「もろ岸田文雄」というコメントと共に、「自分の国で苦しんでいる人がいるのに他の国の人間を助けようとする人は、他人によく思われたいだけの偽善者です。マザー・テレサ」という発信がSNS上で拡散した。しかしマザー・テレサがこうした発言をしたという記録は確認できず、これは根拠不明だ。
対象言説
「自分の国で苦しんでいる人がいるのに他の国の人間を助けようとする人は、他人に良く思われたいだけの偽善者です。 マザーテレサ」(X2024年4月22日)
結論 【根拠不明】
マザーテレサがこのような発言をしていたという記録は見つけられなかった。4月22日Xに投稿されたポストの画像も数年前からネットに流通し、転載を繰りかえされたものであった。
InFactはレーティングをエンマ大王で示している。
問題の発信は2エンマ大王となる。
エンマ大王のレーティングは以下の通り。
- 4エンマ大王 「虚偽」
- 3エンマ大王 「誤り」
- 2エンマ大王 「ミスリード」「不正確」「根拠不明」
- 1エンマ大王 「ほぼ正確」
InFactはファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のメディアパートナーに加盟しています。この記事は、InFactのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。
ファクトチェックの詳細
マザー・テレサ(1910-1997)はカトリック教会の修道女であり、その教えから長年にわたり貧しい人々へ奉仕した。1979年にはノーベル平和賞を受賞している。マザー・テレサの言葉は本になっている。そのうち『マザー・テレサ 日々の言葉』(女子パウロ会)をあたってみた。その中に、いくつか関係しそうな発言は以下だった。
・ 「まず、私たちの自身の家に、愛と平和と哀れみが必要だと言っています。」(ガンジーの言葉を引用して)
・ 「(慰めてくれる人の)その姿は、あなたの子ども、あなたの夫や妻、あなたの隣人なのです」
・ 「あなた方は今までに、ご自身の国のボランティア組織などを手伝ったことがありますか?もし、まだしたことがないのな ら、あなたの人生の中のそのような機会を逃すべきではないと思います。」
・ 「愛の基金、新設の基金、平和の基金を興しましょう。もう一度言います。私たちの親しい人たちから始めましょう。それから外に広げていくのです。」
マザー・テレサが「私たちの親しい人たちから始めましょう」などという言葉は、「自分の国で苦しんでいる人」から助けようという意味にとれる。しかし、「自分の国で苦しんでいる人がいるのに他の国の人間を助けようとする人は、他人に良く思われたいだけの偽善者です。」との発言は確認できない。
ファクトチェック対象ツイート添付されていた画像を、画像検索にかけてみたところ、2023/8/26にも同じようなツイートが同じ画像と共に投稿されていたことが分かった。更に、2010/03/24にも個人のブログで発信されていた。
これらに対して、マザーテレサの言葉なのか確かめようとしていた人がいることが検索サイトの記録からわかった。その中には、2008年の2chまとめサイトに、対象言説の言葉について「1981年4月来日時にマザーテレサが黒柳徹子に言い放ったらしい」との内容が書かれていた。しかし、そのサイトはもう閉じていて確認できない。この関連で、「徹子の部屋」に出演した時に言ったという主張もいくつかみつけたが、マザーテレサが「徹子の部屋」に出演した記録は無かった。
女子パウロ会やカトリック中央議会の記録から、1981年4月にマザーテレサが来日していたことは間違いないようである。しかし、黒柳徹子さんと会っていたとの記録は確認できなかったため、カトリック中央議会に以下の質問を行った。
- マザーテレサさんが1981年4月の初来日の際に、黒柳徹子さんに会って話したのは本当か?
- マザーテレサさんが「自分の国で苦しんでいる人がいるのに他の国の人間を助けようとする人は、他人によく思われたいだけの偽善者です。」という言葉をいったという言説に妥当性はあるのか?
回答があり次第、原稿に反映させたい。
以上のことから、この発言は誤りと考えられるが、そう断言するまでの確認はできていない。しかし、発信者もその根拠を明示しておらず、根拠不明と判定する。
編集長追記
マザー・テレサの「マザー」は指導的な修道女への敬称という理解で、「マザー・テレサさん」とはしていません。
(石盛なごみ)