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立憲民主党から政治資金を受け取っていたChoose Life Project 何が問われているのか

立憲民主党から政治資金を受け取っていたChoose Life Project 何が問われているのか

Choose Life Projectが立憲民主党から資金援助を受けていた問題。何が問われているのか。現時点で判明している事実から、その点を整理する。最初にことわっておくが、このメディアはInFactにとって仲間とも言える存在で、これまで共同で番組を制作している。それだけに厳しく見ていく必要が有る。これは現時点での中間報告であり、InFactは引き続きこの問題を取材して事実を明らかにしていく。(立岩陽一郎)

1月4日のメール

年明け早々の1月4日、友人のジャーナリストからメールが入った。

「ご協力いただいた「Choose Life Project(通称CLP)」が立憲民主党から資金提供を受けていたことが発覚しました」

誤った情報を伝える人間ではない。驚きを伴った大きな衝撃に、しばし返信ができなかった。

公共メディアを標榜したChoose Life Project

Choose Life Project(以下、CLP)は、オンライン動画を利用した新興メディアだ。webサイトには以下の説明が有る。

「テレビの報道番組や映画、ドキュメンタリーを制作している有志で始めたプロジェクトです。理念を共有するデザイナー、また著名な方々などの協力を得て、国政選挙などに合わせた「投票呼びかけ動画」を配信することから始め、現在は、その時々のニュースに関する生討論番組、国会”解説”動画、裁判に関する記録、オンラインシンポジウムなど、多くの方のお力を得ながらお届けしています」

そのコンセプトとして「公共のメディア」を強調している。

「オープンで誰もが参加(制作)できる一方で、参加者(制作者)に求められるコモンセンス=良識。それ以降「公共」という言葉を考えるヒントにしています」

次の様に続く。

「Choose Life Projectが『公共のメディア』として、今後どのようにして持続していけるか、まだまだ挑戦が続くと思っていますが、今、『何を』 伝えていくべきなのか、その軸はブレずに、“声なき声”を伝えていくメディアとして、メンバー一同、尽力して参ります」

そのメッセージは多くの人を動かし、クラウドファンディングで3000万円以上を集めた他、毎月定額の寄付をするマンスリー・サポーターも確保。毎月一口1000円から3万円までの定額で支援する人は1700人を超える(2022年1月8日現在)。つまり最低でも月に170万円を得る極めて成功している新興メディアの1つだ。

CLPのマンスリー・サポーターの説明

InFactのCLPとの関り


InFactが最初にCLPに関わったのは、新聞労連主催で行われたオンラインでの討論会「メディアは何のためにあるのか?いま『記者会見』のあり方を問う」(2020年6月5日)だった。InFact編集長として私が討論に参加した。

その後、InFactが取り組んでいるファクトチェックを番組化できないかとの提案が有り、共同でファクトチェック番組を制作することになった。

そして、2021年9月16日に「菅政権を振り返る」を、同年10月17日に「なぜファクトチェックは必要なのか?」を出した。何れも司会は小島慶子さん。朝日新聞政治部で国会キャップの南彰記者らとともに私も出演した。断っておくが、共同制作故に、私個人もInFactもCLPとの資金のやり取りは無い。

CLPとInFactが共同で制作したファクトチェック番組

これがInFactとCLPとの関係の全てとなる。CLPは様々な個人、団体と共同で番組を制作しており、InFactの存在はCLPの中では小さいと言って良いだろう。しかし、だからと言って無視できる話ではない。

出演者の抗議声明

1月5日の未明に出演者5人が抗議声明を出す。声明では、立憲民主党からの支援を明かした上で、次の2点を問題として挙げている。

・「公共メディア」を標榜しつつも、実際には公党からの資金で番組制作を行っていた期間が存在する

・その期間、公党との関係を秘匿し、一般視聴者から資金を募っていた

その上で、「2020年春からの約半年間のお金の流れがどのようになっていたのか、詳細の公表と出演者・視聴者・サポーターへの謝罪、第三者による徹底した検証など」を求めている。

5人はエッセイストの小島慶子さん、ジャーナリストの津田大介さん、朝日新聞記者の南彰さん、東京新聞記者の望月衣塑子さん、フォトジャーナリストの安田菜津紀さん。

抗議声明

この声明に違和感を覚えた人も多いかもしれない。CLPが発表する前の段階であり、唐突感は否めない。取材すると、5人はCLPの共同代表である佐治洋氏らと話し合いを持ったが、CLP側の認識の甘さに危機感を感じて声明という形で事実の公表に踏み切ったようだ。

私自身も、この声明が出たことは知らなかった。1月5日の午前2時過ぎに親交の有るジャーナリストのたかまつななさんから「知っていましたか?ショックです」とのLINEを受けて知った。彼女は本当にショックを受けていた。私自身も熟考しなければならない立場だったが、その時は彼女を励ますしかなかった。彼女は後に出演者という立場で謝罪を行っている。極めて健全な彼女の思いを重く受け止めたい。

CLPの説明

CLPは抗議声明に対して短いツイートのコメントを出していたが、正式なコメントを1月6日の夜に出した。署名は共同代表の佐治氏となっている。

その中で、「2020年3月以降、クラウドファンディングで自分たちのファンドを運用できるまでの間、制作費として約1500万円(1動画あたり平均5万円・1番組 あたり平均12万円程度)を受け取り、CLPとして番組や動画コンテンツを作りました」と、立憲民主党からの資金援助が1500万円にのぼったことを明らかにした。

次の様にも説明している。

「ネットメディアは、これまで私が長く働いてきたテレビ業界の、スポンサーがお金を出す形態とは全く違うものでした。初めての挑戦に叱咤激励されながら、やがて本当の意味で「番組は視聴者と一緒に作るものだ」と気づかされました。そして、政党から資金援助を受ける形ではなく、市民の手によって支えられるメディアこそが求められているという実感から、2020年7月に、CLPの理念をまとめ法人化し、『公共メディアを作る』としてクラウドファンディングを開始しました。その後、立憲民主党に資金提供の終了をお願いし、終了しました」

推測も交えて読めば2020年7月以降は立憲民主党からの資金援助は無いという説明だ。では、それは何に使われたのか?

