インファクト

調査報道とファクトチェックで新しいジャーナリズムを創造します

【立憲はなぜ負けたのか③】農村部の選挙区で敗れた候補から出た「立憲は連合の政党なのか?」

【立憲はなぜ負けたのか③】農村部の選挙区で敗れた候補から出た「立憲は連合の政党なのか?」

立憲民主党(以後、立憲)は泉健太代表による新執行部での体制が始まった。しかし先の選挙での敗戦を総括しないと再生は難しい。その際に避けて通れないのは、保守的な有権者が多い農村部での選挙対策だ。和歌山で敗れた候補者は、「立憲は連合の政党なのか?」と選挙戦を通じて感じてきた疑問を口にした。(立岩陽一郎)

農村地帯からなる和歌山2区

和歌山県は広い。その広い面積は農村部が占めている。梅、柿、みかん・・・全国にその名を知られる果物王国だ。そして、それは農村部特有の保守王国でもある。3区の二階俊博氏はその象徴かもしれない。

その和歌山県かつらぎ町に藤井幹雄さん(61)を訪ねた。藤井さんは2区に立憲から出て敗れた。自宅のリビングで向き合って選挙について尋ねると直ぐに出たのは次の一言だった。

自宅で取材に応じる藤井さん

「選挙って理屈じゃなくてイメージ」

今回の選挙を数字で見よう。

和歌山2区の選挙結果(2021年)

自民党の現職に対してダブルスコアでの敗北となった。藤井さんは振り返った。

「できることはやった。立候補を表明して1年あって、準備はしていた」

藤井さんは和歌山市内に事務所を構える弁護士だ。地元から東大法学部に進み弁護士となった。和歌山県の弁護士会長も経験。加えてトライアスロンや水泳のマスターズに出るスポーツマン。候補者として申し分無い人材だ。

2019年の参議院選挙に立憲から出て敗れた。それが最初の選挙。今回は満を持しての選挙だった。

「参議院選挙の時は準備も十分ではなく、兎に角出て頑張ったというだけだった。今回は自民党を批判する声も多く、勝つことを意識して選挙を戦った」

しかしこの結果だった。

「やはり私には組織が無かった。自民党は『面』で選挙している。立憲は『点』でしかできていない。『点』と『点』をつなげられなかった」

吹っ切れた表情で淡々と語った。

保守的な地域で戦うとは

2017年の選挙結果を見てみたい。

2017年の和歌山2区の選挙結果

自民党が常に7万を超える票を持つ。そして、自民党以外の浮動票も基本的に保守なのがわかる。ただし、共産党も手堅い票が有る。希望と維新の票も含めて、典型的な農村部の有権者の動向を見ている感じだ。だから、ここでどう戦うか、否、どう負けたかを分析することは立憲にとって重要だ。

藤井さんが今回の選挙で善戦していたこともこの数字からわかる。しかし仮に、希望、共産、維新の票を足し上げても6万に届かないのも事実だ。ここで勝つには、自民の票を切り崩さなければいけない。

藤井さんは選挙戦で何を訴えたのか?

「地域の代表として、この地域をどうするのかを訴えた。それと、嘘ごまかしがまかりとおるような日本で良いのか。正常な日本に戻そう。当たり前の政治に戻しましょう」

そう訴えた。そして、地域の地場産業である農業振興。

「私は(実家が)農家。私は農業に一番近い政治家だと訴えた」 

選挙戦時の藤井さん

勿論、藤井さんは弁護士としてジェンダーの問題や格差の問題に強い関心を持っている。しかし、この選挙でそれを第一に主張しても有権者には届かない。それが農村の選挙だ。ある意味で立憲的な部分を封印しての選挙だったと言える。

野党共闘の在り方

では、野党共闘は藤井さんの選挙にはどういう意味を持ったのか?

「当然、候補者調整は重要です。共産党は私の事務所に入っていませんでしたが、共産党の票は(私に)入っています。もし共産党が候補者を立てていたら最初から勝負にはならないでしょう」

しかし、それだけでは勝てないのも事実だ。

「保守層をひっくり返すということを目指したが、それができなかった」

農村部においては、想像以上に共産党アレルギーが強かったとも感じている。

「自民党では駄目だと言う人は多かった。そうした人が私を応援してくれていた」

ところが選挙戦の後半で、少し風向きが変わってきたという。藤井さんへの支持が浸透し自民党が慌て始めた時期、共産党が「選挙区は藤井、比例は共産」と連呼し始めた。すると・・・

「これまで支持してくれていたであろう人が離れ始めたんです。『藤井さん、共産党の候補なんか』と」

応援してくれる共産党の人には申し訳ないと思いつつ、共産党との距離を置かないとまずいという思いが強くなったという。

では、連合は?

