
南部の保守派にも広がり始めたトランプ大統領に対する反発。ただし、それでも民主党への投票には踏み切れない人も多い。他方、地域で強い影響力を持つ教会が、トランプ大統領への反発をあからさまに示す動きも出て来たようだ。この動きは信仰心の厚い保守派の人びとには大きな影響を与えると思われる。(取材/立岩陽一郎)
デールとニッキーの夫妻は毎週日曜日に教会に行く。これは当然のルーティンとなっている。11月1日の日曜、私も教会に連れて行ってもらった。グレースポイント教会。前回の大統領選挙でも連れて行ってもらっており、そこでクリス・ハーリントン主任牧師(Lead Pastor)に選挙について、候補者だったトランプ大統領について話をきいている。あれから2年間でハーリントン牧師の中で何が変わり、何が変わっていないのか。それを確かめたかった。
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(GRACEPOINT CHURCH 2024年11月にデールと訪れた際に撮影)
この日はサマータイムが終わり、時間が1時間戻る。これまでの午前7時が午前6時になるということで、1時間余分に眠れるということだが、時差ボケの私にはあまり関係ない…と思ったらそうでもなく、朝方になって眠くなり、起きたら9時過ぎだった。この日、11時に教会に行くことになっていた。
教会に着くと、既にバンドによる歌が始まっていた。そこは白人の家族ばかりだ。前回も入るのに気後れするところが正直言ってあった。それは今回も変わらない。皆、アジア人の私を一瞥するからだ。デールが知人に「日本からの友人です」と伝えると皆が安堵の顔になる。そして「ようこそ」と言って手を差し出す。あくまで旅人だという認識が共有されることが重要という事なのだろう。
バンドのメンバーも同じだった。ディスプレイを見ると、歌っているのは牧師で、当然だが、イエス・キリストの歌を歌っている。ただ、讃美歌ではない。バンジョーも入っているが、カントリーソングというわけでもない。フォークソングに近いが、そう言えるほど私は音楽に通じているわけではない。ただ、庶民的な歌詞でないことは明らかで、歌うのは神の思いであり、神の力だ。

牧師ではあるが歌唱力はプロと言って良い。彼の心地よい歌声が教会を包み、参加者の中には片手を掲げて思いを共有する人も多い。見ると、小学生の子供達もいる。皆歌を覚えているのだろう。大人と「ジーザス」と歌っている。教会が地域の中心にあることを感じさせる場面だ。
歌が終わるとクリス・ハーリントン(Chris Harrington)主任牧師が登壇した。冒頭の写真がそれだ。まだ50歳前後と思われる。エネルギッシュで、当然だが話がうまい。英語もきれいなので私でも理解しやすい…と言いたいところだが、聖書の話になるとそう簡単ではない。それでも最初の発言は明確に理解できた。
「選挙が有ります。投票は大事です。投票に行ってください。」
ハーリントン牧師は開口一番、そう語った。これは前回も同じだった。しかし、その後は聖書の話に直ぐに移った。2年前の前回は違った。「なぜ投票が大事なのか?神の訓えは?協会は世俗の選挙をどう見ているのか?」といった話が続いた。「私は誰に投票しろとは言わない」と言いつつも、カマラ・ハリスを推していないことは教会に集った全ての人が共有していた。
1時間にわたる聖書の話は、第二次世界大戦の話も踏まえる興味深いものだったが、それの全てを書ききるほどの英語力は無いのでここでは割愛する。ただ、首題は「Armor of God」(神の武器)であり、サタンとの闘いだった。それがデールをはじめタフネスに重きを置く白人男性の思い、それを求める白人女性の感覚に通じる…これは勝手なめい想だが。
説教が終って参加者と談笑しているハーリントン牧師に話しかけると、「覚えてますよ。息子さんと来ていましたね」と答えてくれた。覚えてくれていたことに謝意を表したが、この教会に現れた黄色人の印象は強く残っていたということなのかもしれない。そのくらい白人以外の人を見ることのない地域だ。
投票の重要性を話されていましたね?との質問から始めた。
「ええ。投票は世俗のことをしっかりやることが神の意志です。投票を強要することはできませんが、人びとの務めだと伝えています」
ハーリントン牧師は既に私の来訪の意図も思い出しただろうが、特に嫌な顔をせずに笑顔で応じてくれた。それを見て安堵した私は、単刀直入にきくことにした。
「2年前の大統領選挙の時、あなたは誰に投票しろとは言わなかったが、明らかにトランプ氏を想定していたと思う」
こう言い切って牧師の顔を見たが、牧師は大きく頷いたので質問を続けた。
「今も同じ気持ちでしょうか?」
ハーリントン牧師は、「私のハンブルな意見だと断ってお答えしたいと思います」と言って、続けた。ハンブルとはつたないと言った感じだろう。
「トランプ大統領を支持することはできません。理由は2つです。国家の負債です。それと戦争です。このどちらも大統領は十分に説明していない。国家の負債など関係ないかのようなことを口にしますし、戦争に至っては、少なくとも2年前はあらゆる戦争に反対する考えを示していました」
いきなりの正論は予想を上回るもので、質問を出せなかった。それを見てハーリントン牧師が続けた。
「勿論、今回はトランプ大統領を選ぶ選挙ではありません。でも、トランプ大統領に対する我々の意志を示す選挙であることは間違いありません」
私はまだ質問が出せずに牧師の顔を見ていた。それを見て牧師は続けた。
「私は皆さんに話をする場では誰に投票すべきと言ったことは言いません。それはすべきではありません」
しかし、と牧師が言った。
「様々な活動の中で皆さんから誰に投票したら良いかと問われることはあります。その時は素直に私の考えを伝えています」
今回もそうですか?とやっと質問が出来た。
「はい。今回は特に問われることが多いです」
この後、牧師は逆に私に質問して良いかと尋ねてきた。
「日本の皆さんはこの大統領をどう見ているのですか?」
ここでそれを書くのは避けるが、まともな日本人は彼の関税政策、外交政策に懸念を持っていると伝えた。ハーリントン牧師は大きく頷きながら聞いていた。
牧師に礼を言って離れると、デールとニッキーが待っていた。
「ずい分と長く話していたけど、良い話がきけた?」
デールが笑いながら言ったので、「牧師は2年前のことも覚えてくれていて、いろいろと話をしてくれた。有難う。デールのおかげだよ」と伝えた。
翌日の11月2日、デールに送ってもらってアトランタの空港に行き、また首都ワシントンに戻った。そして最後の仕事をこなすために中心部のファラガット・ウエストに地下鉄で向かった。ここに世界のファクトチェックをリードするパリティファクトのワシントン支局がある。そこでチーフコレスポンデントのルイス・ジェイコブソン(Louis Jacobson)に会うことになっていた。

