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【Fact Check】河野太郎元ワクチン接種推進大臣「『アメリカでは2億回ワクチンを接種して亡くなった人はいない』とCDCが発表」は本当か?

【Fact Check】河野太郎元ワクチン接種推進大臣「『アメリカでは2億回ワクチンを接種して亡くなった人はいない』とCDCが発表」は本当か?

Youtuberとの対談動画の中で、当時の河野太郎ワクチン接種推進担当大臣が、「アメリカでは2億回ワクチンを接種して亡くなった人はいない」と発言した。河野元大臣は、最近のブログでも、「この発言は、当時のアメリカのCDC(=アメリカ疾病予防管理センター)の発表に基づいています。」と説明している。本当にCDCは、アメリカではワクチン接種で亡くなった人はいないと発表しているのか? CDCに確認した。

対象言説

『アメリカでは2億回ワクチンを接種して亡くなった人はいない』という発言はデマではないのか?

この発言は、当時のアメリカのCDC(Center for Disease Control and Prevention)の発表に基づいています。
当時、CDCは、アメリカで2億回のワクチン接種が行われた時点で、ワクチンが原因でなくなった人はいないと発表しています。(河野太郎公式サイト「ごまめのはぎしり」、「デマや誹謗中傷について(2024.10.24)」)(参照

結論

【正確】CDCの回答は、「アメリカでは、6億7600万回の新型コロナワクチン接種後、ヤンセン製のワクチン接種後に生じた9例の血栓症以外、新型コロナワクチン接種が死亡の原因となっている事例は認識していない。」というもの。CDCとしては、ヤンセン製の製品(河野元大臣の発言時に日本では承認されていない)以外、コロナワクチンに起因する死亡事例を認めていない。そのため、河野元大臣の発言そのものについては、「正確」と判定する。

ファクトチェックの理由

問題の発言は、2021年6月24日に撮影されたYoutube動画(現在は削除されている)の中で河野元大臣が発言したものだ。

先ず、発言から3年以上が経過した現時点で、このファクトチェックを実施する意味を説明する。この原稿が書かれている24年12月現在で、日本では新型コロナワクチンが4億回以上接種されている一方で(参照)、コロナワクチン接種による健康被害として、915件の死亡事例が認定されている(2024年12月6日時点、参照)。被害者救済を優先するために厳密なものではないとされるものの、それらの死亡とワクチン接種との間の因果関係は認定されている(参照)。

そのため、コロナワクチン接種を推進するための動画の中での、「(アメリカで)2億回打って、ワクチンで死んでる人は一人もいない」との発言内容はにわかには信じ難い。ワクチン接種と死亡との間の因果関係が不明な場合もあり得るわけで、それを「ワクチンによって死亡した人がいない」と断言することは難しい気もする。河野元大臣は、自らの発言をCDCの発表に基づいていると述べていることから、この点についてCDCに確認した。

CDCの回答は?

InFactでは、CDCに対し、河野元大臣の発言について問い合わせる際、以下のとおり質問の趣旨を説明した。

私は、コロナワクチン接種後の死亡は、コロナワクチンが原因で亡くなったことを意味するものではない、と理解しています。
しかしながら、死亡事例は、死亡とコロナワクチンとの間の因果関係が不明な場合も含んでいるとの理解です。
そのため、河野氏がYoutube動画で発言したように、アメリカで2億回コロナワクチンを接種して、死者が一人もいないと断言することは誤解を招くのではないでしょうか。
I understand death after Covid-vaccination does not mean death by this vaccine.
However, from my understanding, that includes cases of unknown causality between death and Covid-vaccine.
So, it would be misleading to assert that there are no deaths at all after 200 million doses of Covid- vaccine in the United States as Taro Kono said on YouTube video as of June, 24, 2021.

因果関係不明の場合がある以上、ワクチン接種による死者がいないと断言することはミスリードではないかと疑問を示した上での、CDCの担当者に対する質問と回答は、以下のとおりだ。

(質問)
1. 2021年6月24日時点で、米国ではコロナワクチンを2億回接種しても死亡者はいないというのは本当でしょうか?
(Is it true that no death occurred after 200 million doses of Covid-19 vaccine as of June, 24, 2021 In USA?)
2. 現時点(※2024年11月)で、CDCに報告されたコロナワクチン関連の死亡件数と、コロナワクチンに起因した死亡事例であると、CDCが認めた件数を教えていただけないでしょうか?

(How many death cases related to Covid-19 vaccine were alleged to CDC and How many death cases did CDC acknowledged these were caused by Covid-19 vaccine at present?)

