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【FactCheck】トランプ次期大統領はどのくらい誤った発言をしていたのか?

【FactCheck】トランプ次期大統領はどのくらい誤った発言をしていたのか?

次期大統領への就任が決まったドナルド・トランプ氏。選挙戦で事実と異なる発言を繰り返したことが指摘されている。それは実際に、どのようなものだったのか?アメリカの代表的なファクトチェック・メディアの記録を確認すると、選挙戦での発言の7割以上で事実と大きく異なる内容があったと判定されていた。(立岩陽一郎)

老舗ファクトチェック・メディアPolitiFact

フロリダ州セントピーターズバーグにあるPolitiFact。世界のファクトチェッカーに1つのモデルを示しているとも言える老舗のファクトチェック・メディアだ。2007年に前身のタンパベイ・タイムズ紙が大統領選挙について候補者の発言を流すのではなく、候補者の発言の真偽を確認して報じようと始めたのが始まりだ。その報道は高く評価され、その後、ファクトチェック部門が独立してPolitiFactとなった。現在もその報道が世界のファクトチェッカーの見本となっており、InFactも多くを学んできた。トランプ氏の発言を最もファクトチェックしているメディアであることは間違いない。

トランプ氏発言の7割強で虚偽・誤り

上がPolitiFactがまとめたトランプ氏の発言のファクトチェックの結果だ。日本語にすると以下の様になる。

1070の発言をチェックした結果、虚偽が19%、誤りが38%、ほぼ誤りが19%。つまり、事実と大きく異なる発言が76%にも上ったということだ(98%となっているのは小数点を切り捨てたことによる)。

では、実際にはどのような発言が有ったのか。例えば、アメリカ国民全員が医療保険に加入できる医療保険制度についての「私は廃止するなどとは言っていない」との発言は虚偽と判定されている。また、対立候補だった民主党のカマラ・ハリス氏について「カリフォルニア州の司法長官だった時に、児童の性売春犯罪、強力な武器による殺傷、意識の無い人への性暴力を非暴力犯罪と定義づけた」と発言したことについて誤りと判定している。

一方、ハリス氏についてはどうだったのか。下が、ハリス氏へのファクトチェックをまとめたものだ。

これを日本語でまとめると以下になる。

ファクトチェックの対象となった発言自体が65と少ないが、虚偽と判定された発言はなく、「誤り」と「ほぼ誤り」を加えても、事実大きく異なる発言は全体の42%だった。尚、ファクトチェックの対象が65にとどまったことについては次のサンダース編集長のインタビューで彼女が語っている。

編集長ケイティ―・サンダース「有権者はファクトチェックを求めている」

これらのファクトチェックをPolitiFactはどのように行ったのか。大統領選挙の最終版となった2024年10 月31日(現地時間)にPolitiFact本部を訪ねて編集長のケイティ―・サンダース(下・写真)に話をきいた。

先ず、PolitiFactはどのような体制で大統領選挙をファクトチェックしているのか尋ねた。

「PolitiFactは、デスクが私も含めて4人。その他にコピーチーフ(校閲)が1人。その下に、政治担当の記者が4人、ネット上の誤情報を担当する記者が6人、読者からの情報提供を担当する2人。それらの記者を情報検索で支援するリサーチャーが1人。それ以外にスペイン語で記事を書く記者が2人がいます。」

総勢20人ということだ。さすがは世界のファクトチェックのモデルと言われるPolitiFactだが、それには理由がある。PolitiFactはInFactと同じ非営利メディアだが、Poynter Institute(下・写真)というメディア研究の財団が運営している。このため、PolitiFactはInFact同様に寄付を集めてはいるものの、活動資金の多くをPoynter Instituteの支援によって賄うことができる。ケイティ―が編集長室を持つPolitiFactのオフィスはPoynter Instituteの中にある。因みに世界のファクトチェックをつなぐIFCNもこのPoynter Instituteが運営している。

ただし、20人のスタッフはPolitiFactのオフィスにいるわけではなく、全米に散っているという。では、この中で実際に大統領選挙のファクトチェックを担ったのはと尋ねてみた。

「トランプ担当、ハリス担当をともに2人置いたが、他の記者も移民問題、妊娠中絶問題、経済、LGBTQの専門家もいるので、担当以外も含めてファクトチェックに関わるし、トランプ担当がハリス関係の記事を見ることも、その逆もあった。」

どのようにファクトチェックは行ったのか?

「トランプ、ハリス以外の政治家も含めて、主には日曜日のテレビ番組が重要。それを月曜日に議論してファクトチェックする形だった。」

記事は記者が書いたものをデスク1人が確認し、それをどうレーティングするかを他の2人のデスクが加わって最終的に判断する形だという。時に、編集長のケイティが判断することもあるが、基本的に3人のデスクを信頼して任せるケースが多かったとのこと。

前述の通り、トランプ氏のファクトチェックは1070件、ハリス氏のファクトチェックは65件だった。ハリス氏のファクトチェックの件数が少なかった理由については次の様に話した。

「トランプ氏は選挙直前の数日でも事実と異なる発言をしている。ハリス氏はそれほどではないが、それは彼女が同じことを繰り返しているためで、誤った発言が無いわけではない。」

最後に、この選挙のファクトチェックの結果をどう見ているか尋ねてみた。

「この選挙はファクトチェックが最も求められている選挙だと感じている。有権者は何がファクトかわからなくなっている。しかし、ファクトチェックが求められていることは間違いない。有権者も、読者も、この選挙に関してファクトチェックを求めている。それは2020年よりも更に大きくなっている。私たちは可能な限り(just cover as much as possible)ファクトチェックを続けなければいけない。ファクトチェックの先に私達は希望を見出すことができる。」

PolitiFactの記事は他の放送局や新聞社などへも提供しているという。

帰国後にサンダース編集長から参考記事が送られてきた。トランプ氏の選挙戦での公約をまとめたものだった。PolitiFactは既に大統領就任後のファクトチェックの準備に入っているということだ。

12月17日(日本時間)、PolitiFactは「2024年の虚偽」を発表した。2024年で発せられた最も深刻な偽情報ということで、それはトランプ氏と次期副大統領のバンス氏が選挙戦で語った「彼ら(ハイチからの違法移民)はペットを食べている」だった。

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