(Iストリートと18ストリートにあるポリティファクト・ワシントン支局の入ったビル)
約束の午後2時に支局に行くと、ルイスはトランプ大統領の中間選挙をしめるクロージング・スピーチをしていた。「ファクトチェックの作業をするけど、見ててくれる?話しかけてくれて良いので」と言われたので、横で見ることにした。
当然だが違和感のあるスピーチで、リンカーン記念堂前の人口池をきれいにしたという自身の取り組みを語るだけのものだった。ところどころにオバマ、バイデン政権が失敗したという説明を強調していたが、中間選挙で有権者に呼び掛けるものではなかった。

(トランプ大統領のファクトチェック)
ルイスは自動文字起こしをチェックしながら、ファクトチェックの対象となる言葉を見つけてはそれをデスクに投げる作業をしていた。
作業をしながらその内容を説明してくれた。演説は40分ほどで、いくつかファクトチェックの対象となる発言が有った。例えば、人工池についても破壊行為が行われたと事実に基づかない発言を繰り返していた。また、トランプ関税によって各国からアメリカへの投資が行われた結果、得られたとする金額もルイスによるとその時によって大きく異なる。

(ルイス・ジェイコブソン主任記者)
「基本的に、全くの嘘を言うということではないが、物事を自分の都合の良いように変えて言うところが顕著になっている」
ルイスは苦笑いしながら言った。
「普通の大統領は自分が話すことをスタッフにチェックさせるが、恐らくトランプはそうしたことをしていない。自分が言いたいことを言うという感じだろう。だから事実関係はどうでも良い、となる。スタッフもトランプのやりたいようにやらせるということなのだろう」

(アンジー・ホーランIFCN代表)
PolitiFactは世界のファクトチェックを束ねるIFCNの中核となるファクトチェック団体だ。事務所にはIFCNのアンジー・ホラン(Angie Holan)代表もおり、日本のファクトチェックの状況について話を聞きたいというのでしばし話をした。彼女はベテランのジャーナリストで、私のアメリカン大学時代の恩師であるチャールズ・ルイス(Charls Lewis)とも親交がある。彼女に中間選挙、そして選挙後について話をきいた。
「事前の投票の状況を見ると、やはり民主党が下院で過半数をとるのはほぼ間違いないでしょう。上院も民主党が勝つという報道が多いですが、そこは明日にならないと明確には言えないでしょうね。」
仮に上下両院で民主党が勝った場合、どうなるのだろうか?
「当然、弾劾ということは出てくるでしょうけど、今言われているのは国防長官、彼を弾劾するというのが先になると言われています。先ずは戦争を止めさせないといけないということです」
国防長官…戦争長官のピート・ヘグセスだ。ある意味でトランプ政権を代表する長官と言えるかもしれない。
弾劾は下院によって手続きを始めることができるが、最終的な判断を下すのは上院だ。上院の3分の2の判断で有罪となる。有罪となれば罷免となる。トランプ大統領も弾劾の対象と成り得るのか?
「勿論、成り得るでしょう。ただ、1期目で弾劾の手続きに入って無罪になっているので、そこは民主党もどう出るかは考えないといけないでしょう」
ルイスとアンジーに謝意を伝えて建物を出た。既に夕方になっていた。ラスと会ったデュポン・サークルまで歩いたのは何か頭の中をまとめたいからだった。報道では既に勝負はついたようになっている。民主党が上下両院で過半数を制するということだ。
本当にそうなのか。そうなったら次に何が起きるのか。仮にヘグセスが弾劾されて有罪になったら、それで終わりとなるのだろうか?次は当然、大統領の弾劾になるのではないか?そうなると、自身が選挙に負けた2021年の1月6日みたいに暴動が起きることは無いのだろうか?仮にそうなれば、アメリカの分断を更に拡大させるものになるのではないか。
私とは必ずしも同じ考えではないデールもニッキーも、素敵な友人であることに変わりはない。しかし、仮に分断が更に加速した場合、私は果たして彼らと友人でいられるのだろうか。そんなことを考えつつ、夕方の首都を歩き続けた。

