小池都知事が9,345億円あった東京都の貯金を、ほぼ全額使い切った旨の言説が拡散している(6月29日現在で、約199万件の表示、約1.9万件のいいね)。しかし、貯金にあたる「財政調整基金」の残高が21億円まで減少するとの見通しはあったものの、実際には、そこまで東京都の貯金が減少することはなく、拡散した言説は誤りだった。
InFactは東京都知事選挙でどの候補を支持するということはない。InFactがこだわるのは事実であり、今後も候補者の発言やネット上の言説をファクトチェックしていく。
対象言説
【悲報】小池百合子都知事、光速で10億円溶かす→50億円でした→9345億円の東京都の貯金ほぼ全額溶かしてました
結論
【誤り】2019年に9,345億円あった東京都の貯金にあたる「財政調整基金」が、新型コロナ対策等によって21年末には21億円まで減少するとの見通しが示されたことは事実。しかし、実際には、21年末時点での「財政調整基金」の残高は7,272億円(決算時点)であり、「小池都知事が東京都の貯金をほぼ溶かした」との事実はなかった。
InFactはレーティングをエンマ大王で示している。問題のツイートは「誤り」であり、これは3エンマ大王となる。
エンマ大王のレーティングは以下の通り。
- 4エンマ大王 「虚偽」
- 3エンマ大王 「誤り」
- 2エンマ大王 「ミスリード」「不正確」「根拠不明」
- 1エンマ大王 「ほぼ正確」
InFactはファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のメディアパートナーに加盟しています。この記事は、InFactのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。
ファクトチェックの詳細
「貯金を使い切った」の端緒は?
「9,345億あった東京都の貯金を、小池都知事が使い切った」旨の言説の端緒となったのは、3年前(2021年5月31日)の日本経済新聞の記事だ(参照)。記事中では、東京都の貯金にあたる「財政調整基金」の残高が99%減少し、21億円になる見通しが紹介されている。
日本経済新聞、2021年5月31日、「東京都の貯金、21年度末21億円に コロナ対策で激減」
この「財政調整基金」とは、年度によって生じる財源の不均衡を調整するために、財源に余裕がある年度に積み立てておくもので、地方公共団体の貯金のことだ(参照)。NHKも、東京都が新型コロナウイルス対策によって、「財政調整基金」を95%近くを取り崩す見通しである旨を報じている(参照)。「小池都知事が、東京都の貯金を使い切った」との言説は、これらの報道を根拠にしていると考えられる。
本当に貯金を使い切ったのか?
では、本当に、小池都知事は東京都の貯金を使い切ったのだろうか。
2021年度の東京の財務実態が報告されている、「令和3年度東京都年次財務報告書」を確認してみた(参照)。
「東京都年次財務報告書」でも、「財政調整基金」を新型コロナ対策で活用したことによって、一時は年度末残高見込額が21億円まで減少した旨が説明されている(19p)。
テレワークの定着・促進に向けた取組など都独⾃のコロナ対策に迅速かつ的確に対応するための財源として
引き続き財政調整基⾦を有効に活⽤し、累次にわたる補正予算編成を⾏った結果、令和3年6⽉には、年度末残⾼⾒込額が21億円と枯渇⼨前まで減少しました。
しかしながら、実際の、21年度末時点での最終的な残高は「7,272億円」であったことが記載されている(p19)。
令和2年度決算の反映により残⾼⾒込額が⼀定程度回復し、都独⾃のコロナ対策などの財源として活⽤する⼀⽅、税収増による積⽴や予算の執⾏過程における歳出精査による取崩しの抑制により、3年度決算時点で残⾼は7,272億円まで回復しました。
令和3年度「東京都年次財務報告書」、p19~20
そのため、コロナ対策での活用によって、一時は「財政調整基金」の年度末残高見込みが「21億円」まで減少したことは事実であるものの、実際の年度末残高は「7,272億円」であった。
その後の財政調整基金の残高は、2022年度の決算時点で6,498億円(参照)だった。また、23年度の最終補正時点での残高見込み額は6001億円(参照)、24年度の残高見込み額は6,003億円だ(参照)。
したがって、東京都の財政調整基金は減少しているものの、「小池都知事が9345億円あった東京都の貯金を、ほぼ全額使い切った」との言説は「誤り」だ。
「貯金」を使わなかった理由は?
ところで、何故、9,345億円が「21億円」まで大幅に減少するとの見込みであったものが、最終的に「7,272億円」までと小幅の減少に落ち着いたのだろうか。
確認したところ、国から自治体への交付金が大幅に増えたことにより、「財政調整基金」も含め、想定された東京都の予算を使用せずに済んだということがわかった。
21年度の「財務報告書」によれば、2020年度のコロナ対策では「財政調整基金」が4,721億円使用されていた。他方で、2021年度には、国からの財源である「地方創成臨時交付金」が大幅に増えたことにより、コロナ対策では東京都の「財政調整基金」は使用されていない(令和3年度「東京都年次財務報告書」p21〔参照〕)。
令和3年度「東京都年次財務報告書」p21より(参照)。赤枠は筆者。
実際のところ、2021年年9月に作成された、「令和2年度東京都年次財務報告書」の時点では、令和3年度の予算で3,161億円の財政調整基金が新型コロナ対策に使用される予定だった。
令和2年度「東京都年次財務報告書」P27より(参照)。赤枠は筆者。
しかしながら、上述のとおり、実際には「財政調整基金」は使用されていない。国からの給付金が増えたことにより、東京都が「財政調整基金」を取り崩す必要がなくなったということだろう。
この点について、東京都財務局に事実関係を確認したところ、回答は以下のとおりだった。
Q 2021年度に21億円までの減少が見込まれていた「財政調整基金」が全く使用されなかったのは、国からの給付金が増えたことによって、「財政調整基金」から賄われるはずだった費用が賄われたから、という理解で良いのか?
A おっしゃるとおりです。東京都年次財務報告書から理解されているとおりで問題ありません。
以上、新型コロナ対策によって貯金がほぼ全額溶けたという事実は無い。ただし、莫大なコロナ交付金によって、東京都以外の地方自治体も財政が改善した一方で、国の借金が増えたことに留意が必要だ(参照)。原資が税金であることは変わらない以上、新型コロナ対策費用の使途が適切であったかを検証することの必要性を指摘したい。
いずれにせよ、InFactとしては、「小池都知事が9345億円あった東京都の貯金を、ほぼ全額使い切った」旨の言説を、「誤り」と判定する。
冒頭画像:東京青年会議所主催の討論会(2024年6月24日)で発言する小池百合子東京都知事(「THE PAGE」より)
(田島輔)