「私は連合の推薦ですし、ビラの投函やポスターの張り出しは連合の方がやってくれました。事務所にも連合の人が来てくれました」

しかし、「集票につながるということは少なかったと思う」と話した。

「この地域には連合の組合員が少ない。もともと連合の役割が選挙戦を左右するという地域ではないんです」

冒頭の「選挙って理屈じゃなくてイメージ」について尋ねた。すると藤井さんはあるエピソードを語った。

「朝日新聞のアンケートがあって、いろいろな論点をイエスノーで答えるわけです」

そこで「北朝鮮には圧力か?」と問われる。藤井さんは圧力だけでは拉致問題も核問題も動かないと考える。だから「ノー」と答える。「防衛費を増額すべきか?」と問われる。藤井さんは安全保障は防衛費の増額だけではないと考えて、「ノー」と答える。すると、紙面に出るのは、それらに「イエス」と答えた他の候補と、それらに「ノー」と答えた藤井さんという構図になる。

「それを見た人は、『藤井は共産党やないか』となる」

メディアも「理屈じゃなくイメージ」に加担した形だ。そこに共産党の「選挙区は藤井、比例は共産」が加わるから、益々、共産党のイメージが強くなる。そして後半に失速。

立憲はどうしたら勝てるのか

では、どうすれば立憲は農村部で勝てるのか?

「先ず、選挙協力は共産党とやらなければいけない。それをやらなければ、国民民主と同じ規模の政党になってしまう」

しかし、それは候補者調整のレベルにとどめるべきだと藤井さんは話した。

「共産党とは選挙協力は必要になってくるが、それによってウイングは左に広げる形になった。では、右に広げる努力はどうだったのか?」

特に農村部の選挙は保守を取り込まないと勝てない。藤井さんは「保守を切り崩す」と表現した。元来が保守的な地域では、保守層への食い込みが選挙戦で求められる。それは風頼みでは不可能だ。

しかし、右に広げると共産党の協力は得られないのではないか?

「共産党が(票を)入れやすい構図を作るということだと思います。小選挙区である以上、野党共闘は当然です。それは共産党にとってもマイナスではない」

ところが、先の選挙では選挙協力以上の議論に焦点があたってしまった。例の「共産党は閣外協力」だ。自公から「立憲は政権を取ったら共産党との連合政権になるのか?」と問われ、立憲も共産党も「閣外からの協力」を強調。それが苦し紛れの印象を与える結果になったとは、私も思っている。藤井さんは同感だと話した。

「閣外協力など、そもそも言う必要は無かったんです。選挙協力をするということは、自ずと合意できる部分が有るということです。それは合意できない部分も有るということでもある。それを素直に言えば良かった。そして、先ずは与野党が拮抗した緊張感有る国会を作る。そのために野党は選挙協力をしたということを主張すれば、『閣外か閣内か』といった論争にはならなかったと思います」

「(私は)連合の候補者ではない」

立憲は泉健太氏を代表とする新執行部が動き出している。新執行部に求めることは何か?

「立憲の立つべきところを明確にする」

そして、選挙戦を通じて感じていた違和感を口にした。

「立憲は連合の政党なのか?ということです」

藤井さん自身、連合推薦の候補者だ。「しかし(私は)連合の候補者ではない」と言い切った。

「連合は立憲のサポーターではある。最大のサポーターでしょう。ポスターを貼るのも大変ですから、そのサポートは助かる。しかし、立憲は連合の政党ではない」

サポーターであることと、そのものの政党であることは違う。連合に何か言われれば執行部が動揺するようでは野党第一党としても心もとない。

「立憲は国民の生活に目を向ける政党です。その対象は労働組合員だけではない。自営業者もそうだろうし、身体を使って、額に汗して働く全ての人の側に立つ。そういう政党でなければいけない。マネーゲームでもうけている人たちのための政党ではない」

確かに、今回の選挙で立憲と共産の関係がクローズアップされた原因の1つに、連合の対応がある。芳野友子氏が会長に就任するや、共産党との野党共闘を批判する主張を展開。自公の攻撃を受けていると思ったら後ろから撃たれる形となった。そして「閣外協力」といった苦しい説明を展開し、それが注目される結果となった。それを考えると、連合にかき回されて敗北したといった印象さえ受ける。

藤井さんは自分なりに選挙を総括した書簡を党の執行部に送っている。そこには次のように書かれている。

「連合だけの顔色を見ているだけでは、本来のターゲットにすべき無党派、中間層へのアプローチが遅れてしまうように思います」

党本部に送った選挙戦の総括

藤井さんは選挙にはもう出ないと言った。

「私の役目は終わりました。家族にこれ以上の負担はかけられない。国会が解散する前に、藤井家が解散してしまいます」

和歌山県は選挙区が1減となり、3区あった選挙区が2区に再編されることが決まっている。

Return Top