オランダで大学時代を過ごした佐藤翠は、昨年12月にスイスに渡航、3ヶ月間滞在した。この期間にさえスイスのコロナ対策は頻繁に変わった。彼女が現地で目にしたコロナ対応とは。(文・写真:佐藤翠)
◆スイス入国にはいったい何が必要?
オランダで大学の課程を終えた後、しばらくスイスで過ごそうと考えていた私にとって、悩みの種は頻繁に変わるスイスの入国制限だった。
私がスイス行きの準備をしていた少し前の話になるが、昨年の11月末から12月末の1ヶ月間を見ても、オランダからの入国者に対するスイスの措置は少なくとも4回は変わった。11月末には、入国者にPCR検査の陰性証明の提示と、10日間の隔離を要求。しかし、12月の初旬には隔離を不要とする代わりに、入国時の陰性証明の提示に加え、入国後4日目と7日目のPCR検査の実施を求めた。更にその後は、入国時にPCR検査の陰性証明の提示するだけとなり、入国後のPCR検査は不要となった。
そして、私の渡航直前にも方針が変わった。私がスイスに渡航する12月20日から、入国時の陰性証明は、PCR検査でも迅速検査でもいずれも可能とされた。当時のオランダでは、迅速検査はPCR検査より3000円以上安く、迅速検査の結果で入国が可能となった直前の変化はありがたった。それでも費用は約4000円で、学生の懐には辛い。大枚をはたいて迅速検査の陰性証明を取得し、意気込んで電車でスイスに向かったものの、結局、入国の際に陰性証明の提示は求められず、拍子抜けした。
このように、スイスは入国の条件を頻繁に変更したため、入国できるまでは少し不安だったが、電車で入国した私の場合は、陰性証明は一度も確認されず、スイスの陸路における出入国管理の“ゆるさ”を実感した。
◆水際対策は大幅に緩和
今年に入り、スイスの水際対策は更に緩和された。1月末には、ワクチン接種済みの入国者の陰性証明の提示が撤廃され、2月の中旬には、新型コロナウイルス関連の入国フォームの提出も廃止。ワクチン未接種者への入国制限もなくなった。スイス政府が定める新型コロナウイルスの「危険地域」からの入国制限は存在するが、この記事を執筆している4月上旬現在、「危険地域」に該当する国はない。そのため、現時点で、スイスは事実上、新型コロナウイルスに関わる入国制限をしていない、と言えるだろう。
◆国内の対策も緩和へ
2月中旬に入国制限がほぼ全て解除されたのと同時に、スイス国内での感染対策の多くが緩和された。レジャー施設やレストランに入る際に、ワクチン接種の証明などを示すQRコードの提示義務がなくなった。マスクの着用義務は公共交通機関や病院など非常に限られた場所のみに変更された。これも、3月末には撤廃された。
とは言え、新型コロナウイルス患者数がゼロになったわけではない。2月・3月のスイス国内の1日あたりの新規感染者数は軒並み数万人だ。ワクチン接種がとりわけ先行しているわけでもない。ワクチンを2回接種したのは人口の70%、3回目のブースター接種を終えた人は40%程度とかなり少ない。にもかかわらず、ほぼ全ての感染対策が解除されたのは、病床が逼迫しておらず、死者は1日あたり10人を推移するレベルに抑えられていることが、大きな理由だと考えられる。
◆スイスの今
最近スイスで話題になっているニュースは、コロナではなくもっぱらロシアのウクライナ侵攻だ。スイスがEUの対ロシア制裁に加わったことに対し、「スイスの伝統である『中立』が失われてしまった」と問題視する者もいる。スイスでは、法律、政策、憲法など様々な案件について国民投票で決めることができる。対ロシア制裁に反対する署名が10万筆集まれば、対ロシア制裁を中止するか否かを問う国民投票が行われるだろう。
また、市民レベルでのロシアのウクライナ侵攻への意識も高いと感じる。私が滞在していたチューリヒでは、何度か大規模な抗議活動が行われた。
チューリヒ在住の人たちで構成されるFacebookグループでは、ウクライナ難民への支援を呼びかける投稿を毎日のように目にした。また、同じグループでは「使い捨てマスク、譲ります」との投稿も見かけた。スイスに住む人々の意識の中では、すでにコロナ禍が終焉に向かっている印象を受けた。
◆さて、日本へ帰国。水際対策をスイスと比べると…
日本も徐々に入国者の隔離期間を短くするなど入国制限が変わっているが、スイスの入国制限の変化は日本とは比較にならないほど目まぐるしかった。「状況に合わせた迅速な対応」とも言えるが、スイスへの入国に際しては、政府サイトやニュースサイトを細かにチェックする必要があり、ストレスを感じたというのが本音だ。
一方で、日本への入国に対しては、別のストレスがつきまとう。必要書類や隔離日数といった、入国に関連する情報が1つのウェブページに集約されていないからだ。また、入国にあたって事前にすべきこともたくさんある。アプリを事前にインストールし複数の情報をあらかじめ送信し、陰性証明は厚生労働省指定のフォーマットにペンで記入しなければならない。
こうした準備を終え、私は4月に帰国した。スイスで陰性証明をもらい、最終目的地の関西空港に到着し、家路につくまで、いかにして日本に入国したのか、具体的なプロセスについて次回の記事で報告したい。