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【FactCheck】「再稼働が進んでいるか否かで、電気料金に東西の格差が生じている」は正しいのか?(上)

【FactCheck】「再稼働が進んでいるか否かで、電気料金に東西の格差が生じている」は正しいのか?(上)

2024年に行われた自民党総裁選の候補者討論会で、小林鷹之議員が「再稼働が進んでいるか否かで、電気料金に東西の格差が生じている」と発言した。それは正しいのか?ファクトチェックした。

対象言説

再稼働が進んでいるか否かで、電気料金に東西の格差が生じている」(9月14日の自民党総裁選候補者討論会での小林鷹之議員の発言)

結論 【ミスリード】


問題の言説は2エンマ大王となる。

エンマ大王のレーティングは以下の通り。

  • 4エンマ大王 「虚偽」
  • 3エンマ大王 「誤り」
  • 2エンマ大王 「ミスリード」「不正確」「根拠不明」
  • 1エンマ大王 「ほぼ正確」

InFactはファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のメディアパートナーに加盟しています。この記事は、InFactのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。

ファクトチェックの詳細

これは自民党の小林鷹之議員が2024年9月14日に日本記者クラブで行われた自民党総裁選の候補者討論会で発言したものだ。小林議員が石破議員に原子力発電(以下、原発)政策について尋ねた時のものだ。発言は以下だ。

「石破候補に原発政策について質問させていただきます。今後電力需要は劇的に増加していくわけですね。経済成長を続けるためには、安価で安定した電力供給が不可欠になると。私はバランスの取れた電源の構成が必要であって、特にこの再エネに偏りすぎた現行のエネルギー基本計画は、年内にも私は変えるべきだと思っています。安全性が確認された原発の再稼働、そしてリプレイス、新増設、私は取り組んでいくべきだと考えていまして、再稼働が進んでいるか否かで、電気料金に東西の格差が生じているんですね。石破候補は先月「原発ゼロに近づける努力を最大限にする」とおっしゃり、今月に入って「原発ゼロを実現するとは考えていない」と述べたと伺っております。結局、原発ゼロ、少なくとも原発比率を下げるというお考えなのか、仮にそうである場合、電力需要はこれから激増すると見込まれる中で、どうやって安価で安定した電力供給を確保していくのか、お考えをお聞かせいただければと思います」(2024年9月14日の日本記者クラブ「自民党総裁選立候補者討論会」より

原発の再稼働と電気料金の関係

小林議員の発言通り、原発の再稼働が進んでいるか否かで、電気料金に東西の格差は生じているのだろうか。ここでは、電気料金と原発の再稼働の関係を調べるため、原発を所有している大手電力会社を確認の対象とした。

全国10大電力会社は2024年12月26日、9月から11月の平均燃料価格が確定したことを受け、一斉にプレスリリースで2025年2月(2024年1月使用分)の電気料金を発表した。原油、LNG(液化天然ガス)、石炭などの燃料価格の変動を受けて、電気料金も影響を受ける。

その結果、各社の2025年1月分の電気料金は次のようになっている。各社のプレスリリースから、基本モデルの値段を引用した。また、11月1日段階で原発を再稼働したのは、東北、関西、四国、九州の4電力会社の7原発13基である。各社の電気料金と、再稼働の関係を整理すると次のようになる。なお、各社の電気料金は「平均的なモデル」から引用した。

再稼働している電力会社値段(円)再稼働していない電力会社値段(円)
東北電力8,080北海道電力8,833
関西電力7,014東京電力8,174
四国電力7,838中部電力7,914
九州電力6,923北陸電力7,084
  中国電力7,721
  沖縄電力8,813
先ず、再稼働している電力会社を見てみたい。最も安い九州電力が6,923円で最も高い東北電力が8,080円。再稼働していない電力会社は最も安い北陸電力が7,084円で最も高い北海道電力が8,833円。ここで小林議員の発言にある「再稼働が進んでいるか否かで、電気料金に東西の格差が生じている」は、正確ではない点は指摘しないといけない。再稼働している電力会社の中でも東西格差はあり、再稼働していない電力会社の中でも北海道電力と中国電力との電気料金差は既に約1100円もあるからだ。更に、再稼働している東の東北電力と、再稼働していない西の中国電力では、再稼働している東北電力の方が電気料金が高いという事実もある。
 
ただし、文脈からすると、小林議員の発言は原発再稼働によって電気料金が下がるという趣旨だと考えられる。その点について考える上で、双方の平均値を出してみた。その結果は、再稼働している電力会社の平均料金は7,463.7円、再稼働をしていない電力会社については原発を利用していない沖縄電力を計算から外すと、その平均は7,945.2円となる。
 
個別の会社に差異はあるものの、平均値で見れば確かに原発を再稼働している電力会社の方が電力料金が高くなっていると見えなくもない。では、これは再稼働が電気料金に影響した結果なのだろうか?
 
InFactは、同年10月段階で原発を再稼働している関西、四国、九州の3電力会社に、電気料金と原発の再稼働の関係を尋ねた。3電力会社全てから回答があった。この問い合わせの後に、東北電力は女川原発を再稼働したので、東北電力には問い合わせていない。電力各社の回答は以下だ。
 
四国電力:「電気料金は、電気事業の運営に必要となる原価をもとに、経済産業大臣による認可を受けております。この原価には、固定費や燃料コストをはじめとする可変費がありますが、可変費の安価な原子力発電が稼働することで、電気料金の算定の元となる原価が圧縮され、電気料金の引き下げが期待できます」。
 
九州電力:「原子力発電の再稼働により、燃料費が低減され電気料金の引き下げに繋がる」。
 
関西電力:「個別電源の稼働状況による電気料金の算定については、競争戦略上、回答は差し控えさせていただければと存じます」。
 
以上を整理すると、原発を再稼働した3電力会社の電気料金は、少なくとも平均値で見ると再稼働していない電力会社の料金より安価になっている。その理由として再稼働している3社のうち、四国電力と九州電力は、原発の稼働を挙げている。小林議員の発言にある「再稼働が進んでいるか否かで、電気料金に東西の格差が生じている」については、「東西の格差」については正しくないが、発言の趣旨である再稼働によって電気料金を安くできるという点は正しいように見える。
 
ところが、実際には、そう簡単ではない。それを示唆しているのは、実は再稼働している関西電力の回答だ。電気料金の設定はそう単純なものではないからだ。次回の(下)で、その内容を掘り下げつつ、発言の何がミスリードなのかを伝える。

なお、これらの事実を踏まえ1月20日に小林議員に見解を尋ねた。2月1日時点で回答はないが、今後回答があり次第、記事に反映させる予定だ。

三井滉大

(編集長追記)

InFactは反原発でも原発推進でもない。以前の処理水についてのファクトチェック記事でも明確にしているが、発せられている情報の事実関係の確認に専念している。その点は明確にしておきたい。

24年9月の発言を取り上げることに違和感を覚える読者もいるかもしれない。InFactは発言の日時ではなく発言の重要性と発信者の影響力を考えてファクトチェックしている。発言者の小林議員はその存在感は自民党の若手の中でも極めて大きく、将来の総裁候補であると考えられる。自民党の総裁候補とは即ち日本の首相候補であり、その発言に注目することは当然のことと考える。また、原発の再稼働をめぐる今回の発言は今後も様々な形で発せられることが予想される。このため、InFactは時間がかかっても掘り下げてファクトチェックを行う必要があると考え、十分な取材の裏付けを得て記事を完成させた。

次回の(下)では、複雑な電気料金に踏み込んで、小林議員の発言の意味するところもファクトチェックする。是非お読みいただきたい。

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