(回答)
(※回答日の2024年11月14日時点で)6億7,600万回以上の接種後、CDCでは、コロナワクチン接種後の死亡事例について、ヤンセンワクチンの接種後に確認された9例の血小板減少症候群を伴う血栓症(TTS)以外には、コロナワクチンが死亡の原因となっていることを示すような異常または予期しない事例は検知していません
(After more than 676 million doses administered, CDC has not detected any unusual or unexpected patterns for deaths following COVID-19 vaccination that would indicate that COVID-19 vaccines are causing deaths, outside of the nine confirmed thrombosis with thrombocytopenia syndrome (TTS) deaths following the Janssen vaccine.)

CDCの回答は、既に米国で使用中止となっているヤンセン製のワクチン以外で、コロナワクチンが死亡を引き起こした事例は確認していない、というものだった。

なお、「①2021年6月24日時点で、コロナワクチン接種との因果関係に関わらず、CDCは、ワクチン接種後の死亡例を何件、認識していたのか、②そのうち、コロナワクチン接種との因果関係が明確に否定された死亡例は何件あったのか?」という質問も行ったが、これについてCDCからの回答はなかった。

あくまでも、CDCとしては、ヤンセン製のワクチンによって生じた9件以外、コロナワクチンによる死亡例は認識していない、という回答だ。

この記事は、あくまでも「ファクトチェック」であり、ファクトチェックの対象は、「CDCが、『アメリカでは2億回ワクチンを接種して亡くなった人はいない』と発表している」かどうかだ。

CDCが、河野大臣の発言を否定しておらず、日本でのヤンセン製コロナワクチンの薬事承認が2022年6月であることから(参照)、「ファクトチェック」の結論としては、河野元大臣の発言は誤りではなく、「正確」と判定する。

CICPの回答は?

なお、アメリカには、対抗措置傷害補償プログラム(CICP=the Countermeasures Injury Compensation Program )という、ワクチンによって重篤な傷害が発生した人の医療費等を援助する連邦政府のプログラムがある(参照)。

CICPにも、2021年6月24日時点での、コロナワクチン接種による死亡事例を把握していないか確認したところ、以下の回答だった。

(質問1)
2021年6月24日時点で、CICPに申し立てられた、コロナワクチンに関連する死亡事例は何件でしょうか?
(How many death cases related to Covid-19 vaccine were alleged to the Countermeasures Injury Compensation Program (CICP) as of June, 24, 2021?)
(回答1)
2021年7月1日(CICPの過去のデータが集計され公表された2021年6月24日に最も近い日)の時点で、コロナワクチンにより死亡したとする16件の申立てがCICPに提出されていました。
(As of July 1, 2021 (the nearest date to June 24, 2021 that historical data was compiled and released publicly for the CICP), 16 claims were filed with the CICP that alleged COVID-19 vaccines resulted in death.

(質問2)
2021年6月24日時点で、CICPが認めたコロナワクチンに起因する死亡事例は、何件でしょうか?
(How many death cases did CICP acknowledged these were caused by Covid-19 vaccine as of June, 24, 2021?
(回答2)
2021年7月1日時点で、CICPは、これらの申立てについて補償の対象であると認めていません。

(As of July 1, 2021, the CICP had not determined that any of these claims were eligible for compensation.

(質問3)
現時点で(2024年4月24日)、CICPに申請された死亡事例と、CICPがコロナワクチンに起因する死亡事例であると認めた件数は、それぞれ何件でしょうか?
(How many death cases related to Covid-19 vaccine were alleged to CICP and How many death cases did CICP acknowledged these were caused by Covid-19 vaccine at present?)
(回答3)
2024年4月1日時点で、656件のコロナワクチンが原因で死亡したとの申立てがCICPに提出されています。 現在までのところ、コロナワクチンに起因する死亡を主張する申立てで、補償を受けたものはありません。

(As of April 1, 2024, 656 claims have been filed with the CICP that allege COVID-19 vaccines have resulted in death. To date, there are not any CICP claims alleging death from a COVID-19 vaccine that have received compensation.)

CICPでも、2024年4月時点で、申し立ては656件あるものの、コロナワクチンに起因する死亡であるとして補償を認めた事例は存在しない、という回答だった。

したがって、CICPの発表に基づいても、「アメリカでは2億回ワクチンを接種して亡くなった人はいない」は、形式的には「正しい」ということとなる。

ただし、そのことは、「コロナワクチン接種による死亡者が存在しない」ということを意味するものではないことに注意が必要だ。少なくとも日本では2024年12月6日時点で915件の死亡事例が認定されている。この点については、今後の調査・研究も必要なところであり、現時点で断定できるものではない。その意味では、「アメリカでは2億回ワクチンを接種して亡くなった人はいない」と2021年6月時点で、ワクチン接種の担当大臣が断言したことが、リスクコミュニケーションとして適切であったか否かについても、冷静な検証が必要だろう。

(冒頭画像:河野太郎大臣とYoutubeとの対談動画より)

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