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【新田義貴のウクライナ取材メモ2023①】キーウ再び

【新田義貴のウクライナ取材メモ2023①】キーウ再び

2022年にロシア軍が侵攻したウクライナに入って取材をした新田義貴が再びウクライナに入った。前回、戦場で翻弄される人々に焦点をあてた新田の報告。今回もその視点は同じだ。しかし、今回は取材報告ではなく、取材メモだ。ざらついた戦争の現実を、現地の人々の姿を伝える。(取材/写真:新田義貴)

去年3月初旬から40日間ウクライナ情勢を現地で取材してから1年が経とうとしていた。ウクライナ軍による反転攻勢がまもなく始まるのではとの憶測がメディアを賑わす中、僕は再度のウクライナ取材を検討し始めた。しかし今回もまた資金面の課題が立ちはだかる。

戦争が長期化して1年が過ぎ、人々の関心も当初に比べ下がってきているのは明らかだった。それに呼応するようにメディアがウクライナを取り上げる機会も減りつつあった。結局、今回も去年と同じく自己資金200万円を用意して行くことを決断し、メディアがウクライナの反転攻勢を報じ始めていた6月19日の夜10時過ぎに成田空港を飛び立った。

20日早朝にポーランドの首都ワルシャワ到着。戦時下のウクライナはいまだに飛行機では行けず、ポーランドから陸路で入るしかない。ワルシャワからキーウへの寝台列車は7月中旬まで予約で満席。仕方なく長距離バスで行くことに決め、ワルシャワ西駅近くのバスターミナルへ。

前回来た時は、ここにはウクライナからの難民があふれ支援団体による炊き出しなどが行われていたが、今はそうした光景は全く見られずすっかり落ち着いていた。バスは現地通貨で340ズローティ、日本円で1万2千円くらいだ。チケットを手にして16時発の長距離バスに乗り込む。

ワルシャワの長距離バス用のバスターミナル

去年のバスは直行といいつつ、途中で2度乗り換えさせられたあげく、キーウまで25時間もかかった。しかし今回のバスは13時間しかかけず、定刻の翌朝5時30分にキーウに無事到着した。

バスターミナルには、今回僕の取材をサポートしてくれるセルヘイが迎えに来てくれていた。セルヘイは我々の業界でいうところの「フィクサー」だ。闇の業者という意味ではない。外国人ジャーナリストの取材をアレンジしてくれる人をメディア業界ではフィクサーと呼ぶ。セルヘイは地元のテレビ局で働くカメラマンで戦場取材の経験も豊富だ。

実はセルヘイが手伝ってくれることが決まったのは、僕がワルシャワの空港に着いてからであった。去年僕らの取材を手伝ってくれた映画監督のタラスは、その後ウクライナ軍の記録映画の監督に任命され忙しい日々を送っていた。司令官から撮影の命令が出ればすぐに現場に直行しなければならない。今回の僕の取材には合間を縫って参加してくれる予定だったが、出発直前に軍からウクライナ東部での撮影の命令が下されてしまったのだ。

僕は成田空港でそのことを知らされ途方に暮れていたが、ワルシャワに降り立つとセルヒーが手伝ってくれることに決まったとの連絡が入りほっと胸を撫でおろしたというわけだ。セルヘイはバスターミナルから徒歩10分の安宿を予約してくれていた。一晩481フリヴニャ、日本円で2000円ほど。ひとまずチェックインし、僕は仮眠を取ることにした。その間にセルヒーには戦場取材に必要な防弾ベストとヘルメットを取りに行ってもらうことになった。

この防弾チョッキとヘルメット。去年は日本から知人に借りて持参したのだが、それだけで大変な重量なうえにスーツケースが一杯になってしまい、撮影機材を入れるスペースが限られ大変苦慮した。しかし今回は国境なき記者団がジャーナリストに無料でレンタルしているとの情報を得ていた。それを日本から事前に予約していたのだ。

明日はダム破壊で洪水被害のただなかにあるウクライナ南部ヘルソンに向かう。

(つづく)

【編集長記】新田さんが再びウクライナに入りました。その取材の内容は既にTBS系列「報道特集」で報じられています。この連載は「メモ」にこだわって書いてもらっています。整然とパッケージされた内容では今も苦難の続くウクライナの人びとの生活は伝わらないと思ったからです。そこにはテレビや新聞では伝えられない現地の物価などが出てきます。それは高いのか安いのか。それも日本に住む私たちにはわかりませんが、でも、そこに人がいて生活をしているという実感は伝わるのではないか。そう考えます。

冒頭の写真は新田さんの着用する防弾チョッキとヘルメットです。ウクライナは戦場ですから、危険地帯であることは間違いありません。しかし、この連載は危険な最前線の状況を伝えるというものではありません。戦場となったウクライナの人びとの姿を伝えるものです。新田さんからの「取材メモ」にご期待ください。

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