NHK日曜討論で自民党の甘利明幹事長が野党共闘を批判。その中でターゲットにしたのが共産党の主張だった。これに対して小池晃書記局長が反論したが、その反論にはミスリードな内容も含まれていた。(立岩陽一郎/写真は番組で自民党・甘利幹事長に反論する共産党・小池書記局長)
チェック対象
共産党の綱領には天皇制について「おかしいと書いてあります」とした自民党幹事長発言に対する共産党・小池晃書記局長の「おかしいとは書いていません」との発言。(2021年10月17日 NHK日曜討論)
結論
ミスリード
「おかしい」とは書かれていないが、そういう趣旨と理解するのが自然。
10月17日のNHK日曜討論で自民党の甘利明幹事長が「共産党新綱領でこう書いてあります。ひとりの個人が世襲で国民統合の象徴となる今の制度は、民主主義の視点からはおかしいと書いてあります」と発言した。
これに対して共産党の小池晃書記局長は「おかしいなんて書いていません。正確に言ってください。おかしいって書いていませんよ」と反論。
では、日本共産党の綱領にはどう書いてあるのか。以下は2020年1月18日に開かれた第28回党大会で改定された綱領だ。
党は、一人の個人が世襲で『国民統合』の象徴となるという現制度は、民主主義および人間の平等の原則と両立するものではなく、国民主権の原則の首尾一貫した展開のためには、民主共和制の政治体制の実現をはかるべきだとの立場に立つ。天皇の制度は憲法上の制度であり、その存廃は、将来、情勢が熟したときに、国民の総意によって解決されるべきものである。
日本共産党綱領
甘利幹事長の発言は、この「一人の個人が世襲で『国民統合』の象徴となるという現制度は、民主主義および人間の平等の原則と両立するものではなく」を指していると考えられる。
確かに、「おかしい」とは一言も書かれていない。その点では小池書記局長の発言は誤りではない。しかし、「民主主義および人間の平等の原則と両立するものではなく」と書かれており、「民主共和制の政治体制の実現をはかるべき」と続いている。「両立」の対義語が「矛盾」であると考えれば、ここに書かれている言葉は甘利幹事長の発言とは矛盾するものではない。
甘利幹事長は続けて「将来変える必要があるとおっしゃって」と発言し、小池書記局長は「そんなこと書いてありません。書いてありませんよ。ちゃんと読んでください」と再度反論している。
これも、確かに綱領には、天皇制を「将来変える必要がある」とは書いていない。しかし、「民主共和制の政治体制の実現をはかるべき」とした上で「将来、情勢が熟したときに、国民の総意によって解決されるべきもの」としている。この文言は「将来変える必要がある」との主張と理解するのが自然だ。
甘利幹事長は与党の幹事長として発言に正確さが要求される。その点で小池書記局長が反論したということは理解できる。しかし、一方で、小池書記局長の発言は、党の綱領の趣旨を正確に伝えるものとはなっておらずミスリードと判定する。
これについて日本共産党に以下の質問を送った。
- ここで「両立するものではない」とは「おかしい」と理解するのが自然な気がしますが、如何でしょうか?
- 「将来、情勢が熟したときに、国民の総意によって解決されるべきもの」を甘利幹事長は「将来変える必要がある」と解釈したものかと思います。これは「将来変える必要がある」との解釈ではないという理解で良いのでしょうか?
共産党の中央委員会広報部からの回答は以下だ。
「綱領に書いてあります通り、①両立するものではありません。②国民の総意によって解決されるべきもの。ということです」。
ファクトチェックは発言が事実に基づくか否かを検証する取り組みで、発言の是非を議論するものではない。また発言者を批判、非難するものでもない。InFactはファクトチェックの判定をエンマ大王の数でも示している。この「ミスリード」の判定は「2エンマ大王」となる。
- 4エンマ大王 「虚偽」
- 3エンマ大王 「誤り」
- 2エンマ大王 「ミスリード」「不正確」「根拠不明」
- 1エンマ大王 「ほぼ正確」
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