「佐治の給与、A氏(既に脱退)、工藤(共同代表)の報酬、その他制作にかかる外注費」にあてたという。

「なお、資金提供期間に特定政党を利するための番組作りはしていません。立憲民主党からCLPや番組内容への要求・介入はありませんでした」とも書いてある。また、「目指すメディア像が定まり方針転換をしたにもかかわらず、この時点でも私たちは説明を怠ってしまいました」とも。

立憲民主党の説明

実はこの説明が出る前に、立憲民主党からのコメントが取材各社に寄せられた。InFactも取材を申し込んでおり、コメントが送られてきた。署名は「立憲民主党前幹事長」「福山哲郎」となっていた。そこには以下の様に書いてあった。

「Choose Life Projectという、フェイクニュースに対抗するメディアの理念に共感したため、広告代理店と制作会社を通じて番組制作を支援した。

自立できるまでの期間だけ番組制作を支援することとし、その後自立でき支援の必要がなくなったとして先方から申し出を受け、支援は終了した。

なお、理念に共感して、自立までの間の番組制作一般を支援したもので、番組内容などについて関与したものでない」

勿論、これは十分な説明ではない。送られてきたメールには質問は福山哲郎議員の事務所にするよう書いてあった。このためInFactは質問項目を福山議員の事務所に送っている。

立憲民主党からの説明文

ファクトチェックの原則に抵触

InFactは1月5日の段階でCLPに質問状を送ると同時に、共同制作した番組のオンライン上からの削除を求めた。説明が必要だろう。

ファクトチェックは世界各国で多種多様な形で行われているが、共通の原則が有る。その中に「非党派性と公正性」、「財源・組織の透明性」がある。これは世界のどのような個人、団体であっても、ファクトチェックを行う以上、必ず守らねばならない原則だ。政党から資金を受けた団体とのファクトチェックは、その前提を既に欠いていることになる。それが明らかになった以上、ファクトチェックを語った番組の名には値しない。内容に問題が有るか否かではない。

説明不足

InFactは現在、立憲民主党とCLPに加えて資金の流れに関わった広告代理店に取材を申し込んでいる。このうち広告代理店からは1月8日に回答が届いている。それについては別途記事を出す予定だ。

CLP、立憲民主の双方の説明で私が最も違和感を覚えたのは、内容に問題が無ければ許されるという印象を与えるものになっている点だ。

これは認識が甘いと言わねばならない。前述の5人の抗議声明で「報道機関でありながら、定政党から番組制作に関する資金提供を受けていたことは、報道倫理に違反するもの」であり、「公正な報道の根幹を揺るがす行為」としているが、それは報道機関としての常識だ。内容の問題ではない。

勿論、政党から一切資金を受けてはいけないともならない。これは抗議声明でも触れられているが、「番組制作能力を有する会社が、公党から下請けとして制作費をもらって番組制作を行うこと」は、通常の業務としてあり得る。仮にCLPが立憲民主党の業務を受注して、対価として資金を得たのであれば、これまで問題だと言うことはできない。しかし中立且つ公正公平な報道をうたった報道機関としては立憲民主党から資金援助を受けてはいけない。「内容への要求・介入」の有無とは関係ない。まして、「説明を怠ってしまいました」という問題ともレベルが異なる。

例えばInFactは大阪府と読売新聞大阪本社との包括協定に懸念を示す記事を出している。双方とも報道内容に関与するものではないとしている。しかしそれは鵜呑みにして良い話ではない。まして、外部からはそうは見られない。特定の者との特別な関係は必ずどこかにひずみを生む。その最たるものが資金援助であることは間違いない。

今回の問題は、メディアが政治資金によって支援を受けていたと言い換えることも可能だ。その政治資金には政党助成金という税金も入っている。CLPはマンスリー・サポーターに向けた「サポーターの皆さまへ」との説明文の中で、「皆さまからのご指摘やご意見を真摯に受け止め、今後の方針について検討して参ります」としている。

しかし問題が明らかになってからのCLPの対応を通じて誰もが感じるのは説明不足だ。私自身が特に問題だと感じるのは、CLP、立憲民主党の何れもが事の深刻さを理解していない点だ。一方的なコメントを出すのみでこの記事を出す段階では、取材にも応じていない。

CLPは今後、代表を入れ替えるのかもしれない。もしかしたら、名称を変えるのかもしれない。しかしそれで「公共メディア」を語り続けるとすれば、それ自体が日本のジャーナリズムにとって好ましいことではない。

InFactとして

この件でInFactにも批判の声が寄せられている。それは大阪府と読売新聞大阪本社の包括協定の時は記事を出したのに、なぜCLPについては記事を出さないのかというものだ。「ダブルスタンダード」「ブーメラン」といった言葉も投げかけられている。 InFactとしては、まずこの問題から逃げずに向き合うことが重要だと考えている。そして取材を続ける。政治的な立ち位置に関係なく明らかになった事実を伝えていく。それがCLPの番組制作で関わったInFactとしての責任だと考える。勿論、CLPから要請が有れば議論に加わる考えは有る。逃げる気は無い。繰り返しになるが、この記事は中間報告でしかない。

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