2024年のFIJファクトチェックアワードの発表が7月12日に行われ、InFactの記事2本を含む5本が優秀賞を受賞した。また新設された特別賞をInFactの福島第一原発からの「処理水」をめぐるファクトチェック記事が受賞した。
応募の総数は31件。この中から5件が優秀賞、1件が特別賞を受賞。InFactからは「政治資金問題に関する記事3本」と「新型コロナ禍での感染対策に関する記事3本」が優秀賞となった。
他の受賞は、沖縄タイムスの「ひろゆき氏「沖縄は親を寝たきりにして年金で暮らす」をファクトチェック」、リトマスの「のり弁当の添加物表示ラベル画像は正確 偽造疑う指摘拡散も」、noteで発信するryo-aの「JAL機と衝突した海上保安庁機(JA722A)がフライトレーダーに表示されない理由」だった。
今回は特別賞が新設された。これについて審査委員会からは、「特別賞は今回初めて設定されたものですが、言説を直接的に検証したものではない応募作品が複数あった中で、委員からもっとも高く評価された作品」を選んだとの説明があり、InFactの「『安全基準を満たしている処理水』の『安全』は十分に開示されているのか」が選ばれた。最優秀賞は該当者無しとなった。
新型コロナ禍での感染対策に関する記事3本]の記事を書いたチーフ・エディター田島輔のコメント
「この度は、ファクトチェックアワード優秀賞をいただき、大変光栄です。
コロナ禍では、ソーシャルディスタンスやマスク着用等の様々な感染対策が実施されましたが、対策の科学的根拠や効果については検証が不十分であるように思います。
パンデミックの恐怖の最中では困難だったと思いますが、専門家が提唱する感染対策の科学的根拠や限界については、恐怖が収まった今だからこそ、事実に基づいた冷静な検証が必要ではないでしょうか。
コロナ禍で実施された感染対策については、今後もファクトチェック・調査報道の手法で、「事実」に基づき検証していく予定です。」
特別賞を受賞した「「安全基準を満たしている処理水」の「安全」は十分に開示されているのか」で情報の解析を行った理事の山崎秀夫のコメント
「FIJファクトチェック大賞特別賞をいただき、大変光栄です。
福島第一原発事故では、国や東電による、世論操作と考えられる情報の隠蔽や大量の取るに足らない情報を交えた情報公開が恣意的に行われています。フェイクではないが、しかしファクトとも判断できない情報の流布も目立ちます。
ALPS処理水の海洋放出では、この処理水を汚染水と呼んでよいのか、議論が分かれました。国や東電は、ALPS処理水は「科学的に安全であるので汚染水ではない」と主張しました。外交交渉でも「科学的」という言葉を多用しています。
国や東電が主張する「科学的に安全」の根拠とは、「ALPS処理水のトリチウム濃度がWHOの飲料水基準である1リットル当たり10000ベクレルを十分に下回る濃度で海洋放出する」からだ、ということです。
実際、ALPS処理水は1リットル当たり220ベクレル程度にまで薄めて放出しているので、WHOの基準に従えば、国や東電の主張は十分に科学的であるように見えます。
ところが、彼らは飲料水のトリチウム基準が、EUでは1リットル当たり100ベクレル*、米国では740ベクレル**であることを、隠蔽してはいませんが、積極的に開示もしていません。EUの基準に基づけば、ALPS処理水は飲料水基準の2倍を超えた濃度で放出していることになります。
このように、不都合な情報を意図的に示さないことで、科学の名のもとに正当性を主張することが可能となってしまいます。「科学的言説」を交えた情報の根拠を科学的視点から正しく指摘することは、ファクトチェックの重要な役割だと考えます。」
編集長・立岩陽一郎のコメント
「政府、政党の発信や大手メディアの報道をファクトチェックするInFactの記事が高い評価されたことを嬉しく思います。
今、総務省は政府が認定するファクトチェックによる事実上の『官製ファクトチェック』を始めようとしています。これが懸念されるのは、これが始まれば、政府の発信する情報に懸念を示した内容は全て『誤り』や『ミスリード』と認定され、結果として政府の発信をファクトチェックする動きが弱まるだろうと推測できるからです。
そうした『官製ファクトチェック』は、今回、特別賞を受賞した『「安全基準を満たしている処理水」の「安全」は十分に開示されているのか』などは記事にすることはないでしょう。優秀賞を受賞した『政治資金問題に関する記事3本』も記事化されることはないでしょう。政府与党、大手メディアにとって不都合な事実を突きつけているからです。
ファクトチェックは政府のためでなく、あくまで市民社会のためにあるべきです。InFactは引き続き、この方針でファクトチェックを実践してまいります。」
代表・小黒純のコメント
「このたびは、優秀賞2作品のほか、特別賞に選ばれ、大変光栄です。受賞理由の中には「質実剛健な検証をしている」という、過分なコメントも頂戴しております。心より御礼申し上げます。
毎週、オンラインで開いている編集会議ではしばしば、「地道に検証しましょう」という言葉が交わされます。掲載本数や、記事へのアクセス数など、ついつい「見栄え」を求めがちになってしまうことへの戒めです。
今回の受賞は、コツコツ派のInFactにとっては、大きな励みとなります。ありがとうございました。」
受賞作と審査委員会のコメントはFIJのサイトでご覧ください。