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【Fact Check】マイナ保険証で「なりすまし」は防げない 厚労省が回答

【Fact Check】マイナ保険証で「なりすまし」は防げない 厚労省が回答

政府は、2025年末に現行の健康保険証を廃止し、健康保険証はマイナンバーカード(以下、マイナ保険証)を基本とする仕組みに移行することを予定している。政府が「マイナ保険証」を推進する理由の一つとして挙げているのは、他人が健康保険証を不正利用する「なりすまし」の防止だ。本当に「マイナ保険証」を活用すれば「なりすまし」は防止できるのか。厚生労働省に確認したところ、「完全に防ぐことは難しい」と明言した。

対象言説 マイナ保険証で「なりすまし」は防止できるとする政府の説明

・「なりすまし防止の観点からは、マイナ保険証に一本化するのが望ましいと思います」(2024年11月15日、平将明デジタル大臣、参照
・「現行の保険証は偽造・なりすましを防ぐことができませんから、続けていくということは問題をそのまま引きずることになりますので、現行の保険証を残すことは全く考えておりません。」(2024年8月8日、河野太郎前デジタル大臣、参照

結論 「なりすまし」を完全に防ぐことはできない

マイナ保険証を使用した際の本人確認の方法は、①顔認証・②暗証番号入力の2種類。マイナ保険証には顔写真がある点が、現行の健康保険証とは異なるものの、暗証番号を入力して本人確認を行った場合には顔写真が確認されることはない。そのため、他人が暗証番号を知っている場合には、「なりすまし」をする防止ことはできない。

ファクトチェックの詳細

マイナ保険証で「なりすまし防止」は可能?

医療機関でマイナ保険証を使用する際にカードリーダーを使用して本人確認をすることになるが、マイナ保険証を使った本人確認の方法は、①「顔認証」と②「暗証番号入力」の2種類がある。
医学博士の鈴村泰氏は、暗証番号を知っている他人であれば、暗証番号による本人確認の方法を選ぶことにより「なりすまし」(不正利用)が可能だと主張している(参照)。

InFactは「マイナ保険証」の推進に対して、賛成でも反対でもない。この記事は、マイナ保険証を推進する理由の一つである「なりすまし防止」について、事実を確認するものだ。

先ず、以下をご覧いただきたい。マイナ保険証の使い方を説明したものだ。

厚生労働省の「マイナンバーカードの健康保険証利用方法」より(参照)。赤枠は筆者。

上記のシステムを踏まえて、政府がマイナ保険証を推進する理由の一つとして「なりすまし防止」を掲げている点を確認する。
河野太郎前デジタル行財政改革担当大臣が、マイナ保険証推進の理由として繰り返し「なりすまし防止」を主張していたことは記憶に新しい。

「紙の保険証は、偽造・なりすましを防ぐことができません。・・・マイナ保険証への移行は必要になってくると思います。」(2024年9月3日、河野太郎前デジタル大臣、参照

「現行の保険証は偽造・なりすましを防ぐことができませんから、続けていくということは問題をそのまま引きずることになりますので、現行の保険証を残すことは全く考えておりません。」(2024年8月8日、河野太郎前デジタル大臣、参照

また、現在の平将明デジタル行財政改革担当大臣も、マイナ保険証推進の理由として「なりすまし防止」を挙げている。

「現行の健康保険証は、ICチップも顔写真も入っていないため、悪用されることがあり得ると考えています。具体的には、なりすまし受診を防ぐということ」(2024年11月29日、平将明デジタル大臣、参照

「資格確認書には写真もICチップも入っていないということで、なりすましのリスクは高いと思います。政策のバランスだと思います。なりすまし防止の観点からは、マイナ保険証に一本化するのが望ましいと思います」(2024年11月15日、平将明デジタル大臣、参照

そこで、デジタル庁に、マイナ保険証で「なりすまし」を防げるのか確認した。デジタル庁政策広報担当からの回答は以下のとおりだった。

庁内にて確認したところ、いずれもマイナ保険証の仕組みなどに関連する内容のため、制度を所管する厚生労働省にお問い合わせいただけますでしょうか。

デジタル大臣は「なりすまし防止」を理由としてマイナ保険証を推進しているが、仕組みの確認については厚生労働省に確認して欲しいとのことだ。

厚労省の回答は?

そこで、2月17日、厚生労働省保健局に電話で確認したところ、回答は以下のとおりだった。

Q マイナ保険証を使用する際に、暗証番号による本人確認を行った際には、「なりすまし」は防げないという理解は正しいか?

A おっしゃるとおりです。「なりすまし」を完全に防ぐことは難しいです。
ただし、健康保険証のように顔写真もなく、暗証番号の入力が不要といったところよりは、まだ「なりすまし」を防ぐ効果はあるというところです。

あっさりと、暗証番号による本人確認の方法を使えば、「なりすまし」を完全に防止することは難しいとの回答が返ってきた。後段の「健康保険証のように顔写真もなく、暗証番号の入力が不要といったところよりは、まだ「なりすまし」を防ぐ効果はある」との説明を軽視するものではないが、「なりすまし」を防止できるとの説明が正しいと言えるものではない。

なお、医療機関がマイナ保険証のカードリーダーを導入する際の、「オンライン資格確認等システム利用規約」(参照)の第20条2項には、暗証番号で本人確認を行った際に、「例えば過去の診療履歴に照らして血液型が違っている等、本人であることに合理的な疑いがある際、サービス利用者は患者に本人確認書類の提示を求め、個別に本人確認を行うことができます。」と定められている。

暗証番号による本人確認の場合でも、過去の診療記録から本人でないと判断して「なりすまし」を防止することは出来そうだ。


しかし、医療機関による過去の診療情報の閲覧のためには、毎回、本人の同意が必要とのことだ(参照)。「なりすまし」の場合には、過去の診療情報の閲覧に同意する可能性は低いと思われるため、過去の診療情報から「なりすまし」を判別することは難しいだろう。

以上のとおり、現行の保険証よりも「なりすまし」を防止できる可能性は高まるかもしれないが、マイナ保険証を使用しても完全に「なりすまし」を防止することは困難だ。

冒頭画像:マイナ保険証を推進する理由を説明する平将明デジタル行財政改革担当大臣(2024年11月15日、参照

(田島輔)

(ファクトチェッカー追記)

このファクトチェックは、医学博士の鈴村泰氏から依頼を受けて実施したものだ。鈴村氏は、マイナ保険証では「なりすまし」は防げないと主張しており、この点についてファクトチェックしてほしいと依頼を受けた。このファクトチェックに関して鈴村氏とInFact編集部との間で直接のやり取りはなく、あくまで事実を積み重ねた結果、鈴村氏とInFactのファクトチェックの結果が同じものになったという点は書き記しておく。

(編集長追記)

鈴村泰様のお名前に一部、誤記がありました。鈴村様にお詫びして訂正させて頂きます。

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