんですけども、この要請は決定されたものなのでしょうか。

【知事】自粛というか、今、フライトも止まっているなどございます。そういった方々には、結果として自粛という形になろうかと思いますけれども、その点は、既にメールなどでやりとりといいましょうか、それは確実にできておりますので、その旨についてご連絡を申し上げているということであります。
小池知事記者会見(2020年2月7日)(東京都)

結論

小池知事は会見で「中国人の参加自粛」を明言した事実はない。記者からの「中国人参加自粛要請」の質問を明確に否定していなかったが、自らは「中国からの参加者の方」「フライトが止まっている方々」などと述べており、「中国人」に限って参加自粛を求める発言をしたとは言えない。したがって、「小池都知事、東京マラソンの中国人参加自粛を要請」という報道は不正確である。

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